表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/12

 6話

会話文の中に顔文字が入っています。苦手な方は注意です


 リディアが手配してくれた看病人のお陰で、アウラの風邪は三日で良くなった。元々エルフやドワーフ達は、ただの人間よりも頑丈にできている。そうそう風邪など引かないし、引いてもすぐに治ってしまう。

 アウラの場合は、急にはしゃいで体力をすり減らしたのが原因だろう。ご禁制の薬を疑うはしゃぎっぷりだったからな。そのうえずっとセクシーな下着姿で過ごしてたんだ、まぁ風邪引いて当然だな。


 などと考えながら見守っていると、おもむろに背伸びを始めた。目覚めたようだな。


「ん。ん~~~~! はぁ~、おはようユースト」

ニャッ、ミャーン(身体はもう良いのか?)


 敢えて、ねこの言葉を使ってやる。アウラのやつ、驚くぞ~!


「ずっと寝てたから身体ガチガチ。ユーストもごめんね、ずっと外出られなくて退屈だったでしょう?」

ニャ~ン(気にするな)

「フフッ、気にするなって言われた気がする。ユーストの言葉が分かる魔道具でもあれば良いのに」

「な~、」

「ユーストもそう思う? ・・・ あれ? 今の人の言葉?」

ミャーニャウニャ(それよりアウラ)

「そっか、たまたまそう聞こえただけか」


 アウラはまたぶつぶつと、陰気臭い独り言を呟き出した。リディアに会うまでもこんな様子が合ったし、会ってからも時々こうなっていた。昔はこんなこと無かったんだがなぁ。

 こんな時はねこパンチだ。鼻っ頭にビシッときめてやるに限る。


「痛い! もぉ、何するのユースト」

「早く朝メシ作れ!」

「はぁ~い」


 とぼとぼとキッチンへ向かうアウラ。

 キッチンと言っても、ワンルームゆえの小さい流し台と魔導式コンロがあるだけの、ごく簡素なものだ。まぁ私の部屋だった頃は殆ど使った事がないのだが。


「どうしよう、キャベツしかない」

「リディアが手配してくれた看病人がな、エルフにはキャベツだ! って張り切ってたくさん持ってきたんだ」

「そっか。あ、お金、」

「金じゃなくて快気祝いにしとけ。リディアに渡しとけば間違いないだろ」

「そうだね、身体も鈍ってるし、後でさんぽがてらに見繕いに、え!?」

「やっと気づいたか、にぶちん」


 それからのアウラは大騒ぎだった。まぁ分かってた事だがな。とりあえず、私が人語を話せるようになった経緯を伝えておいた。


「リディア様には感謝してもしきれません」

「そうだな、今のあの子はアウラよりも遥かに立派だな。それより朝メシは?」

「あ、まだ途中でした」

「そんなんだから13、4歳の子と比べられるんだ、しっかりしろ!」


 またとぼとぼとキッチンに向かうが、今度は陰気臭い独り言を吐かない分合格だな。

 包丁持つ前に、肩に跳び乗ってやるか。ご褒美だ、嬉しかろ?


