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ENDガールS・M  作者: ☆夢愛
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第十二回『この時期にクーラーないのはおかしいです』

「……で彼女が実は超怪力な設定なんだ。主人公は常軌を逸した、はちゃめちゃな行動ばかりする彼女に惹かれていく的な。どうよ? よくね?」


「んー、一瞬だけ独特な発想だと思ったけど安易かな。結構ありがち。それで、主人公が何に惹かれるのかがイマイチ分かんない。バカ力マニアなの?」


「いや、型破りなヒロインにって感じなんだけど……ダメかぁ。じゃあまた何か考えついたら相談しに来るわ! サンキュ鈴ヶ屋!」


「頑張れー」


 この部屋から出て行ったクラスメイトの男子を見送って、溜め息吐いた。珍しくトールもいない空き教室を眺める。

 さっきの男子生徒は、漫画家を目指しているらしい。客観的な感想が欲しいみたいで、私に頼って来るのだ。私の溜め息の理由はそこにある。

 私、便利屋じゃないんですが。


「今日もまた、校内の問題についての相談はなし……か」


 グラウンドを駆け抜ける解決シャッセ部の方々を見て、更に溜め息。あの人達の方が、守神である私より信頼されてるんだね。

 元々、前の世代最後の守神N・Nが創設したために、学園の問題は彼女達が任されることが多く見られる。今は、守神とほぼ対等に並べる存在であるユラが加わったから、前よりもずっと。

 全校生徒は未だ、私を守神として見てくれてはいないのかも。


「もし、ユラでもどうしようもない災厄が生まれたら、都合よくていいから、真っ先に私を頼って欲しい」


 守神がいるから大丈夫。全部なんとかしてくれるから問題ない。──そんな甘くないんだよ。

 もしもこのまま災厄の力が増幅して行くのなら、いずれは犠牲者が出る。災厄は、決して侮ってはならないものだ。

 それに、私が守神としての役目を失ったなら、ただの災厄になってしまう。それは絶対に嫌だ。


「だから私を頼って。私を、さぃ……」


「分かった、遠慮なく君を頼らせていただくとしよう。鈴ヶ屋マイカ」


「おおっとガチでビビったぁ。何何急に何いつからそこに?」


「今さっき二分くらい前だ」


「嘘つけ。流石に気づくわ」


 しかもさっきなのか二分前なのか、テキトーじゃんか。どっちかにしろよ。

 因みにこの人、一応知り合いです。私のクラスメイトなんで。話したこと殆どないけど。


「今日は折り入って君に頼みたいことが出来たんだ。実は数日前から変に思っていたことなんだが」


 度の薄そうなメガネをクイッと正し、持参したらしいクリアファイルを開く男子生徒。

 ──彼は、『阿良川リョーキ』。メガネが似合う知的男子だ。

 因みに、知的に見えるだけで別に知的ではないという、見かけ倒しの男。口調は素でアレなんだけど、よく聞くと内容は酷かったりする。


「阿良川くんが私に頼み事って珍しいね。ここに来るのも初めてじゃん」


「掃除には来たことがある」


「あ、それはどうも。アホかお前」


「普段は全て自分でやってやるという感じの俺だが、今回は一人でどうにか出来ることではなくてだな」


「自分で説明すんな」


 こっちの話も殆ど聞かず、ファイルから一枚の紙を取り出した阿良川くんは、会話と全く結びつかないくらい真剣な顔をしていた。


「きっと、君も同じ気持ちだと思うんだ。──この時期にクーラーがないのはおかしい」


「マジ同意」


「だと思ったよ。よく顰めっ面して教室にいるからな」


「そんなに? 君は私のことをよく見てるのね」


「席が斜め後ろだから見えやすいんだ」


 ああ、せやった。うちとこの人席近いんやったわ。あはは。

 で、ですよ。この学園の悪いとこと言えば、真っ先にクーラーがないことが挙げられるのです。クソ暑いんだよ真夏だぞ。


「だから今署名を集めているんだ」


「……署名?」


「そう、この紙こそが署名だ。今現在の在校生は千二百十一人、その全てを集めるのは時間がかかる。今は二百八の署名を得ていて、更に守神である鈴ヶ屋の署名を入手出来れば、確率が跳ね上がる筈だ」


