11話
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ほらな!
やっぱり私は再び転生したようだ。目が開いたばかりのようで未だハッキリとは見えないが、それでも自分の両手を見る限り、今回は人間のようだ。
これならまた剣を振れる。
どこの国かは知らないが、あと15年、恐らくそれで成人と認められる筈だ。そしたらまたアウラとリディアに顔見せに行ってやるか。リディアとは約束もしたしな。
その為にも、先ずはすくすく育つとするか。
産まれてから三年。どうやらこの身体は人間ではなくエルフのようだ。周りの皆もそうだが、耳が尖ってる。何故か我が家には鏡が無いため、自分の耳がどうなっているのかいまいち確認できていない。もちろん手触りで、私の耳も尖っているのは分かっている。自分の容姿を確認出来ないのは、転生者としてもどかしいものがある。
私が5歳になった頃、里に剣術道場が開かれた。私はすぐさま、親に預けられた弓を放り出し駆けつけた。しかも五刀流と来ている。やらずにはいられない。
なんとか両親を説得し、私は五刀流の門下生となった。開祖の私が門下生に成り下がるとは、なかなか面白い。
しかしこの身体は剣など振ったことがなく、他人の目から型崩れやブレを指摘してもらえるのはありがたく思う。奴の、師範の価値などそのくらいでしかない。奴の五刀流はクソとしか言いようがない。
いったいアウラは何を教えてるんだ。
それでも私がこの道場に通っている理由は、強ければ本部に推薦してもらえ、旅費も出してくれるらしいからだ。私がやっていた頃は支部など無かった。だからこんな制度も無かった。
アウラは中々やり手らしい。
とにかく最速でかつての勘を取り戻し、五刀流道場本部でアウラを問いたださねばならない。何故あんなのを師範代に任命したのか、と。
私がこのクソ道場に入門してから15年。身体の成長も止まり、ようやく本調子を取り戻した。長かった。あのクソ師範め、何度斬り殺そうと思った事か。昔の私なら確実に殺ってたな。
クソ師範から免許皆伝を言い渡され、同時に本部への推薦状も渡された。曰く『流派とボクへの尊敬の念があれば、もっと早く本部へ推薦していた』との事だ。
あるわけが無い。五刀流の名を汚すような奴の腕前、加えて、見ためが派手なだけで意味の無い独自の技、ヘドが出る。
アウラに会ったら真っ先に、奴を破門にさせねば。
「行くか」
両親に別れを告げ、王都近郊の穀倉都市デーメテを目指す。そこに五刀流道場の本部があるらしい。
約一年かけ、穀倉都市デーメテへたどり着く。寄り道をしなければもっと早く着いていただろう。両親には月に一度旅先から手紙を書いていたし、特に心配はしていないだろう。街門をくぐり、都市へ立ち入る。
デーメテは昔立ち寄った頃のまま、変わらずそこにあった。あれからどれくらいの時が流れたのだろう? 50年近いのではなかろうか? 確か、あの時もはたち前後の頃だった。享年が45歳と13歳、現在が20歳。・・・ 58年前か? 私が転生する際のタイムラグを合わせても、60年と言ったところか。
「妙な気分だ」
これからエルフとして生きるにあたり、何度も味わう事になるのだろうか。
行き交う人々に道場の場所を尋ねると、皆が同じ建物を指す。どうやらあの趣味の悪いのが五刀流の道場らしい。
玉ねぎのような形の屋根は金色に塗られ、壁が五角形になるように並び、五つの角はそれぞれ赤青黄色緑桃色に塗り分けられている。
常人のセンスではない。・・・・・・
・・・・・・ そうか! アウラが敗れたのか! それで流派の存続を条件にこんな酷い改築を強要しやがったんだな? クソが! どこのクソ流派だ! 絶対許さねえ!!
こんなクソ道場に遠慮なぞするものか!
扉を蹴破って奥に居るアウラに迫る。
「おい! どこのクソ流派がこんな道場にしやがった?」
「え!? ぇえええ!?」
「答えろ!」
襟を掴んでガクガク揺さぶり、とにかくアウラに答えさせる。
「こ、この道場はわたしが設計したの。良いでしょ?」
「は?」
意味が分からん。なぜ? 頭どうかしたんじゃ? 私が死んで心を病んだとか? 分からない、全然全くこれっぽっちも分からない。
「は?」
「ふふふ、説明してあげましょう。まず屋根の金色のやつは、王冠を模しています。いずれ転生してやって来る、五刀流の開祖の方を表しているのです。次に5本の柱は、五刀流の五つの型を表しているのです。それに合わせて道場も五角形にしてみました!」
どや顔しやがった。このクソガキはいっぺんシめないと駄目みたいだな。
「おいアウラ、私が誰か分かるか?」
「もちろん! シンの森里の道場から推薦された、フィアーロ君だよね!」
そうか、分からないか。まぁどうでも良い。
「抜け、稽古をつけてやる」
「え!? ダメだよ、今日は休んで明日からにし「いいから抜け!!」
このクソガキには木刀ではぬるい。真剣でなければ伝わらないだろう。
「だ、ダメだよ真剣なんて。危ないよ怪我しちゃうよ!」
「裂海剣!!」
ギリギリ避けたアウラの後ろで、道場に大きな裂け目が出来た。
「キャアアアア!! わたしとアッシュの愛の巣がぁあああ!!」
