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いつもお読みいただきありがとうございます!
「幾分か良くなったわね」
初めて王妃様に少しだけ褒められた。
「ありがとうございます」
「少し良くなったからと油断はしないでちょうだい。日常から常に気を配っていなさい」
「はい」
「今日はここまでにしましょう。そういえば、今日は細かい三つ編みではないのね」
「はい、時間がある時にアシェル殿下が編んでくださるのです。本日はまだお会いしていません」
「……そう。もう下がっていいわよ」
「ありがとうございました」
王妃様との勉強が終わった後はアシェルと会うことになっている。前回は終わった後に時間が取れなかったので、王妃様との勉強前にお茶会をしてアシェルが三つ編みをしたのだ。そのことを王妃は指摘したのだろう。特に髪型に文句も言われなかったから大丈夫……なのかな?
「エリーゼ」
本日の復習を頭の中でしながらアシェルと待ち合わせをした庭を歩いていると、兄のクリストファーがやってきた。
「アシェル殿下はエリアス殿下に呼ばれているからまだ時間がかかる。それを伝えに来た」
「わかりました。お兄様、ちゃんと食事はとってくださいね。顔色が良くないです」
「はぁ……分かった」
「まだ忙しいのですか?」
「エリアス殿下の婚約者の姫君がいらっしゃるまでは忙しいかな」
クリストファーの髪はよく乱れ、髪を結わえるはずのリボンは定位置からずり落ちている。執務中やエリアスとの会話中に頭をかきむしるせいだ。
「そういえばお兄様の婚約者様はいつお戻りに?」
お兄様の婚約者であるサンドラ様は留学中だ。留学先はワイマーク王国。エリアス殿下の婚約者である姫君が現在いらっしゃるのと同じ国なのだ。そろそろお兄様も結婚の準備をしなければいけないだろう。
兄の顔を見るとなぜか固まっていた。
「お兄様? 手紙のやり取りはしているのですよ……ね?」
まさかとは思いながら恐る恐る尋ねる。
「……実は最後にいつ手紙が来たか覚えていない……」
「えぇ!?」
「今思い出そうとしているんだが……」
「最後にお兄様が手紙を書いたのは?」
「……忙しくて……」
クリストファーはバツが悪そうに目を逸らした。これはマズイ。明らかにマズイ。
「お兄様」
「はい」
何かを悟った状態のエリーゼを前にクリストファーは「うん」と返事はしにくかった。
「ワイマーク王国に行きましょう」
「えぇ? 無理だって! こんなに忙しいのに!」
「大丈夫です。私もできることはやりますし。側近の皆さんで力を合わせて、アシェル殿下にも手伝ってもらって。エリアス殿下には本気を出して頂いて」
「いやいやいや。エリーゼ、何を言ってるんだ」
「女性が婚約者に手紙を出さなくなったら……それは明らかにマズイ状況です。愛想を尽かされている可能性が非常に高いでしょう。兄と妹が揃って婚約解消などというのは嫌です」
「いや、さすがに婚約解消まではないんじゃないか?」
「サンドラ様はあちらで気の合う方を見つけているかもしれないのに? お兄様、私は世間体などどうでもいいのです」
「あ、うん」
クリストファーは妹の様子にちょっと引いていた。
「お兄様の髪がぼっさぼさで仕事漬けでいつも疲れ切っていても、気にせず受け入れてくれそうなご令嬢を私はサンドラ様以外知りません。お兄様、さぁ今すぐエリアス殿下のところに行きましょう。我が家の存続の危機です」
「手紙くらいでそれは言いすぎじゃない?」
「手紙くらいじゃありません。婚約者から手紙が来ないとか代筆らしいとか分かると傷つくのですよ。サンドラ様は休暇でも国に帰ってきておられませんし、手紙以外でお互いの近況をどうやって知るのですか。唯一の連絡手段ではないですか」
言い合いに近いことをしていたエリーゼとクリストファーは気付かなかった。
「……うるさいと思ったらお前達か」
庭にもう一人、ある人物が現れたことを。