「何の確率?」


「クーラー導入の確率」


「署名しますペン貸して」


「助かる」


 結構本格的なプリントがしてある紙に、自分の名前を綺麗に書く。これでよし。クーラーないまま蒸し暑い教室で授業とは、もうバイバイしたい。

 でも、幾ら私が署名したからといって、この枚数じゃまだキツいと思う。六分の一程度だし。せめて、半分? いや厳しいよなぁ。


「俺はこの後、先生にコレを見せてくる。二百人以上の生徒と、学園を守ってくれている鈴ヶ屋マイカまでもが、この状況に不満を抱いているんだ、とな」


「あ、うん頑張って頼んだ。てかよく二百人も集められたね」


「二年全員から受け取ったからな」


「やっぱり皆暑いんだね。そりゃそーだ」


 阿良川くんは、ダッシュで職員室の方まで向かって行った。

 そう言えば、何で署名なんだろう? もしかして、先生達が署名集めてこいみたいな感じで指示したのかな。阿良川くんだったら疑いもせず普通に受けそう。

 何はともあれ、十分かどうかは不確かだけど署名はあるんだ。信じて待とう。

 さらば蒸し暑く汗臭いだけの嫌な教室よ!


 ──期待、してたんだけどさ。


「まさかの、クラスに一つ扇風機が置かれるだけとは。ひとクラス三十人だよ? 風来るかい」


 担任の先生から報告された内容に、「全クラスにエアコンをつけられる程金は使えない」とあった。中等部、高等部だけで電気代とかがハンパじゃないのだそう。何気に納得した。

 でも、さ。扇風機一つはないだろ。せめて両端に一つずつがよかった。私当たらない。


「窓開けよう。それくらいは許される筈だ。というか許されなかったらキレる」


「私も。いっそのこと空き教室で暮らす」


「私もマントが暑いんですよね……」


「脱げばいいだろそれは」


 ユラも阿良川くんも私より扇風機から離れてるから、当然暑そう。一番近いあのコは気持ちよさそうだね。爽やかな笑顔。

 休み時間とか、あそこに人が密集してる気がする。


「ところで気になっていたんだが、君は別に授業を受けなくてもいいんじゃないのか? 守神は学園を守る代わりに自由が約束されている筈だ」


 窓を開けた阿良川くんが、不思議そうな顔をする。外の空気に一直線だったユラは、照りつける陽射しに項垂れた。

 阿良川くんの言う通り、守神には授業を受けなきゃならない決まりはない。サボりたい時にサボれるのだ。


「だけど私は、入学式で他の生徒同様に授業を受けるって伝えてあるから。私自身勉強はしておきたいしね」


「そうか」


「どうせ直ぐ死ぬことになるのにですか?」


「お前黙れよな」


 腹が立つユラに、水をぶっかけてやろうかと思った。そうしたら涼しいでしょ。ついでに透けて見える下着に興奮した男達の餌食となればいいのに。

 この学園の男子って、あまりそういうことに興味なさそうなんだけど。一部を除いて。


「やはり暑いな。こんなんで、落ち着いて寝られるもんか」


「いや寝るんかい。真面目そうに見えるだけでマジメじゃないのは知ってたけど、不真面目過ぎるだろ」


「この学園には、全校生徒から集めている金がある。一人、月三千円。勿論その殆どは行事などに活かされるのだが、この学園は大した行事もない。クラス全てにエアコンをつけるくらい金はあった筈だ。それなのにケチッた奴らに向けてやる顔なんてない」


