表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初恋  作者: 秋の桜子
11/17

ロゼのシャンパンとフライドポテト

「乾杯。あけましておめでとうございます。リア充」


「何それ……てか、1月も終わりだし……」


 チン、とシャンパングラスを合わせた二人。


「怒涛の年末年始!お互い商売繁盛で結構、稼ぎ時の末年始!続く2月も3月!バレンタインデーにホワイトデー、卒業に新年度!いいねぇ!かきいれ時だよ」


 家飲みしたいから酒持ってていいかな?と夏樹が連絡したのは、1月も終わりになり、世の中はお正月飾りはとうに外され、気の早いメディアでは、恵方巻きやらバレンタインデーの空気がちらほら漂う頃。


 シャンパンのロゼ、エクストラブリュット。夏樹が店に出入りをしている、酒屋から仕入れて来た一本。家で揚げてきたフライドポテトを、オーブンでカリッと温めたのを皿にこんもりと盛り、二人でソレを食べている。


時々に赤いサルサソースや、白いサワークリームで味を変えて楽しむ二人。


「その中で最も忙しい年末年始、彼女で来たメールを送りつけるとは……、クリスマス以降は、パーティーやら忘年会やら新年会、諸々の会合やら、昼夜問わず休日返上、フルタイムで働く身に何たるプレゼント」


「あー、ゴメン。ちょっと浮かれちゃってさ……」


「エンゲージにマリッジリングは、当店のご利用をぜひともお願い申し上げあげます」


「何かボッたくられそうな気がするんだけど。かっちゃん、てか!エンゲージにマリッジって……、付き合ってそんなに経ってないのに早くない?」


「大丈夫大丈夫、足元みないから、クオリティが高いの勧めない。早いって、君達清らかなるご関係?悪行をお許しになった聖母(マリア)ちゃんとは」


「何その、マリアちゃんって、そりゃ全部話したけどさ、それでも良いって言ってくれて清らかなるご関係じゃないけどさ、高いの勧めないってっさ、何気に凹むんだけど」


 サクリと塩味のまま齧る夏樹。手酌で飲んでいる君影。カウンターではなく、ラグの上にトレーを置き、座り込んで話していた。


「そうか?で何、相談って」


「んー、その……、お付き合いしてますって、行こうかと聞いたんだ。すると彼女が首を振るんだ。別に行かなくていいって、家族とは何年も会って無いってさ」


「何年も会って無いって、それが?僕も親には会うこと珍しいけど?」


「かっちゃんはとは違う、先輩に聞いたら、将来を見据えた場合は、早めに奥さんの家に挨拶に行ったと、そんな話を聞いてさ……、どうなのかなって」


 胸に来る何かを、外に出ぬよう流し込む様にグラスを煽る夏樹。そうだな……、とポテトに手を伸ばし口に入れる君影。


 店に来る客達を思い浮かべる。幸せ色した中に包まれているカップル。時々、ご両親に許して貰えて良かったよ、と話す男もいる。


……、結婚とは面倒くさいものだな。君影は密かにそう思っている。しかし悩む様子の友にはそれを言う事はない。


「別に気にしなくてもいいと思うけどね」


「そうかな……、いいのかな」


「良くわからんが、今の世の中家族の不仲って、よくある話だし。マリアちゃんは話してくれたの?家族と会ってない理由とか……」


「聞いてない、言いたくないって、だから聞かない」


「……、ふーん……じゃ、聞かなきゃいけないか?聞き出して理由を知って、ご両親への挨拶とやらに、こだわる必要は夏樹にとって必須なの?」


 空調の音が流れる。黙り込む二人。 


「終電出たし、今日は泊まっても良いけど……、しばらく来るなよな」


 赤いソースに絡め口に運んだ君影が口の中を空にすると、そう話す。空気が動く。


「え!どうして?」


「なんとなく……」


「理由になってない」


「うーん、そう……、病める時も健やかなる時もって言うからさ、二人でよく話しをしたらって、言うと思っただろうが、忙しくなるんだよな。前はスタジオ借りてたんだけど高いからね」


