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ENDガールS・M  作者: ☆夢愛
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第一回『絶望の幕開け』

「鈴ヶ屋マイカです。本日より、ここ龍ノ根学園に移籍することになりました。私は守神です。何かありましたら、気軽にご相談ください。よろしくお願いします」


 ──今思えば、転校初日のあの挨拶が問題だったのかも知れない。

 確かに私は学園の守神で、特殊な能力を持つ。生徒達が抱える、学園についての問題なら積極的に変えていくつもりではあった。

 だけど、学園を守る役割は私ではなく、先代の守神であった通称「ENDガールN・N」という女性が立ち上げた「解決シャッセ部」の変人達に委ねられていた。

 因みにENDガールというのは、その先代の友人がテキトーに考えた守神の総称らしい。N・Nは、長野原・ネノって意味。

 だから私の場合は、ENDガールS・Mになる。

 それで、結局守神としての役割を成せていない私が何をしているか、となる。


「マイカ〜! どうしよう彼氏に振られちゃったぁ。『重い』って言われたんだけど、私の何がいけなかったのかなぁ……」

「多分、毎朝玄関で待ち伏せしてるのと、お昼ご飯は必ず一緒じゃなきゃ呪うとか、他の女子と少しでも目が合っただけでも文句を言うからだと思う」


「すずっチ、どう俺のヘアスタイル。女子人気出そう?」

「うん、ムリ。何で半分モヒカンのロングヘアーなの?」


「小鳥達が何やら騒いでいるね。僕らの出逢いを祝福しているかのようだ。向こうで、お茶でもしないかい?」

「結構です。私、メロンジュースが好きなので」


 ──こんなんばかり。これ間違いなく守神の仕事ではないよね。皆私をカウンセラーか、相談に乗ってくれる人くらいにしか認識してないんじゃないかな。

 私の学年はかなり頭悪いって聞くけど、そんなもんじゃなくない? 最後のは先輩だけどさ。


「よっ、すず。何かまた変な相談者来てたりした?」


「よく分かったね。流石長年共にいる友」


 私が相談を受け付けているのはD棟の二階、空き教室。机と椅子を二つだけ用意してもらって、休み時間と放課後は大体ここにいる。

 で、教室の扉を開けて入って来たのは、私の古くからの友人である『榊トール』。男だけど私と同じくらいしか身長がないチビ。

 トールはもう一つの席に腰掛ける。そこ、相談に来た人用なんだけど。


「どうだ? 今日は。災厄は感知出来ないか?」

「ああ、無いね。まずあったら困るんだかけど」

「でもそうでもなきゃすずの仕事なくね?」

「それでいいんだよ。何でメンドー事を増やさなきゃならないんだよ」


 分かってるのか? お前は。私が必要ってことは、少し危険だってことなんだよ。何も無ければ平和なんだよ。無くていいでしょ。


「なーんであんな変な先輩達に頼るのかね、他の連中は。ENDガールが居なくなった今、あの部に存在意義なんてねーだろ」

「……そうかもね」


 私は少し躊躇って相槌を打つ。

 私のENDガール(守神)としての存在はこの学園でも知れ渡っている。解決シャッセ部の連中も、幾度となく「先代のあとを継がない?」と迫って来てる。

 でも、私にそれを担う資格はないんだって、自分で分かってるんだ。


「そう言えば、先月守神の一人が『災厄』の封印に成功したみたいだぞ。ニュースでやってた。……お疲れ様、だよな」


 トールが神妙な顔つきで言う。確か、南端の守神のことだ。


「守神って、何で災厄を封印したら死ななきゃいけないんだろうな……。すずも、いつかはそうなっちまうってことなんだろ」

「うん。あと、死ぬわけではないんだよな、厳密に言うと。守神は災厄を封印して、人柱となるだけ」

「それ! 死ぬようなもんだろ!」

「ま〜ね」


 私が鼻で笑うと、トールは悔しそうに手を握り締めた。

 さっきから話に出て来る「災厄」とは、日常で突発的に起こる「災厄」とは異なるもの。

 私達守神は三年に一度生まれる。それは、少しだけ先に生まれる「災厄」を呼ぶ人間を封印するためなんだ。つまり「災厄」も人間。

