ボロアパート16
ここで彼女が生きている気配を感じて、しかもそれを彼女の許可もなく見ていると思うと何とも言えない背徳感で背中がゾクゾクする…。
わかっていたけど、俺は変態だったんだな。
部屋の中を見渡す。
やはり子供の物が沢山残っている。
壁に貼られた絵。ぬいぐるみ。小さい椅子。
オモチャや洋服、帽子なんかもまとめて置いてあった。
「…大事にしてたんだな。」
いつも気になっていたタンスの上に目がいく。
写真に笑顔の女の子が写っていた。
この写真、やっぱり娘さんだったんだ。
大きくなったら彼女に似て綺麗になっただろうな。
よく見ようと写真に手を伸ばしたその時…
ガタンッ
え?何の音だ?
鍵、閉めたよな。
なんだ…?誰かいるのか?
心臓がドクンと跳ねる。
意を決して振り返った。
ん?子供…?暗くてよく見えない。
慌てて懐中電灯で照らす。
暗闇にボゥッと浮かび上がる顔。
「え…あ、茜ちゃん?」
絵や持ち物に丁寧に名前が書いてあったから、思わず声をかけてしまった。
あれ…?でもこの子って死んでるんじゃ…?
その事実に気づいた時、すでに茜ちゃんの顔が目の前にあった。
瞳が漆黒の闇のよう。
ブラックホールなんて本物を見た事ないけど、きっとそれのように吸い込まれたら二度と戻れない暗くて深い深い穴。
二つポッカリとあいている。
目が離せない…
「…お兄ちゃん、私のおウチで何してるの?」
真っ暗な目のまま可愛い声がする。
首を傾げた時に鈍い骨の鳴る音が響く。
…背中がヒヤッと冷たくなった。
「ねぇ?お兄ちゃん、聞いてる?」
ニタァ…と笑う口も真っ暗だ。
「ごめん…なさい。」
ようやくそれだけを口にした。
ガタガタと震えが止まらない。
怖い…本能でわかる。…ヤバい。
クスッと笑う声がして、茜ちゃんが離れる。
「いいよ。謝ってくれたから許してあげる。その代わり、私のお願い聞いてくれる?」
やけに大人びた言い方をするんだな…と思った。
そういえば写真より少し大きく見える。
…成長してる?まさかな。
だってこの子はもう死んでるはずだぞ。
「な、何をしたらいいの…?」
カラカラになった喉からようやく声を絞り出す。
「うん。私のお父さんを探して欲しいの。」
意味がわからなかった…。
「な…なんで、君のお父さんを探すの?」
恐る恐る聞いてみる。
「なんでって。だって、お母さんと私を苦しめたから。悪い事したらお仕置きしなくちゃいけないでしょう?」と笑った。