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「ぎゃー! インクこぼした!」
「おい、それは重要書類だ! それで拭くな!」
「タオル! タオルは!?」
アートが賛成してくれてもカオスな状態は止まらない。結局エリアスの許可がないと休暇は取れないのだ。
「珍しく賑やかだね」
エリアスに呼ばれたはずのアシェルが執務室に現れた。うんざりした表情のゼインも一緒だ。
「エリアス殿下はどうされたんですか?」
「ネコを捕まえに行ったよ」
アシェルの言葉を受けて、側近の一人が慌てて出て行く。それまでの事情をかいつまんでアシェルに説明すると、後ろにいたゼインの方が過剰に反応する。
「それは絶対にまずいですね。うちの姉なら離婚しているでしょうね」
「そんなにまずいのか?」
「仕事に置き換えたら分かりやすいでしょう。取引相手がなんの連絡もしてこないのに、仕事の関係が続いていると思うんですか?」
ゼインにまで言われると側近達も聞く耳を持ったらしい。
「仕事と婚約は違うだろ」
「政略なら家と家との契約ですし、恋愛で婚約したなら愛した女性でしょう。仕事相手には絶対しない不義理なことを婚約者である女性にはしてもいい、という理論にはなりません」
真面目なゼインの言葉は、クリストファーのやらかしをぐりぐり抉っているようだ。最初は特になんとも思っていなさそうだったクリストファーの表情も、今では心なしか弱々しい。
エリアスが戻ってこないので、その場はゼインに任せてアシェルと部屋を出る。
「次に王宮に来るのは来週だよね? ちょうど来週は視察が入ったんだ。だから会えないと思う。ごめんね」
「視察ですか。最近では珍しいですね」
「ちょっと遠出しないといけないからね。あの調子でいくとクリストファーもいないかもしれないなぁ、ゼインも視察には連れて行くし。もし何かあったらアートに頼るといいかな」
「ふふ。大丈夫ですよ、少し離れているだけですから」
***
全く大丈夫じゃなかった。あの会話が懐かしい。
ちなみにエリアスからすぐ許可が出たので、クリストファーはすぐに婚約者のところに送り出された。兄の方がドナドナされているみたいだ。
その日も勉強を行っている王妃の部屋に入ると、いつも王妃が座る場所には違う人物が座っていた。
もう学生ではないのでさすがに「うわぁ」なんて言わないが、言いたくなる。
あちらの人物も私が入ってきたのは意外だったのか一瞬目を見開いたが、すぐ表情を戻す。
「なぜお前がここに?」
「週に数回、王妃殿下にご指導いただいております。本日もその日でした」
「母上は今日はいない。客人が来るから代わりに俺がもてなすように言われたが、まさかお前だったとは。嫌がらせか?」
それは私に対する王妃からの嫌がらせという意味なのか、それともドナドナキノコと呼ばれる王子に対する王妃からの嫌がらせという意味なのか。
「まぁいいか。他国の客人でも来たら面倒だと思っていた。どうせ今日のこともそこの侍女達から母上に報告されるんだ。お互い、尻尾巻いて逃げていたなんて言われたくないだろう。まぁ座れ」
偉そうに、いや実際第三王子だから偉いのだが。私がいつも通りの席に着くと、ドナドナキノコことスチュアートはテーブルに足を上げた。