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 8話


「そろそろ帰るか。またな、リディア」


 リディアが教会の正門まで送ってくれる。


「また来てね、アッシュちゃんアウラお姉ちゃん」

「うん! 今度はもっとたくさんお土産持ってくるね!」

「元気でな」


 さて、これからどうするか。どう生きるか。道すがら、一応人生の先輩であるアウラに尋ねてみる。


「アウラはこの先どう生きていくつもりだ?」

「? アッシュと一緒だよ?」

「・・・ 役立たず」

「ひどい!」


 おのれ150歳児め! 建設的な話が出来ないのかこいつは。


「私と離れたとして、その先の事を考えているのか、と聞いてるんだ」

「考えてないよ? だって離れないもん」

「ねこがエルフと同じだけ長い寿命を持ってると思うか?」

「・・・・・・ アッシュのいじわる」


 考えないようにしていたであろう事実を突きつけてやる。よくわからんが、ねこの寿命ってどれくらいなんだ? 10年は生きるよな? 私はその間どう生きるべきか。


「・・・ いっそ、旅にでも出るか」

「わたしも行く!」

「お前、弓聖としての仕事は無いのか? 一応冒険者のライセンス持ってんだろ? 依頼が来たりしないのか?」

「わたしは里を出て旅をするのに便利だから取っただけだよ? ランクも一番下だし」


 私と似たようなもんだな。私も武者修行がてらに冒険者ライセンスを取得したは良いが、ランク不足を理由にダンジョンに入れなかったり凶悪なモンスターと戦えなかったりした。それでギルドから遠のいて、私のランクも最低だった筈だ。


「そうなると討伐部隊の指揮官は優秀だな。ランクじゃなく称号で召集掛けたんだからな」


 ギルドとは大違いだ。当時から剣聖の称号があった私を、ランク制度で締め出したんだからな。それで勝手に暴れる事にしたんだ。


「でもランキング上位の冒険者にも声描けてたよ?」

「ん? そうなのか? まぁ何でもいいさ、私に都合が良いなら」


 あの頃はまだまだ未熟だった。だがそれ故に、モンスターとの戦いは命懸けの死闘ばかりだった。楽しかったなぁ、あの心臓が高鳴る感じ。


 ドラゴンを斬ってからは一旦武者修行を止め、道場破りで集めた複数の奥技書を纏め上げ、新派を作り上げるのに力を注いできた。

 私の流派、五刀流(いっとうりゅう)は今どうなっているのだろう。私が死んだのを良いことに、道場破りでもされていないだろうか?


 よし、見に行ってみるか。


「アウラ、私の道場に連れてけ」

「アッシュの道場? 何処にあるの?」


 アウラに抱っこされながら道場へ向かう。繁盛していると良いのだが。

 立地は悪くない筈だ。なにせ、有名な道場の看板を奪い、譲り受けたのだ。人通りも悪くない、門下生も十人は残っていると思うのだが。


「ここがアッシュの道場?」


 そこには、かつての面影が薄れ、荒れ果てた道場があった。


「な、何で?」


 看板は掛かっているが、落書きで汚れ、門は半分焦げている。そもそも扉が倒れており門の役割を果たしていない。

 いったい何があった? 道場破りは増えているだろうと思っていたが、これでは襲撃にあったようなものではないか!


「・・・ おじゃましまーす」


 アウラを伴い道場へ入る。中も酷い。床板が割れ、道場の半分近くは使えそうにない。隅に積まれた瓦礫は、天井の物らしい。青空が腹立たしい。あんなに大きな穴が空いてしまえば、雨で残り少ない床板が傷んでしまう。


「女ぁ、ここに何のようだ? ここは五刀流の道場だ、用がねえなら出ていきな」

「師範代!」

「ねこ? 今こいつ喋ったか?」

「うん、今の名前はアッシュだけど、前の名前はユースト・ハヅキだよ」


 もし私なら、当事者でもない限り信じられないような話だ。師範代はすぐに信じてくれたようだが。


「何があった?」

「簡単に言いますと、今までに買った恨みのツケが回って来た、って感じです」


 曰く、私の噂が流された後、私が潰して回った道場の元門下生が徒党を組んで襲撃してきた、と言うことらしい。

 百人近くからなる奴らは剣のみならず、木槌や鋸なども担いで、道場を破壊する構えだったようだ。

 辛くも追い返したそうだが、道場はこの有り様で門下生も残らず去ってしまった。今は師範代一人で道場を守っているらしい。


「酷い。でもあなたはどうしてまだ逃げていないの?」

「何言ってるんですか、ハヅキ師範の五刀流は最強です! ロドン流なぞに負ける訳にはいきません!」


 なるほど、襲撃者はロドン流に与する者達か。しかしロドン流、聞いたことがない、新派か?


