表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ENDガールS・M  作者: ☆夢愛
11/54

第六回 続!『危機〜モラ!』

 目立つのを嫌うとか嘘じゃん。自ら出向いてるじゃん。

 てか、キキーモラって悪霊か何か? 攻撃的な正確なの? 多分私の災厄の力で生まれたものだと思うんだけど、私を狙うんだ?

 ……でも、私を守神って言ったよねさっき。てことは、私を守神として、敵として認識してるって訳か。めんどいな。


「いい加減、自分が訳分からんわ。災厄なのに守神として我が子に狙われるとか混乱するわ」


 守神自身のちからでは、物理的な生物相手には殆ど通用しない。だからカタツムリの時みたいに武器を使うのだ。

 さて、今回はどうやって戦おう。学園全体に結界を張るような相手だしなぁ……。


「校内でランチャーぶっ放す訳にもいかないし、かと言って近づかれるのも怖いし」


 そうこう考えてる間にスローモーションで進んで来てるし。

 こっわ! 私カタツムリみたいな虫類も苦手だけど幽霊とかもお漏らししそうになるくらい怖いんだよね。うわぁ、来る来るくるくるク〜ルクル。

 ──スマホの画面を素早く操作して、家からワックスを取り出した。


「これは時間稼ぎ用! 先生ごめんなさい!」


 ワックスを廊下にぶち撒ける。全部五つ分。びちょびちょだ。……くっせ。

 でもこれで、転びやすくなったから迂闊に近づいて来れない筈。


「ん? 全然普通に進んでね? スローモーションだからあまり滑らない? 嘘だろおい」


 平然と歩いて来るキキーモラに危機感を覚える。今更。

 そしてもう一つ今更気がついたこと。キキーモラの口元は真っ赤に血塗られていた。

 アレかな? 攻撃した子達のかな? ──ねぇ泣いていい?


「そうだ! そのワックスついた靴じゃ階段で絶対滑る! そんなスローじゃ絶対転ぶ!」


 階段から滑り落ちたところを殺虫スプレーで狙い撃ちしよう。またびちょびちょになるけど。

 階段から踊り場に降りて、殺虫スプレーを構える。案外早くキキーモラの姿が見えて、私の方へクルッと向いた。怖い怖い怖い怖い。


「……え? 浮けるの? マジで? もしかして廊下移動するのが早くなったのって、浮いてたから?」


 心臓がドンドンドンドン大きな音を立てて、その振動で目眩がした。足が竦みそうになるのをなんとか堪えて、浮遊して階段を降りて来るキキーモラに殺虫スプレーを投げつける。

 そんで全力で、更に階段を駆け下りた。


「ムリムリムリムリムリムリムリムリーーーーーーー‼︎」


 必死に、ただただ駆け抜ける。何処に向かっているのかは、自分でも分からない。

 だってあの人外、私を呪い殺すのかって目つきで見つめて来て、移動中も見つめて来てて、マジ漏らすかと思ったんだよ。

 ホラーは無理。やめてくれ。

 そう願うのに、基本災厄は恐怖ばかり。


「あだっ⁉︎ ひ、日々の運動不足が……」


 特に何もない廊下でビッターンと転ぶ。鼻血は出ていないようでよかった。


「モリガミ……」


「ひっ!」


 恐る恐る振り返ったら、直ぐ手前にキキーモラが立ってた。お人形さんみたいな氷の表情で、軋み音が聞こえそうなくらいカクカクとしながら私を見下ろした。

 誰か、オムツを持って来てくれ。今ならいつでも漏らせる。


「モリガミ……モリガミ……」


「あ……あぅ……あ、あ」


 キキーモラの小さな手が、頬に触れる。わぁ冷たい。何だろう、冷凍庫の中みたい。

 頬をすりすりゴリゴリ撫でられて、私は女の子座りで震えてるだけ。泣きそう。泣かないで我慢出来てる私偉い。


「モリガミィ……!」


 ──キキーモラの口がガバァッと大きく開いて、長〜い舌と沢山の鋭い歯がこんにちわ。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ‼︎」


 キキーモラを突き飛ばして、またも逃げ出す。何だよアレ化け物じゃんか化け物だけど! うわぁ漏らした! よく分かんないけど絶対漏らしたと思う!

 てか私走る速度遅っ! 違う腰抜けてて上手く走れないんだ!