「は?なんの話?」


「バレンタインデーは既にフォト撮影終わってる。これからホワイトデーに、卒業、新年度を迎えての旅立ちのジュエリーをとかさ、ジューンに向けて、新しいデザインのエンゲージリングとか、使うんだよ。ここ、敢えて夜に使う事もあるからね」


「……、かっちゃん酷い。僕が真剣に悩んでるのに、どうして親身になってくれないのかな」


「決めるのは自分自身。僕は今までそうやってきた。両親は必要な時には側にいた事がなかった。だから独りで立っている。今でも変わらない、この先もね。夏樹もだろ?親一人、子ひとりだったんだから、今まではそうしてただろ?」


 甘えるならマリアちゃんにしろ、相手を違えるなと君影は、何時もとは違い頼りなげな風情の夏樹に言う。


「だらな、マリアちゃんと過ごせ」


 うん、そうする、また来るねという感じな答えを待っていた君影は、俯き何かを思っていた夏樹に、顔を上げた途端、意外なことを拗ねた口調で言われる。


「……、もう、僕はかっちゃんに必要無いってこと?」


「はあ?」


「だってかっちゃん必要の無い物は置かないって、僕は要らない子になった?」


「……、はっ?お馬鹿?」


「僕はね、かっちゃん……、家族みたいに思ってたんだ、だから独りで食べてるかな、大丈夫かな、って心配して……、迷惑だったのか?夜中に突然来る奴なんて、考えたらそうだし……かっちゃん面倒くさいの嫌いだし」


 ウジウジと、子供の様に喋りながらポテトで、サワークリームをぐるぐる混ぜる夏樹。こいつ……、と思いつつも面倒なとは思えない君影。


「はぁぁ……、恋をしたら心が弱くなるのか?そんな事は無い、迷惑ならそう言ってるし、電話も取らない主義。ああ、悪かったな。そうだな……、夏樹には幸せになって欲しいな、て思ってる」


 初めて聞く、君影の気持ちが籠もった言葉に真顔になる夏樹。


「よくわからない。正直……、他人にどうこう、思う事なんて今まで無かったし。そういう事、だから……」


「だから?」


 真剣な瞳の夏樹に、ニッコリ営業スマイルを浮かべる君影。


「懸命に稼いで下さい、ご来店お待ちしております」


「はあ?ひっどい!何か知らないけど!すっごく傷ついた気がする!かっちゃん!何それ。信じられない!」


 アハハ、世の中とはこういう物だ。シャンパン終わったし、貰い物の白ワイン冷えてるけどいるか?と立ち上がる君影。何時もなら従業員に分けるそれ等の品物。何故か今年に限り、夏樹に取っておこうと、一本自宅に持ち帰った彼。


「ちょっと待った!グラス変える、持ってきたし」


「ああ?別にそれでいいよ、面倒くさ」


 細しい事に小うるさい男は、彼女に棄てられるという話をしてやろうかと君影。


 彼氏がするならいいよって言う、世間一般の女の話を教えてやろうかと夏樹。


 何時も二人に戻る。温かい部屋、ふざける二人。


 外は吐く吐息が真白に濃い。流れる涙がパリパリと音立て乾き頬にヒビ入る寒さが訪れている、それは……独り歩く者に、チリチリとした氷の破片となり身体に忍び込む温度。

シャンパンのロゼ、エクストラブリュット。←飲兵衛娘のおすすめなのですよ。下戸の母から産まれたとは思えない。旦那様に似たのね!


おつまみチーズじゃないの?と聞けば


チーズ!ムーリー!フライドポテト最高!とのことでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 夏樹、妙なハイですなあ。
[良い点] 仲良しさんな二人良きですーー!
[一言] この二人の関係性いいですね( ˘ω˘ )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