いつもわがまま放題で私と喧嘩ばかりしていた双子の姉が王太子の婚約者に選ばれ、もうあれと顔をあわせなくてすむと妹の私は祝福したのですが、なぜか婚約者を代わってといわれまして…。その理由はなんと。
「お願い、婚約者を変わってほしいのエミリア」
「お姉さまどうされたのですか?」
久しぶりに里帰りしてきた姉に王太子の婚約者を代わってくれとお願いされて私は戸惑ってました。私にはもう婚約者がおりますし。
「私はどうしても殿下のあれに耐えられないの」
姉がお願いを言うなんて、いつも命令口調で偉そうなのに。
私はお姉さまと離れられてよかったと安堵していたところだったのです。いや、昔からわけのわからない悪戯の的にもされました。色々ありました。周りから見えにくい、森の中の崖に誘導されてとか、気がつかなかったら落ちてましたのよ。
同じような顔が二つあるのが嫌だから死ねばよかったのにと言われましたわ。冗談とかいわれましたがあれたぶん……。
「あの方、カツラだったのよ、私はハゲはいやですよの、お父様もハゲてますもの、生まれてきた男の子もハゲになりますわ」
王太子だからいいじゃあないですか。私がそういうとハゲはいやですと頭をいやいやと振るお姉さま。
「あなたの婚約者のレイン様はふさふさですし、幸い、私たちは双子ですしばれませんわ」
「バカバカしいですわ、それに私はレイン様を愛してますのよ、お断りいたします」
「そう、わかったわ」
思ったよりすぐ引き下がったなあと思ったのですが、私は甘かったです。姉の本性を考えるべきでしたわ。
「……!」
朝起きるとなぜか私は声を出せなくっていて、筆談とか思ったんですが、文字も書けなくなってましたわ。
姉がかわいそうにお姉さま、具合が悪いと言われてましたが声がだせないなんてと言います。
いや私の振りなんてやめてくださいまし。
パクパク口を動かすと耳元で、これからあなたが私と笑いながら囁くのです。
お姉さまの仕業でしたわ。
お医者様は私を見てどんな病気かわからないと診断しましたわ、両親はどうしたらいいんだと頭を抱えてます。
姉はにこにこ笑い嬉しそうです。私はなんとか意思を伝えようとしたのですがなんともならず、両親は王宮に帰せないと悩んでますし。
そうこうするうちに婚約者のレインが遊びにきましたのよ。
「あんた姉さんのほうだろ、なにいってるんだ? こっちがエミリアだろ?」
私を指差し、レインが驚いた顔で言います。お姉さまが何度自分がエミリアだと言ってもまたなにかの変な遊びにエミリアを付き合わせてるんだなと怒ります。館を探してくれていたみたいで、ここまできてくれたのですわ。
そういえば姉のあの悪戯の数々愚痴ってましたわ。
「エミリアどうしたんだ? 声がでないのか?」
私が姉を指差しうんうんと頷くと、あいつかとちっと舌打ちしました。姉を捕まえると、魔法か?早くなんとかしろと低い声で姉に言います。かなり怒ってますわ。
「知りませんわよ」
「呪いの類いか?」
姉がさあととぼけると姉を放して、こちらにレインが走りよってきます。
「ディスペル」
レインが解呪のスペルを唱えると少し声がでるようになりましたわ。
「お姉さまが婚約者を代わってといってそれを断ったらこんなことに文字も書けないので意思が伝わりませんの」
小さい声でいうと、やはり呪いの類いかと頭を抱えるレイン、お姉さまが逃げ出そうとするのを再び拘束します。
しかし、なにもしてませんと言い張るばかり。
解呪のスペルをいろいろ試しているうちになんとか普通の声がでるようになりましたわ。文字も書けます。
泣きながらレインに抱きつきありがとうというと、根性悪いやつだと思ってたが実の妹にここまでやるかとレインが憎々しげに姉を睨みました。
「二度とこんなことできないようにしないとな」
レインは魔法使いで、姉と同等の魔力を持ちました。だから解けたのであってそれ以外のひとではダメだったでしょう。
姉に向かいニヤッと笑ったレイン、さすがのお姉さまも恐れるようにレインをみました。
レインがお姉さまの額に指を押しあて、呪文を唱えました、知らないものです。すると暴れていたお姉さまが静かになり、寝てしまったのですが。
「なにをしましたの?」
「秘密だ」
笑うレイン、しかしこのあと、私はレインの恐ろしさを知るのです。
お姉さまはあの後、意識を取り戻し、可愛い妹のあなたにあんなことをしてごめんなさいと泣きながら謝りました。気持ち悪いです。
大好きな王太子殿下に会いたいですわとすぐ王宮に帰ってしまいました。
レインに聞くとあべこべ魔法とやらをかけたそうなんです。効力は半年程度らしいですが。嫌いなものが好きになり、好きなものが嫌いになる。
それであの態度かと合点がいきましたが、カツラをとった殿下とイチャイチャしているお姉さまをみまして、私は半年後が恐ろしいと思う日々です。またあの魔法をかけてやるさ、お前にあんなことをした報いとしてはまだまた甘いというレインもまた怖いのではと思う私でした。
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