ヒドインに転生してしまったのでざまぁ回避しようとした私は、なぜか膝の上にいる
詰んだ。やっべえ。
それが、『今の私』に気づいた私の感想だった。
『真の聖女は魔帝の寵愛を受ける』。ネット上で連載されそこそこ人気を博した、ついでに一応アニメ化もした小説のタイトルである。
聖女として見いだされた主人公の貴族令嬢が、婚約者である王太子に婚約破棄される。当の王太子は平民上がりの少女を真の聖女としてまつりあげ、ついでにベタぼれ。
少女がいじめられたと嘘をついたこともあり国外追放された主人公は、別の国を治めてる魔帝に拾われ以下省略。元の国はまあ、ご愁傷さまなことになるというざまぁ系小説である。……一応恋愛ジャンルだよね、この展開。
で、当の『いじめられたと嘘ついて主人公を国外追放した上王太子とくっついた少女』がこの私、キャルンなのだ。
ふわふわのピンク髪に少し幼い可愛らしい容貌、その魅力と聖女として認められた魔力をもって婚約者のいる第一王子と深い仲になり、その王子の取り巻きたちで逆ハーレムを形成し、そうして没落……というかざまぁされる羽目になる平民出身の少女。
どこぞで呼ばれている酷いヒロイン、略してヒドインに転生したのか、くそう。この場合の『酷い』が作品内での扱いなのかキャラ自身の性格なのかその他諸々なのかは、さすがに知らないけれど。
「出立は明日を予定している。準備をしておくようにな、聖女キャルン」
「は、はいっ」
きらびやかな制服を着た王家からのお使いの人から、手紙を受け取ったところで思い出したんだよね。だってこのシーン、小説の最初だし。
この世界で十五歳の誕生日、教会で皆が受ける成人の儀式。これで聖女としての能力を認められたため、王が謁見を望んでいるため登城せよ、と書かれた王城からのお手紙。要するに迎えに行かせたからとっとと城まで来いやあ、という命令書である。
ところでキャルンって、最後どうなったっけなあ。処刑……は、なかった、はず。というかアレか、処刑してすっぱり終わらせるより生き地獄味わえヒドイン、だったかな。……いや自分の末路なんて思い出したくもない、やってられっか。
ともかく、聖女としてお城に向かうことは決定してしまってるので……王太子を陥落させずにほどほどに頑張る、しかないか。とほほ。
「城において修業を重ね、この国と民のためにその力を尽くすように。聖女キャルン」
「はい、がんばります」
国王陛下にご挨拶して、私はそのままお城に部屋をもらって聖女としての修行に励むことになった。いや、お城のあのでっかい建物の中にじゃなくて、敷地の中に聖女専用の寮みたいなのがあるんだわ。小説と同じ描写だから、すぐわかった。
「わたくしはエンジェラと申します。どうぞよろしくね、キャルンさん」
「は、はいっ! よろしくお願いします、エンジェラ様!」
「ふふ、そう緊張なさらないでね。お部屋はわたくしの隣ですわ」
そうしてその寮を案内してくれたのが、エンジェラ様。『真の聖女は魔帝の寵愛を受ける』、通称『のはける』の主人公である公爵家令嬢である。つまり、王太子や私をざまぁする張本人。いや、王太子撃墜するつもりないからざまぁはしないでくださいね?
寮はそれぞれ個室なんだけど、何でエンジェラ様と隣の部屋になるんだかなあ。とりあえず、変な声出さないようにしないとな。
「おや、エンジェラ。新しい聖女様かい?」
「これは殿下。ええ、そのとおりですわ」
で、施設の案内をしていただいているところで……会ってしまったよ。王太子フランティス殿下。キャルンにだまくらかされてエンジェラ様を追放して、後々ざまぁを食らう人。いや、私はたぶらかす気もエンジェラ様に冤罪ぶつける気もないけどさ。
「僕はフランティス。一応、王子だよ」
「は、はじめましてっ。キャルンと、申しますっ」
とは言えリアル王子様を目の前にして、声がひっくり返らないわけはなかった。エンジェラ様もさすが公爵令嬢にしてその王子様の婚約者、リアルロイヤルカップルである。私に関係なければどれだけ目の保養だか。
「何だ、とても可愛らしい聖女様だね。エンジェラ、いじめたりするんじゃないよ?」
「まあ、フラン殿下ったら。こんなに愛らしい後輩ができて、わたくし幸せですわ」
うん、目の前でいちゃいちゃすんなや。というか良いのかあんたら、王太子と聖女だろ。ま、婚約者同士だけど。
「あ、あの。私、お邪魔なようなので失礼しますっ」
「あら、キャルンさん!」
「何だ、奥ゆかしい子だねえ」
急いで逃げ出して、寮の部屋に戻ろう。あと、あそこには絶対に割り込まねえ。そんなことしたら未来がどうなるかわかっている以上、私に選択肢はないのだ。
選択肢はない、はずだった。というか、自分で選べる分には今でも、まるでないと思う。
そもそも、殿下とは頑張って距離を置くようにしたんだ。エンジェラ様とはまあ、同じ聖女として仲良くできた、と思う。聖女としての力は……エンジェラ様一番私がニ番、くらいにはなったぞ。えっへん。
で、その結果。
「キャルンさんは、本当に可愛らしくていらっしゃるんだから」
何でか、エンジェラ様に髪を撫でられたり頬すりすりされたりするのが日課になってしまっている。つーか部屋隣だろ! 何で朝起きたらそこにいるんだ公爵令嬢!
「本当に可愛くて、おとなしくて。エンジェラが可愛がるのも、分かる気がするよ」
「あ、あのうフランティス殿下……」
「フランで良い、って言ってるだろ?」
いや言わないでください、フランティス殿下。だから何で私は殿下の膝の上に座らされてぬいぐるみのノリでかいぐられているんだ、わけわからん。それからエンジェラ様、一緒に撫でないでくれますか。
「僕はね、本当に幸せ者だと思うんだ。心から愛するエンジェラと、心から可愛がりたくてたまらないキャルンに会えたんだから。なあ、エンジェラ」
「ええ。大切なフラン殿下とご一緒に、キャルンさんを可愛がることができるなんてわたくしも、とても幸せ者ですわ」
マジで理解できん!
いや、エンジェラ様と殿下がらぶらぶそのうち結婚式、というのは良いんだ。
しかし、どういうわけか二人とも私を離す気がまったくない。今のところはぬいぐるみ扱いだけど、このままだと殿下の愛妾になる可能性がある、らしい。
……いやまあ、正妻じゃないから良いとして。うっかりエンジェラ様押しのけて私が王太子妃なんてことになったら、『のはける』の展開通りざまぁ一直線だからね!
「さあ、明日は二人とも、聖女の務めがあるんだろう? 頑張って行ってきなさい」
「はい、フラン殿下。キャルンさんと一緒なら、すぐ終わりますわ」
「いえ、エンジェラ様のおかげです……」
殿下とエンジェラ様は本当にらぶらぶで、いや『のはける』のキャルン、よくこの二人を引き裂けたなとある意味感心するんだけどさ。
「やだもう、キャルンさんたら本当に、可愛すぎるんだからあ!」
「こらエンジェラ、キャルンを独り占めするんじゃない! 僕も混ぜろ!」
だから二人して私を抱きしめるのはやめてくれー! 何か違う方向に詰んだよ、私!
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