 学園を守る私達とは正反対に、彼女達は災いを呼び寄せる。それが社会に出てしまわぬよう、私達守神は高校卒業までに災厄を封印しなくてはならない。

 まぁ、そんな能力を手に入れられるのが中学生くらいからだから、実質期限は六年なんだけど。その頃はまだ災厄の力も弱くて、見つけにくいんだよね。

 だから基本、皆高校に入ってから実行してる。

 ──私の場合、これまでとは大きく違う点があるんだけど。


「そういや、その災厄の内一人はまだ見つかってないらしいな。この学園にも変な事件多いから、ここにいると思って来たのにいないし」

「最後の一人は、目立たないのかもよ」


 何せ、その最後の一人は私だから。


 誰も知らない。トールにさえ教えていない。

 私は守神であり、災厄でもあるということを。

 自分自身で気づいたのは中学三年生の頃で、今から二年前ほど。私の家が火災に巻き込まれ、その被害は甚大だったことが理由。

 私の中で、邪悪な感情が芽生えていたから。


「『私は災厄です。封印してどうぞ』って出て来てくれりゃあ早いのによー」

「そうだね。そうだけど、そんなマゾいないと思う」


 そもそも、言える訳がない。自分が災厄だーって、ずっと信頼してくれている友人に、そんなこと。

 知ったらきっと、皆が私を拒絶する。トールだって例外じゃない筈。

 こいつのペットの猫、マッチャは私が呼び寄せた災いによって死んでしまったのだから。


「気長に待ってよ。いつか私が災厄を見つけたら、一番最初に伝えるから。それで──」

「おう! そんときゃ俺もすずと一緒にそいつボコボコにしてやるからよ! いつでもいいぜ!」

「……うん」


 酷いや、ボコボコにするだなんて。「私が災厄でした」なんて言ったら、後になるほど最悪な結果が待っていそう。

 でも、まだ勇気は出ない。


「それよりすず、お前下らない相談とか乗る必要なくね?」


 トールが呆れた口調で言う。仕方ないだろ、私が大雑把に説明したのが原因なんだから。


「平気。ただ、赤羽先輩のことは出禁にしたい」

「ああ、あのナルシストか。確かに気持ち悪いわな。今日もカレーパンに向かって『やぁ、君は僕に釣られてしまったのかい? 僕の胃袋に入りたくて、仕方がないんだよね。喜んでいただくとしよう』なんて笑顔で言ってやがった」

「待て、寒気がするからやめろ」


 あの人のことを誰も問題視しないのが凄い。今まで「あいつを駆除してくれ」とかいう相談は来たことがない。

 もしかしたら間接的にでも関わりたくないのかも知れないけど。

 私だってそうだ。関わりたくないよあんな変人。でも、何か気に入られたみたいで、しつこく付きまとって来るんだ。


「世に言うストーカーって奴か。すず、俺がシメて来ようか?」

「それこそ待て。私の友人が上級生に手を出したとか広まったら、更に立場がなくなるから。私のことが好きなのは分かるけど、ブレーキは常に踏んでおいて」

「ばっ……⁉︎ お、お前のことなんてべ別に好きじゃねーし! あいつがキモいだけだし!」

「ツンデレか。私はトールのこと好きだけどね、面白いし」

「バカにしてんのか」


 もち、バカにしておる。面白いし。

 嘘じゃないけどね、好きなの。だからこそ嫌われたくないんじゃないか、分かれよそのくらい。

 言ったことないから分かる筈もないけど。


「……そろそろ完全下校の時刻になるね。帰ろうか、トール」


 午後の六時を過ぎたら、学園の敷地内にいることを許されない。昨年まではお説教だったけど、今年からは罰として所持品を一週間奪われるペナルティが確立された。

 問題を起こしたり校則違反した生徒も対象で、私は以前遅刻して靴下を奪われた。代わりに長靴履いてたけど、それには文句無かったんだよな。


「この学園の先生って、変態多いのかな」

「急にどうした。去年の入れ替えから確かに顔は変態っぽいの増えたけど、一応教師だし弁えてはいるんじゃねーか?」

「いやだって靴下って……。中にはベスト取られた女子とかいたりするんだよ」

「ベスト……? 全力を奪われたのか?」

「お前は正直に馬鹿だよね。可哀想に」

「何だとコノヤロウ」


 教師が男ばかりになったのに、女子生徒が私の学年から倍くらいに増えたのが問題だろうか?

