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いつもお読みいただきありがとうございます!

メイメイは片手に持った新聞をピラピラさせながら王妃の部屋にやってきていた。


「王妃様よ。スチュアート殿下が出荷されたが見送りせずに本当に良かったのか? 溺愛しておった息子じゃろうに」


王妃はベッドから身を起こしていたが、突然やってきたメイメイに対して眉をしかめる。


「昨晩話したから見送る必要はないわ」

「左様か。普通の母と息子がどうするものなのかワシには分からんから、まぁいいが」


王妃が許可していないにも関わらず、メイメイはどっかりベッド脇のイスに座り梃子でも動きそうにない。


「その癪に障る喋り方はどうにかならないの」

「王妃様よ、機嫌が悪いのぅ。シワが取れんくなるぞ。もしやそなたの二番目の息子がエリーちゃんにベッタベッタしておるから機嫌が悪いのか? まるで窓にへばりつくヤモリのようじゃのぅ、あのベタベタっぷりは」


王妃はすでにそのことを侍女から聞いていたようで、さらに眉根を寄せた。


「びっくりじゃのう。お花摘みでさえ一緒について行くベタベタっぷりじゃぞ。ワシも見たがあれはそろそろエリーちゃんを監禁でもするんじゃないか? 大切なものほど奥にしまい込んでおきたいよのう。分かるぞ。またエリーちゃんが刺されでもしたらワシも大いに嫌じゃし」

「あなたがこの部屋にいると私の病状が悪化しそうよ」

「女の嫉妬は醜いぞ、王妃様よ。自分がしてもらえなかったからとそんな顔をするとは」


王妃はメイメイに何を言っても無駄だと悟ったようで、息を吐いた。


「あなたの異母姉だって送り返されたでしょう」

「そうじゃのう。エリアスが姉上の嫁ぎ先まで紹介してくれたから送り返すというよりもこれまた出荷じゃの。ワイマーク王国を経由して行くだけじゃからな。確かハーレムのある国の十三番目の妻じゃったか? 宗教上の理由で十三は不吉な数字で誰も十三番目の妻にならんかったから姉上ならちょうど良いわ」

「そう。そんな結末にしたのね」

「新聞を読んでおらんか? 音読しようか?」

「侍女から報告を受けているわ。ルルティナ王女殿下の関与は全くなかったことにされて、今回の事件はすべてザカリー・キャンベルの犯行になっていたわね」


今回の事件、逮捕されたのは毒を盛った令嬢とザカリー・キャンベル周辺の者たちだ。毒を盛ったことまで含めてザカリー・キャンベルが計画したことだと世間には発表されている。夜会で毒を盛り、そちらに意識が向いている隙に第二王子及び王太子の婚約者を狙った、という筋書きである。


「そうじゃな。エリアスと側近の方々がそうしたのじゃ。ワイマーク王国へ反感が向かぬようにのう。姉上は良くも悪くも目立ちたい人間じゃから、新聞に一文字も名前が出ておらんのはいい気味じゃ。そのおかげでキャンベル侯爵家はもう跡形もないんじゃが。なんせ婚約解消した相手に嫉妬してこんなことを起こしたんじゃからな。ほれ、この新聞なんぞワシを命を張って庇ったエリーちゃんの勇気を褒め称えておるぞ。これも、これもな」


ピラピラ新聞を振るが、王妃は嫌そうに目を背けた。


「何が言いたいの。あの子が無能じゃないとでも言いたいの?」

「王妃様が寂しんじゃないかと思ってのぅ、近況報告をしに来ただけじゃ。王妃様は今『誰も私を愛してくれない病』じゃろうて。男になら愛飢え男(あいうえお)と言うんじゃが。女性に対しては何といえばいいかのう」


にひっと笑うメイメイを王妃は睨む。


「おー、怖い怖い。その調子ならワシとエリアスの結婚式までは元気でいらっしゃるのぅ」

「言われなくてもちゃんと結婚式は見届けるわ。すでに嫌われているけど、今死んだらエリアスは私の葬儀なんてしないんじゃないかしら。平気で死んだことも伏せていそうだわ」


王妃は疲労をにじませてベッドにもぐりこみ目を閉じる。


「もういいでしょう。エリアスもアシェルも私のところに見舞いにさえ来ないんだから。あなたはさっさとエリアスのところに戻ったら」

「エリーちゃんは来ようとしたが、まだ回復しきっておらんからワシとアシェル殿下でストップをかけておるぞ?」

「あの子のことなんて誰も聞いていないわ」

「ふぅん。そうか。まぁ王妃様、またワシは来るぞ。新聞は置いていくからのぅ」

「いらないわ」

「まぁまぁまぁ。この辺のゴシップ新聞が面白いんじゃ。『真実の愛⁉ 生死の境を彷徨った伯爵令嬢は王子のキスで目を覚ます』じゃと。あ、これなんか『変人と呼ばれた第二王子の溺愛』じゃとか。面白いのぅ。とりあえずエリーちゃんは大人気じゃの」


メイメイの言葉に王妃はもう答えなかった。その様子に肩をすくめてメイメイは部屋から出て行く。

気配が消えてから王妃は起き上がると、メイメイが置いて行った新聞に視線を向けた。ふざけたタイトルが新聞に踊っている。


「何も、私はいいことなんてなかった」


王妃の呟きに反応する者は誰もいなかった。

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