10話
顔文字注意です。あと短いです。
アウラに剣術を教え始めて12年。
最初の頃はひたすら素振りをさせた。まるで面白味のない鍛練だが、アウラは文句の一つも言わずやり遂げた。それからは様々な技を教え、勝負勘を着けるために模擬戦をしたり、他流試合に挑んだりもした。
アウラは誰一人殺さずに腕を上げていった。
奴の使う五刀流は私と同じ筈なのに、私とは真逆の剣術に見えた。私の求めた強さとは違うが、今はあの技の冴えが輝かしく見え、また、羨ましくもある。剣を振れないこの身体に、どれほど悔しい想いをしてきた事か。
今の私は、ろくに立ち上がる事すら出来なくなってしまった。数日前から、体力が完全に抜け落ちてしまった。気力も絞り出せそうにない。
どうやら終わりが来たらしい。
おそらく明日までもたないだろう。
だが、最後に二つ、やる事が残っている。
アウラ、リディア。
「アウラ、今までよく頑張ったな。免許皆伝だ、師範の肩書きをくれてやる」
「やだ! アッシュ!」
泣くな、泣き虫アウラ。自分の身体だからな、よく分かる。死ぬときが来た、それだけだ。
「ありがとな、アウラ。お前のお陰で、こうして穏やかに逝ける。お前が居なきゃ、どこかで斬られて、野垂れ死んでた。ありがとうな」
「やだぁ、o(><;)(;><)o もっと長生きしてぇえ!」
無理言うな、この160歳児め。結局12年ぽっちじゃ、こいつのこの子供っぽさを叩き直す事は出来なかったな。頑固なエルフだ。ドワーフとどっこいどっこいだな。
死に際だってのに天国の使者も、地獄の遣いも迎えに来ない。大概の奴らはどっちかが迎えに来るらしいが。
そういえば前回死んだときもお迎えは無かったな。こいつはひょっとすると・・・
「アウラ。もし、私がもう一度、生まれ変わったらな、また顔を出してやる。それまで、五刀流を廃れさせるなよ」
「うん! 絶対だからね! 約束だよ!」
泪と鼻水でグシャグシャだ。せっかく美人だってのに。
「ほら、リディアのとこに連れてけ。今度は死に際、見せてやる約束してんだ」
そんな約束はしていないが、今度はちゃんと、あの子にもお別れ言いたい。それから、目の前で大往生してやれ。あと久しぶりに、160歳の児童以外の真っ当な美人が見たい。
「急げアウラ、もうすぐ死ぬぞ」
「やだぁあ!」
アウラに鞭を入れ、全力で駆けさせる。揺れはほぼ気にならない。この12年で、アウラの私を抱っこする技術も格段に進歩している。
弓聖であり、聖女リディアの親友でもあるアウラは、教会の門など素通りだ。お陰でなんとか間に合ったな。
「リディアぁあああ!! アッシュを助けてぇえええ!!」
「!! 何があったの姉さん!」
「アッシュが! アッシュが死んじゃうぅ!!」
「寿命だ、気にするな」
最期に会ったのはおととしだったか。またキレイになった。歳経る毎に女に磨きが掛かってる。どこぞのエルフにも見習わせたいところだ。
「アッシュちゃん・・・ そっか、じゃあ最期に会いに来てくれたんだ」
「私の死に際見たいだろ?」
「リディアなんとかしてぇえええ!!」
「アウラ姉さん、寿命なら私に出来る事はないよ。静かに見送ってあげよ?」
「やだぁ!! o(><;)(;><)o やだぁ、やだよぉ」
「大変だろうけど、あと頼むな」
アウラに抱き上げられたまま、リディアに前足を伸ばす。勝手知ったるリディアが私を抱きしめてくれる。
「うん、大丈夫。必ずなんとかするから。だから安心して」
「いい女になったな、リディア。それでな、どっちからも迎えが来ねぇんだ。もしまた生まれ変わったら、遊びに来ても良いか?」
「うん! 絶対来て! 約束!」
伝えるべき事は全て伝えた。リディアの手からアウラの元へ返される。こいつにはもう一つあったな。
「アウラ、泣き虫アウラ。次会うときまでに、それ治しておけ」
「治すからぁ!! だから死なないでぇ!!」
一息毎に、その瞬間に近づいていくのが分かる。人斬りの私の死をこんなに悼んでもらえるなんてな。
「友よ、さらばだ」
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