「子供かあんた。ニュアンスだけなら真面目だけど、中身は不貞腐れてるだけじゃん」


「俺知らない」


「子供か」


 私だって念願のクーラー導入! って期待が爆発してたんだけど、ここまで不貞腐れはしない。

 でも阿良川くんが言うことが間違いじゃないことも思い出した。この学園の電気代は、生徒達から集めた分で払ってる筈。本当にケチりやがったんだ。

 あんのつるっパゲ校長にふにゃふにゃ教頭、鍋で煮込んでやろうか。


「俺なんて、更に千円ずつ支払って、昨年からずっとクーラー導入を訴えかけてたというのに」


「正直に凄いね」


 私みたいに、働かずに国からお金が入る身ならまだしも、一般人でそんな払える人中々いないよ。トールなんて、「高くねーか?」って毎月キレてる。

 皆、よくこの学園選ぶなぁ。一種のぼったくりだよこれ。


「千二百人ちょいから毎月三千円も集めてたら、余裕はある筈だよね。確かに」


「やはり納得出来ない。俺、この後校長達に用があるんでまたな」


「あ、うん。めんどいことには巻き込まないでね」


 ズンズンと廊下を進んで行く阿良川くんにバイビー。間違いなく、校長達に物申しに行くんだろうなぁ。

 クーラーにそこまで熱を込められるって、凄いよ。私もクーラーは欲しいけど、先生達に直談判しに行く勇気とやる気はない。


「あの人変ですね、エアコンマニアですか?」


「いやそれはないでしょ。皆そうだと思うけど、この学園暑過ぎるんだよね。何だろう、外部からの()()から守るために隙間が最低限だからかな」


「……なるほど。確かに、やたらキツキツな感じしますね。扉も一切の隙間がありませんし」


 外部からの攻撃とは、災厄が生み出す災害。主に、目に見えるウィルスとかへの対処だと思う。

 目に見えるウィルスは、それだけ大きいということ。つまり、塊より狭いとこには入ることが不可能なんです。けどここまで密室にするのはお門違い。

 守神に任せてばかりいられない教師達が、無駄な足掻きをしたってことだろうね。


「そんな簡単に防げりゃ世話ないっての」


「ですよね。あ、マイカさん次何ですか?」


「私美術なんだな。ユラは卓球でしょ? また後でね」


「いえ、今日はもう残り一緒の授業なくて、私は部活なので会いませんよ。さようなら」


「ムカつくな本当に」


 何であんな人を小馬鹿にした喋り方なのでしょう。でもユラが部活ってことは、今日はトールと帰ればいいかな。別にユラと帰ることはないけど。


「ああ、俺放課後先生に呼ばれてるから一緒に帰れないわ。悪いすず、また明日な」


「……またね」


 美術が終わった後、共に美術を取っていたトールに振られた。今自分を犬に喩えるなら、耳も尻尾も垂れ下がっていることでしょう。

 普段は、あんなアホ共と帰る時まで一緒にいたいとは思わないけど、トールすらいないのは寂しい。かと言ってののちゃんや赤羽先輩は身の危険を感じるから嫌。

 一人で帰るのかぁ。あーあ……。


「おお、丁度いいところに。鈴ヶ屋、今日二人で帰らないか?」


「阿良川くん……?」


 昇降口に降りたら誘われた。阿良川くんは確か、途中までなら私と同じ帰り道だったような。


「いいよ。何か用事でもあるの?」


「いや別に。何だか突然、君と帰りたくなってな。ああ、エアコンの件は考えてくれるらしいが、代わりに扇風機は全戻しになるとのことだ」


「へぇ、まあ何だっていいけどさ」


 扇風機売った人面倒臭いだろうなぁ。戻されてしかも今度はエアコン大量購入だもん。しかも短期間で。

 龍ノ根学園は、小〜高等部まで揃ってるバカデカい学校。それを纏めてるから悪いんだと思う。分ければいいのに。因みに、小等部はかなり離れた場所にある。


「君は、ENDガールとして、あの学園をどう思っている?」


「……広い。守る範囲が普通じゃない。移動が面倒臭い。かな」


「同感だ。次は空中エスカレーターでも頼んでみるか」


「怖ぇよ」


 何で空中にエスカレーター設置するんだよ。多分空中廊下のそれバージョンを考えたんだろうけど、とてつもなく怖いから。足が竦むから。

 そんなんならエレベーターがいい。ちゃんと非常ボタンとかついたやつ。

 阿良川くんは、私との分かれ道で立ち止まる。神妙な顔つきで、真っ直ぐ私の目を見た。


「俺は、あの学園が嫌いじゃない。むしろ好きだ。だが、少々君を頼りにし過ぎている」


「そうなの?」


 私としては、全く頼られてない気がするんだけど。誰も相談来ないし。


「頼まなくても君がなんとかする。そんな噂話は既に拡がっている。君は何でも屋ではなく、災厄を、命を賭して封じ込むという使命を持った、守神だ」


「うん、そうだけど。それが、どうかした?」


「だったら俺は、大勢のために短い命が定まった君達のために、学園をよりよくして行きたい」


「……!」


 こんな人、初めてだ。「守神は自由気まま」「何しても許される」「自分達とは違う」──「だったらこき使ってやれ」。基本は、こんな考えの人ばかりだ。

 私達守神が、普通の人間でありたかったという思いを胸の奥で持っていても、周りの人間からしたら別の生き物。結局は十八歳までで死ぬんだから、一週間で死ぬらしいセミと変わらない……って、皆思ってる。

 だからその間にどんな扱いをしても、絶対に居なくなるから大丈夫だ、って。


「阿良川くんありがとう。守神に対してそんな風に考えてくれてる人、そういないからさ。でも気にしないで」


「気にはする。ただ無理には何も言わない。今鈴ヶ屋が楽しめているなら、俺から言うことはない」


 真意を確かめるように、阿良川くんはじっと私を見つめる。

 私はトール達との日常を思い浮かべて、


「楽しいよ、凄く」


 少しだけ、微笑んだ。これは嘘じゃない。

 トールと、赤羽先輩と、ののちゃんとユラ。正直呆れてばかりだけど、楽しいことに変わりはない。

 だから、今はこれでいい。


「そうか、よかった。それじゃあまたな鈴ヶ屋」


「またね」


 阿良川くんの優しい微笑みが、暫く瞼の裏に残り続けた。

 ──途中から目の前を通過した蛾に入れ替わったけど。

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