「崩れちまえ!! こんなクソ道場なんて!!」
「もう怒ったからね!! 飛刃!!」
同門であるが故、同じ五刀流の技の応酬となるが、全ての技において私が上回る。何一つとして拮抗しない。こいつ今まで何をしていたんだ。
暴れて少し気がはれた部分もある、正体を明かしてやるか。
「駄目だ、弱すぎる。そんな体たらくじゃ私が誰か分からないだろう。私だ、ユースト・ハヅキだ」
「・・・ そう言う事言う人は多いよ、みんな違ったけど。証拠はあるの?」
「ユースト・ハヅキの次はアッシュって名前のねこだったな。お前が風呂場でやったダンスを再現してやろうか? あの自称セクシーダンスをよ?」
アウラの顔が一瞬で真っ赤に染まった。どうやら未だに黒歴史のようだ。
「いじわる! いじわるいじわるいじわる!! アッシュのバカ!!」
ねこの頃、アウラに五刀流の修行をつけてやっている時に、よくこんな風に言われたものだ。少し懐かしい。とは言えだ。
「バカバカ言って気は済んだか? この180歳児が!」
「ユースト? ほんとにユースト?」
「当たり前だ! あれだけ私の事が好きって言ってた癖に、まさか一発で気づかねえとはな!」
「だって、ほんとに多かったんだもん。自称ユーストの人」
それだけ真似しやすかったって事か? なんか気に入らねえな、まぁいい。
「認めるか? 私がユースト・ハヅキだと、私が五刀流の正式な師範だと」
「うん! おかえりユースト!」
「じゃあ、早速だがなアウラ。シンの森里道場の師範を破門にしてこい!」
「え!?」
まあ驚くよな、だが口答えなど許さない。ギリッと睨み付けると、アウラは道場から駆け出して行った。
次は、ここにいる門下生の掌握だな。
「フィアーロ・シン・リャーシンだ。今からアウラに替わって私が師範を務める、あいつみてえに優しくねえからな?」
門下生達がざわつく。実力を先に見せた故、流石にそれを聞く奴は居なかったが、アウラでなければ嫌だと抜ける奴が半分もいた。エロガキどもが!
まぁいい、まだ20人も居る。想像していたより多くて何よりだ。
「残った奴らはアウラじゃなくても、厳しくても良いんだな?」
『はい!』
いい返事だ、こうでなくちゃな。さあ、始めるか!
「とりあえず、お前らの力を見るために素振り100本、始め!」
多少ばたつきながら等間隔に整列し、剣を振り始めた。
悪くはない、だが良くもない。
「何やってんだ! 素振りだからって気を抜くな! ちゃんと相手を思い浮かべろ! そいつの脳天叩き割るイメージを持て!」
素振りに気合いがこもったのは良いのだが、型が崩れた奴も多い。イメージに引っ張られ過ぎだ。
「よし! 良いぞ、良い殺気だ! だが型は崩すな! 今まで通り正しく振れ!」
たかが素振り、だが100本終わる頃には全員汗だくになっていた。
「これが正しい素振りだ! 次! 打ち稽古、始め!」
こんな調子で稽古をつけていったが、アウラは随分手ぬるくやっていたらしい。最後までついてこれたのは一人も居なかった。
「お前らは圧倒的に体力が足りないな! だが気にするな! 全部アウラのせいだ! 人善く掛かってぬるい稽古をつけたあいつが悪い! 解散!」
翌日はさらに人が減り、その翌日には遂に五人まで人が減ってしまった。
「さて、生臭い話だが、五人ぽっちの月謝じゃ私は暮らせん。そんな訳で、今日はギルドで冒険者資格を取ってもらう。それでダンジョンで武者修行を行い、稼いだ金は私がもらう。金が欲しけりゃたくさん稼げ、総取りなんて言わんから」
それからギルドで手続きを行い、ダンジョンに入った。
「この階層はまだモンスターは出ない! 準備運動代わりに、素振り100本と打ち稽古をしてから進むぞ! 五階層までなら死にはしないだろ、たぶんな!」
冒険者の突入時間帯と違うため、人を気にせず稽古が出来る。いつもと違う環境に戸惑っていた門下生たちも、いつもの稽古で平常心を取り戻したようだ。
「行くぞ! 今日は引率してやるが、次からはお前らだけで進め!」
生きて動くモノを斬ることに忌避感を抱く者もいたが、剣術なんて所詮人斬りの技術だ。尻込みしている奴にこそ積極的に斬らせた。
馴れてもらわねば困る。こいつらには私の兵隊として、いずれ行う道場破りに同行させるつもりなのだ。
さてダンジョンでの収入だが、この程度では全然足りない。週に一度、毎週ダンジョンに潜らせよう。
ダンジョンでの実戦と私の指導、この二つで彼らはメキメキと実力をつけてきた。元々アウラから技を習っていたんだ、基礎的な理解力は合った。それが実戦を経験することにより、技の意味や理念を理解し始めた。
次は稽古の強度を上げて肉体面を鍛えていこう。
強度の増した稽古に、最初は皆、家へ変えれなくなるほど疲弊していた。だが一月もすれば余裕が出てきた。そこでまた稽古の強度を上げる。
この繰り返しで、一年後アウラが道場に戻ってきた時、彼らは見違える程逞しくなっていた。今の彼らは個人としてなら冒険者で云うところのBランク程度だが、パーティーとしてなら充分Aランクに届くだろう。
「アウラも帰ってきたしな、そろそろ行くか」
「なになに? どこか行くの? ピクニック?」
「バカ! 決まってんだろ! 王都のロドン流本部に道場破りかますんだよ!!」