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そろそろ完結です。
「うっうっ。ぐずっずびっ」
「フライア、泣きすぎ」
「だって……」
「そうよ、泣きすぎよ。あなたの結婚式だってこの後控えてるんだから」
「友達の結婚式と自分の結婚式は違うのよ」
「そんなこと言ってるブルックリンも鼻水出てる」
「くっ、ハンカチが足りないわ」
「私は十枚持ってきたわよ」
「トーマスはどこ? ハンカチ奪ってこなきゃ」
「アートにも五枚持たせてるからそっちからも奪って」
クロエは着飾って平然としているが、フライアは結婚式の時から泣きっぱなしだ。新婦の親であるハウスブルク伯爵夫妻よりも泣いている。
ブルックリンは式の間は歯を食いしばって耐えたものの、パレード見物のために外に出るともうだめだった。涙腺緩みまくりである。
「今日がエリーの結婚式なんてまだ信じられないわ。早すぎる」
「ほんとよ。あの事件がまだ昨日のように思い出せるわ。あんなに神に祈ったことない」
「やめて、おばさんみたいな発言よ」
「早いのは確かだけど、式してパレードしてパーティーっていう殺人的スケジュールで私は死ぬわ」
「一番大変なのはエリーでしょ。ナディアが参加できなくて残念だわ」
「私がナディアの分まで泣いとく」
「今頃、ナディアは泣くんじゃなくていきんでるわよ」
「あの王太子、絶対被せてきたわよね」
「いや、さすがに妊娠の予定までコントロールは……」
「あの王太子ならあり得るわ。あ、エリーが来るわよ!」
二人の乗った馬車がやってくるのを見てフライアが身を乗り出し、クロエとブルックリンは手を振る。第二王子の成婚パレードが行われる道はさまざまな飾りつけが随所に施されており、人も集まって非常に熱気があった。
「ドレスのデザインはあのままにしたのよね。綺麗だわ。ベールも長くて素敵」
「式の時は傷が見えたけど、ここからじゃ見えないわ」
「太陽の下で見るウェディングドレスもいいわね」
「うーん、アシェル殿下ってほんと黙ってたら王子」
「カエル捕まえてようが何してようがまだ王子よ」
「あの見た目でみんな誤魔化されるんだわ。あ、エリーとちゃんと手つないでる」
「いや、それクロエが言って良いことじゃないから」
「そういえばエリーがメイファアウラ殿下を命懸けでかばったから、臣籍降下してもずっと公爵なんでしょ?」
「そうよね、通常アシェル殿下が賜るのは一代限りの公爵位で子供が受け継ぐときに爵位は落ちるはずなんだけど、そうじゃないのよね」
「エリアス王太子殿下が自分の子供に受け継がそうとしてるんじゃないわよね」
「キャンベル侯爵家とイーデン男爵家が取り潰しになったし、領地はあるから大丈夫よ」
「でも、エリーは毒の後遺症で……」
「やめて、こんな日に。未来は誰にも分からないわよ。そもそも毒の後遺症があろうとなかろうと子供ができるって当たり前じゃないんだから」
鼻をズビズビ言わせながら一通り喋りつくした三人組は、あっという間に去っていった馬車の方向をそれぞれ感慨深そうな表情で見守る。
「さ、パーティーまでに顔をなんとかしないと」
「泣きすぎて頭痛いわ」
「不細工な顔でエリーのパーティーに出るなんて許されないわよ」
「ナディアが激怒するわね」
「ナディアのところは無事に生まれるかしら」
「そればっかりは祈るしかないわ。エリーがパーティーで着るドレスはナディアの調達したシルクなんでしょう? そちらも楽しみだわ」
「次はフライアの結婚式で、その後が王太子殿下の結婚式か。目白押しだわ」
「ねぇ、王妃殿下の体調はどうなの?」
「アートからは危ないって聞いているわ。今年持たないだろうって。これは内密にね」
誰かが撒いていた花びらが風に乗って飛んでくる。
第二王子アシェルと伯爵令嬢エリーゼの成婚パレードはあの事件のこともあり、人出がどの王族の成婚パレードよりも多く見えたそうだ。