「ロドン流って今一番流行ってる剣術流派だよね? わたしでも知ってるよ!」

「ええ、昔はてんで弱くてハヅキ師範が相手にもしなかった流派です」

「なるほどな、看板奪われた流派の受け皿になったってところか」

「はい、その為様々な流派の技を取り込んでいるようです。我ら五刀流と同じコンセプトで、生意気にも『天下一剣ロドン流』と名乗っていやがります!」

「そうか、なら教えてやらねえとな? 五剣を束ねて一刀となす、我ら五刀流の真髄ってやつをよ!」

「はい! あのように無様な寄せ集め剣術なぞ、取るに足らんですよ!」


 気合いは充分だ。だがまずは道場の修復だな。修繕費は私の口座にある程度は入っているだろう。だが道場の惨状を見るに、十分とは言えないな。


「だがまぁ、まずは瓦礫の撤去だな」


 二人と一匹で少しずつ片づけていく。別にアウラは手伝う必要なかったんだが、自主的に手伝ってくれている。ありがたいよな、自分にベタ惚れの存在って。


「ねえアッシュ、もうけっこう暗くなってきたよ? 後は明日にしない?」

「そうだな、今日のところはここまでだな」

「いえ、俺はもう少しやっていきます! 今までサボってた自分にカツをいれたい!」

「怪我したら元も子もねえ、明日は人を雇って来る。今日は休んどけ、帰るぞアウラ」

「うん!」


 反論される前に道場を出る。ああは言ったが、さてこの状態で手を貸してくれる人足が居るかどうか。

 それにしても師範代、奴の名前は何だったか。

 うん、さっぱり思い出せん。


「アウラはずっと手伝ってくれるのか?」

「うん! もちろんだよ!」

「そっか。じゃあ、修繕費が足りないときは金貸してくれ!」

「いいよ! でも利子としてわたしと結婚して!」

「助けてリディア! ねこと結婚とか言い出すヤベェ奴に捕まってる!」

「えへへ、子供の名前はどうする?」


 もちろん互いに冗談だと分かっている。分かっている、よな?


 翌日、私の口座には意外に多くの金が残されていた。討伐部隊から振り込まれる分を忘れていた。大分安いが三年分だ、それなりの額にはなる。これなら修繕費もギリギリ足りるだろう。

 だがうまく行ったのはここまでだ。人足は一人も雇えなかった。五刀流はそうとう嫌われているらしい。いや、五刀流というよりユースト・ハヅキがだな。弓聖と聖女を手込めにしようとした、という例の噂は、ここでも猛威を奮ってるようだ。


「アッシュ大丈夫?」

「いや、ダメかもしれん。そもそも奴らは大概の仕事は断らねえ筈なんだがなぁ。実際、私の道場建てるときも断らなかった訳だし」

「あの噂のせい?」


 本当にそれだけだろうか? 奴らは金払いさえよければ、犯罪紛いでも平気でやってのけるような人間だ。そんな奴らが前金で半分払うって仕事を断るだろうか? 弁当を付ける、毎日日当を払うと、条件を高めていっても無駄だった。これは何か裏があるか?




「すまん師範代、人足は雇えんかった。この調子だと大工もダメかもしれん」

「実は俺も当初は人を雇おうとしたんです。でもどうしてもダメで。すいません! でも師範なら或いはって思ったんです!」

「まぁ、二人と一匹で地道にやろうぜ」

「はい!」


 黙々と作業をこなしていく。私はねこの姿ゆえ、あまり大きな瓦礫は運べない。代わりに小さな瓦礫や、天井の梁に乗っているような瓦礫を、落としたり拾い集めたりしていた。


「そろそろ昼にしませんか?」

「そうだな、昼飯にするか。よし! 景気づけに、私が旨い店に連れてってやる!」

「ワーイ!」


 と喜んだのはアウラだけで、師範代は申し訳なさそうに弁当を掲げた。一目で分かる、照れ隠しだな。結婚でもしたか? まぁこいつもいい歳だしな。

 アウラを連れて道場を出る。そういえばあの店、ねこでも入れるのか?


「美味しかったねアッシュ!」


 確かに旨かった、だがこいつがひっきりなしに話し掛けるもんだから。人前じゃ喋れないってのに。

 まぁいい、ちょうど師範代も居ないしな。


「アウラ、あいつに名前聞いてくれないか」

「あいつって師範代? さすがに酷いよアッシュ、あんなにいい人の名前忘れちゃうなんて」

「でな? 聞くときに、私が忘れてるって言ってほしいんだ、こっそりな」

「どう言うこと?」

「その時魔力が動くかどうか調べて貰いたい。まぁエルフ相手に何かするとは思えんが。仮に何かしたとしても、お前の様子で分かるしな。

 ・・・ やってくれるか?」

「うん! よく分かんないけど任せて!」


 アウラに与える情報はこのくらいで充分だ。全てを教えると、プレッシャーを感じてしくじりかねん。この程度の情報なら、特に気にせず私の為に働くだけだろう。

 扱い易い奴だ。



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