 だとして、教え子の衣服を没収するか普通。スマホ没収とかならまだ分かるけど。

 てか、預かられてる一週間何に使われてたんだろうか。何にも使われてないことを祈るしかない。


「……例えばトールは、私の靴下を奪って自分の部屋に置きっぱだったら、どうする?」


 私のことが好きそうな友人に、試しに聞いてみよう。もし担任が私のことを気に入っていた場合の参考にはなるかも知れない。

 トールは一旦唸って考え、驚く程真剣な表情で答えてくれた。


「洗う。流石に、履いてあった物をそのまま放置するのは好きじゃない。念入りに毎日洗濯して、綺麗にしたらすずに返すかな」

「お前確か洗濯好きだったね。悪かった」

「…………何で謝るんだよ?」

「別に。とにかく悪かった」


 疑ってごめんね。青少年がその程度で済むとは思ってなかったもので。本当私の偏見でしたごめんなさい。

 そもそも、パンツとかじゃないんだし無いか。

 と、いうことで。


「じゃあ、奪ったのがパンツだったらどうする?」


 聞いてみよう。

 トールが噴き出した。


「何でそんな物奪うんだよ馬鹿かお前⁉︎」

「いいからいいから。流れで奪った感じで考えてみて」

「捕まれよそんな奴!」

「さっさと答えろよ下校しないと取られるかも知れないでしょ」


 トールは今度は悩ましい表情になって、眼を逸らす。お? これは何か、期待出来そう。


「……洗う」

「……はい?」

「だって人が穿いてたもんだぞ! 一度脱いだら洗う! 当たり前だろ⁉︎ 一週間念入りに洗って、そんで返す!」

「どんだけ洗いたいんだよ。使えよせめて!」

「何に使うんだよ⁉︎」

「…………あ、ごめん聞かなかったことにして」

「何なんだお前⁉︎」


 取り乱してしまった。私は自分の痴女ランクの高さに感動してしまったよ。死ねばいいのに私。

 人畜無害な友人に下着渡して「使え」とかイカれてる。誰か私を処刑してくれ。


「なぁすず。すずってさ、次の土曜日暇か? 暇だったら頼みごとがあるんだけど」


 靴箱に入れられていた無数の小さなラブレターを雑に鞄に突っ込んでたら、トールがそわそわしながら聞いてきた。

 これはもしや、「週末デートしませんか」というお誘いではないだろうか。

 少しだけ期待して、なるだけ冷静に取り繕って頷いた。


「暇、だけど? 何?」

「新しい服買いに行こうぜ! ほら、もう直ぐ夏だろ? そしたら夏服が必要だろ? 流石に去年のじゃ少しサイズも変わってる可能性があるし。どうだ?」

「洋服を、買いに行くだけ?」

「いや、俺がお勧めする洗剤を教えてやる。皺がつき難く、色も落ち難いとっておきのがあるんだ! 勿論抗菌作用もあるし、体臭をガードする効力もある!」

「お前の頭の中はどうなってるんだ」


 何だし。私との買い物はデートにすら入らないってのかこのチビ。期待して大損だよ。

 私は何も言わずに靴箱に向き直って、またラブレターを鞄に突っ込み続ける。


「おい⁉︎ 返事無しかよ! もしかして、嫌だったり、するか……?」


 トールがしゅんとする。そんなに私と行きたいのか。可愛いなこいつ。

 わざと溜め息を吐いて、不安気に私を見つめるトールをチラッと見た。


「いいよ。土曜日ね。覚えておく」

「よし! サンキュ、すず。あ、外出用の私服はなるべく明るめの色がいいと思うぞ。紫外線集めるから、黒とかはNG。さっきも言ったようににおいをガードする洗剤持ってるけど貸すか? 気になるなら制汗スプレーも……」

「分かった分かった。トールはまず自分の脳みそでも洗っときな」


 アホ面で「何で?」と呟いたトールに背を向けて、靴箱のラブレターを鞄に──って、ちょっと待て。


「多くないか、コレ。もう三十枚くらい突っ込んだのに、まだ溢れ出て来るんだけど。靴箱そんな広いっけ?」

「うわ、本当だ。何だよその量。すずお前、そんなにモテるのか」

「生憎赤羽先輩にしかモテたことはないんだよね。差出人、全部一緒だコレ。便箋も留めてあるシールも同じだし」

「おお。誰だこんな異常なことする奴」


 単純に赤羽先輩だと思うけどね。好き好きアピールして来るのがあの人だけって話で、ラブレターで告白は他の人って可能性は勿論ある。

 でも、こんな変なことするの赤羽先輩くらいしか知らない。


「差出人──『赤羽セイ』。ほらね。んで内容は……」


 ラブレターの一つを開封して中を見てみる。トールも覗き込んで来るけど、特に嫌ではないし気にしない。

 しかし本文は、怖気が走る程嫌だった。


 好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ……。


「「ギャアアアアアアアアアアアアアアア⁉︎」」

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