「わ!? 降りてユースト、危ないよ」

「平気だ、私の事は気にするな。それより腹減ったんだが」

「もぉ、知らないからね!」


 それからアウラは、手際よくキャベツを調理してみせた。元々やれば出切る子なんだ、最近は忘れてたけど。


「どうぞ、召し上がれ」


 キャベツ炒めにキャベツの塩スープ。侘しい。


「キャベツ旨いな、肉があればもっと良いのに」

「後で買いに行こうね、えへへ」


 顔が溶けてる。褒められて照れているのか、買い物デートと浮かれているのか、判断がつかんな。

 ちなみにあくまで所感だが、昔は気持ちを抑えてた分、今よりもっと可愛らしかった。素材が良い分、残念でならない。


 そんな事を考えながら食事を終えると、またアウラの肩に乗り、食器洗いを眺めていた。


「ユーストそこ気に入ったの?」

「悪くない」

「・・・・・・ あのね、そこがユーストのお気に入りなのは分かったんだけど、一旦降りてくれないかな? わたしずっとお風呂入れてないから」

「ん? あの旅でお前の汗臭い匂いなんて幾らでも嗅いだことあるぞ? 今更じゃないか?」


 わき腹にくっついてるアウラの首筋が、ジメっと熱くなってきた。


「それに、ねこになってから鼻は鋭くなったのに、汗臭いのを不快に思わなくなった。不思議なもんだ。あ、ずっと野良だったからか?」


 見れば顔が真っ赤に湯だっている。随分歳食ってる割りに、年頃の女の子みたいな反応するな。これは私にデリカシーが足りなかったか。


「お風呂行ってくる!」


 いつも通り私も着いていく。アウラが寝込んでいる間、私も風呂に入れていない。さっぱりしたい。


「ユーストはダメ!」

「何でだ!?」


 アウラはダメの一点ばりで、妙に決意が硬かった。いつもは簡単に折れるって言うのに。


「いつも風呂でやってた、あの変な、自称セクシーダンスを見ても別に笑わんぞ?」


 顔を真っ赤に光らせ、アウラは風呂場へ消えた。

 まさか今更恥ずかしくなったのか? 一生もんの恥って訳じゃないんだし、今度は早く立ち直ってもらいたいもんだな。


 それからしばらくして、アウラは風呂から上がってきた。よしよし、ちゃんと服着てるな。


「ユーストも洗ってあげる」


 顔が怖いし、洗いかたも力任せで雑だ。まぁおおかた、照れ隠しと八つ当りみたいなものだろう。好きにすればいいさ、どうと言うものでもない。

 雑に洗い、雑に拭かれ、雑に乾かされたお陰で、私の毛並みはボサボサだ。


「ブラシは無しか?」

「おあずけ!」


 クックックッ! おあずけときたか! まぁいいさ、多少ワイルドな方がメスにもモテるってもんだ。


「そうだ、アウラ」

「何?」


 まだ機嫌は直らんらしい。かわいらしいこって。


「うん、お前そのユーストって呼ぶのやめろ」

「じゃあ何? あなた、とか?」


 精一杯の仏頂面だが、隠しきれない嬉しさが滲んでいる。


「そうじゃなくてな、もっとねこっぽい名前をつけろって事だ。それが終わったら、快気祝い持ってリディアにも教えに行くぞ」

「やだ」

「あん?」

「やだぁ、o(>(やだ!)<;)(やだ!)(;>(やだ!)<)o(やだ!) イヤァアアアア!!」


 うるさい!


「ユーストはユーストだもん! それ以外イヤァアアアア!」


 駄々をこねる150歳児。さてどうしたものか。手っ取り早く、奴の恋心を利用するか。


「そうか、アウラは私の、名前! が好きだったんだな。だからそんなに嫌がるんだ」

「ち、違!」


 かかった。


「違わんさ。寂しい限りだ、名前なんて人の本質じゃ無いってのに。そんなところばかり見てたなんてな」

「違うの! 違うの!」

「無理しなくて良い」

「つけるからぁ! もっと良い名前着けるからぁ!」

「じゃ、頼まぁ!」

「!?!?!?」


 嵌められたのに気づいたアウラは口をパクパクさせて、言葉も出ないようだ。さすが150歳児はチョロいな。


 ブー垂れたアウラは、ミケだのタマだのと定番の名前や、スケコマシや女の敵などと悪口ばかり提案してくる。


「私は何でも良いが、真面目に考えないと後で辛いのはお前だぞ、アウラ」

「・・・・・・ じゃあ灰色だからアッシュ」

「それで良いんだな? ならリディアにも教えに行くか。ほれ、出かける準備しろ、いつまでブー垂れてんだ」

「ユー、アッシュのせいなのに」


 私がわざわざ偽名を名乗るのは、こいつの為でもあるんだがなぁ。


「あのな、アウラ。このままだとお前、拾ったのらねこに死んだ仲間の名前を着けてかわいがる、頭おかしい奴だぞ? それで良いのか?」


 ちなみに私は、そんな危ない奴に飼われる気はない。


「リディアは分かってくれるもん」

「リディアと私以外は?」


 プイッとそっぽを向いて無言を貫くアウラ。どんどん幼くなっていってないか? 大丈夫かこいつ。


「よし分かった。じゃあキスしてやろう、それで機嫌直せ」

「ホント!? やった!」

「その喜び様を見た他人はなんて思う? 死んだ仲間の名前を着けたねことキスして喜ぶ女を見た人は、なんて思う?」


 唸っても駄目だ。それに私を揺すっても駄目だ。


「う~う~う~! だいっきらい!」


 アウラに揺さぶられて目が回りそうだが、買い物に連れ出さねば。このままだといつまで拗ねているか分からん、目先を変えてやらねば。

 アウラの手を逃れ、肩に跳び乗る。


「逃がさないんだから!」

「いつまでバカやるつもりだ、買い物行くんだろ?」

「やだ!」


 プイッとそっぽを向くアウラ。右肩に乗っている私から頬が遠ざかる。尻尾で左頬をグイッと押して、右頬にキスをする。もちろん親愛のキスだ。150歳児は勘違いするだろうけど。


「これで機嫌直せ。ほら、買い物行くぞ」

「う~! こんなので許してあげたりなんかしないんだから!」


 精一杯、怒ってるって演技をしている。単純な奴だ、かわいらしいこって。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