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5 野生の同級生が飛び出してきた!

 「あれ? ヤマトだ。あれ、ってことはムーンは? でも女の子だし……」


 濃い茶髪に高い背をしたおっとり顔の眼の前の女の子は、里野(さとの) 星奈(せいな)。プレイヤーネームはカリン。同級生のゲーマーだが、夏前には『欲しいけど高くて買えない……つらい……』と嘆いていた。なのに何故ここに居るのか。

 さて、名前が同じなだけならいくらでも誤魔化せるが和希と一緒に居る以上誤魔化すのはちょっと厳しい。


「あー、もう良いや。今プラベ部屋取ったから一緒に来い」

「ムーン、良いのか?」

「どうせこのネームでお前と一緒に居る時点で割れたようなもんだし。下手に噂される方がめんどくさい。早く行こう」

「なんか分かんないけど分かった!」


 どっちだよ。


 3人でぞろぞろと中に入っていく。個室は4人部屋で、荷物などを置いてもゆったり出来るくらいの広さで快適だ。

 全員座って一息ついた後、ハテナマークを頭に浮かべていそうな顔をしている星奈にこれまでの経緯を話す。


「うーん、つまりムーンは女の子になっちゃったって事?」

「そういう事だ」

「良く信じたねー」

「まあ、絶対俺とムーン以外知らない秘密答えたからな……お前も信じられないなら質問してみろ」

「俺とカリンにそんな秘密ないぞ」


 そもそも星奈とは高校生からの付き合いである。残念ながらそんな秘密は存在しない。


「んー、でも私は信じるよ。ヤマトが信じるって事はそうなんだろうし」

「あっさり信じてもらえるのは嬉しいがちょっと詐欺とかに引っかからないか心配になるな」


 こんなに簡単に信じるとか本当に大丈夫だろうか。抜けてる所がかなりあるからな。


「そういえば、結局服はどうする事にしたんだよ」

「あー、色々考えたんだけどな。お前に適当にサイズ合いそうな子供服買ってきてもらおうかなって」


 また頼る事になるが仕方ない。服さえあれば今後はなんとかなる。


「了解、後で買ってくる……って、どうしたカリン?」

「ねえ、ムーン。さっきの話によると今の姿ってリアルそっくりなんだよね?」

「え、そうだけど。どうした」


 なんか急に割り込んできたカリンが凄い形相でこちらを見ている。なんでだ。


「まさかとは思うけど、その子供服って男の子の買ってきてもらう気じゃないよね?」

「いや、そのつもりだけど。だって俺男だぞ?」

「駄目に決まってるでしょ! こんなに素材が良いのに体が泣いてるよ!」

「この体は俺のだし泣いてないんだが」


 なんだか星奈が変な事を言い出した。そんなファッション詳しかったっけ。良く分からないがとにかくスイッチが入ったらしい。


「今度、いや明日にでもそっち行って買い物行くよ、分かった?」

「えー……女物の服着るの嫌なんだが……」


 かわいい服とか真っ平ごめんだ、羞恥心にダイレクトアタックされるのが目に見えている。見えている地雷を踏みに行く奴がどこに居るのか。そんな自分を他所に星奈は勝手に盛り上がっている。


「何が良いかなあ。かわいい系も似合いそうだけど、素材が良いからシンプルなのも似合いそうだし……」

「おーい、カリン?」


 あっ、駄目だこれ話聞いてないわ。こういう時の星奈は何を言っても無駄だ。まあ、明日になったら少しはテンションは下がってるだろうし、女子に服を見てもらえるならそっちの方が良い。当日は適当におすすめを受け流して最終的にはボーイッシュなのを買っておこう。うん、完璧。


「そういえば、カリンってPPO買えないって言ってたよな? 結局買えたのか」

「なんとか親に頼み込んで借金して……おかげでバイト地獄だよー」

「それ、ゲーム遊ぶ時間減って本末転倒じゃない?」

「発売日から遊びたかったの!」

「あー、まあ気持ちは分からなくもない」


 星奈はおとなしめの見た目に見えて割とヘビーゲーマーである。自分も結構なヘビーゲーマーだと思っているが、ゲームによっては俺より良い成績を残したりしているので侮れない。特にシューティングは特に大得意である。そんな彼女が背負っているのは当然というか、弓だった。


「やっぱ弓か。VRだけど命中率とかどう?」

「んー、今の所体感命中率98%って所かな」

「うわぁ……」


 つい声が出る。まだ雑魚しか居ないとはいええげつない。本当にVRゲーム初体験なのか?


「そういうそっちはどうなの?」

「俺は速攻終わった。ムーンは……」

「おい、待て」

「え、なになに? 気になる!」

「小さくなった体で手間取って大剣に振り回されながら空振りしまくってたぞ。2時間くらいかかった」

「えー、なにそれ可愛い!」

「可愛くない!」


 大体、空振りこそしたが振り回されてはいない。風評被害をまき散らすのはやめて頂きたい。


「あ、じゃあせっかく3人揃ったしユニーク倒しに行かない? 草原に1体居たよね」


 ユニークモンスター、通称ユニークとは普通のモンスターとは違う半ボスモンスターのような連中の事である。大抵のゲームではレベル差が無いと1人では敵わない。少なくとも今の自分なんか吹き飛ばされてボコボコにされるのがオチだ。


「3人で倒せるか? 微妙な所じゃ」

「まあ、物は試しって事で。それにムーンちゃんが戦ってる所見てみたいし!」

「そっちが本音かよ。あとちゃんを付けるなちゃんを。中身男にそれは気持ち悪いぞ」

「小さい子には男の子相手でもちゃん付けするし問題無くない?」

「お前の中で俺の扱いどうなってんの?」


 そもそもいくら年下と言っても中学生男子にはちゃん付けしないだろ、というツッコミはキリが無いので自重しておく事にした。

 ユニークモンスターを倒しに行くために席を立ち上がろうとすると、星奈が急に真面目な顔で話始めた。


「ねえ、私たちの間ではタメ口でも良いけど、他の人と居る時は女の子らしい言葉遣いにした方が良いよ? ムーンがどう思ってても今の見た目だと悪目立ちするし」

「確かにそれはそうだな。けど女の子らしい口調なんてできないぞ俺」

「余所行きの丁寧口調ならどうだ? それなら出来るし違和感無いだろ」

「確かに、それなら出来そうだな」

「ちょっと試してみたら?」


 うーん、出来るだけ丁寧に、一人称は私が良いか。敬語を使うくらいの感覚で……


「こんにちは。私はムーンです、よろしくお願いしますね。……こんな感じ?」

「ねえ、今の口調で『初めまして、カリンお姉ちゃん』って言ってみてくれない?」


 なんか嫌な予感がするが、言ってみよう。


「……初めまして、カリンお姉ちゃん」

「~~~!!!」


 カリンが胸を押さえて勝手に感動している。

 

「大丈夫か。なんか勝手に悶えてるぞ」

「まあ、これはこれで面白い所見れたし良かったかな」


 カリンの珍しい姿を見れて、俺は少しの満足感を得たのだった。


 なお、この後事ある毎にカリンお姉ちゃんと呼ぶ事を要求されるようになり後悔したのはまた別の話だ。

次回、ユニークモンスター戦闘!

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