「モリガミ」


「やだやめて触らないでムリムリムリムリマジでムリだからぁあああああっ‼︎」


 何がどうムリなんだろう? 知らねーよムリだからムリなんだろボケ。誰かパンツ持って来て。

 混乱して、泣きじゃくって視界がボヤける。私の身体にはキキーモラがしがみついていて、引き剥がせずにいる。

 守神のくせに、ここで喰われるのか。自分で生み出した災厄に食い殺されてしまうのか私は⁉︎


「でもそれってハッピーエンド⁉︎ 守神も災厄も纏めておさらばハッハッハ何だ封印と変わらないじゃ〜ん!」


 混乱し過ぎて、アホなことを叫ぶ。このままじゃ病んでしまいそうだから誰か助けてくれ──なんて、私がトールを逃して他の人達はトールが逃がしただろうし無駄だけどね。

 先代、これどうやって倒したらいいの? 貴女は苦手なものとか、どうやって退治して来た? 教えてください。

 あと出来ればパンツ持って来てください。


「──その手を放せ、化け物め」


 私の身体に纏わり付いていたキキーモラが、突如離れたのが分かった。けど勢い余ってまたビッターン。鼻が痛い。

 それより今、聞き覚えのあるイケボが聞こえた気がするんだけど。いつもとは随分と、違った雰囲気で。


「マイカ、よかった何処も怪我はしていないようだね。間に合って本当によかった」


「あ、赤羽先輩……?」


 いつもなら蹴り飛ばしてる筈だけど、今は抱き締められてるのが凄く安心出来た。震えも、何だか治っていくような。


「先輩、逃げてなかったんですか」


「校内のパソコンでキキーモラについて調べていたら、君の悲鳴が聞こえたからね。捜し回って、ようやく見つけることが出来た」


「……ありがとう、ございます」


 でも、こんな失態を人に見られるのは恥ずかしいかも知れない。さっきは必死で助けてなんて喚いてたけど。

 守神のくせに何やってんだって、先代達や今何処かにいる守神の皆や、国のお偉いさん方達にドヤされる。

 何より、一般生徒に守られるとか……。


「マイカ、そんなに落ち込むな。君は守り神である以前に、一人の女の子なんだから。怖いものの一つや二つ、有って当然だ」


 赤羽先輩が、ハンカチで優しく私の涙を拭う。そのハンカチを私の手に握らせて、廊下に倒れるキキーモラに向き直った。

 今日の赤羽先輩は、普段の痛い変人とは打って変わって、凄くかっこうよく見えた。


「僕は君を守るために存在する。愛しい女性に守られるだけでは、格好つかないからね」


「でも、相手は災厄ですよ。どうするつもりなんですか?」


「マイカ、何か武器は出せるかい? テキトーに選んでくれて構わない」


「武器……! フライパンでもいいですか?」


「問題ないが、それは武器じゃないと思う」


 スマホの画面を操作して、自分の家を映し出す。キッチンの棚から一つ、フライパンを取り出した。

 受け取った赤羽先輩はそれをまじまじと眺め、うんと頷いた。


「よし、物は試しだ。やってみよう」


 キキーモラがゆらりと立ち上がって、あの大きな口を開く。手の先から何か伸びたと思ったら、鋭利な爪だった。

 普段あんなで、運動が嫌いな赤羽先輩でどうにかなるのかな。いや私が言うのは至極失礼なのだけど。


「モリガミ……イネ!」


「残念だがお前の相手はマイカじゃない。僕だ」


「ガッ……⁉︎」


 フライパンで、キキーモラの顔面を容赦なく叩く赤羽先輩。まさか縦で殴るとは思わなんだ。

 性格的に、「女性の顔に傷はつけたくない」タイプだと勘違いしてた。それともアレを女性として見ていないのか、どっちだろう。


「何度か叩いてみたが、痣らしき痕が増えるだけで倒すまではいかなそうだな……」


「何か他の武器、国の倉庫から探してみます!」


「頼んだ。おっと危ない」


 掴みかかろうとしたキキーモラの腕が、フライパンで殴り飛ばされる。あれ絶対痛い。

 私は急いで倉庫を漁るけど、ランチャーにガトリングガン、何か説明が面倒な地雷など、被害が大きい物ばかりだ。他の守神も使うし……減っていくよね、便利なのは。


「とおおおおおおおおおお!」


「「え?」」


 私の背後から、ドタドタ大きな音と大きな声。振り返ったら、その瞬間に誰かが通り過ぎて行った。

 今のって……


「鈴ヶ屋先輩に何してるの! この怪物めえええええ!」


「ののちゃん⁉︎」


「ギギッ……⁉︎」


 電車も真っ青の超スピードで、キキーモラを蹴り飛ばしたのはののちゃんだった。間近で見ると改めて早過ぎる。

 数メートル軽く吹っ飛んだキキーモラの腕が、おかしな方向に捻じ曲がっている。ののちゃんと初めて出会い衝突したことを思い出して、血の気が引いた。

 そのののちゃんはパンパンとスカートを払って、ニコッと笑った。


「鈴ヶ屋先輩と赤羽先輩、私が来たからにはもう大丈夫ですよ! あんなの、軽く捻り潰してやりましょう!」


「こえーよお前。心底こえーよ」


 何で守神や図体のデカい歳上の男より強い気でいるんだよこのコ。

 ……でも確かに、この二人が来たら不安もなくなって、脚にも力が戻って来た。

 深呼吸して立ち上がる。スマホから弓矢を取り出して、二人の横に並んだ。


「二人とも、一緒に頼めるかな。私って実は臆病でさ、しかも弱くて……。本当は一人じゃ何も出来ないようなダメな奴なんだ」


 きっとこの学園の誰もが私を誤解している。守り神は全て強いんだって、勘違いしてるんだ。

 私は違う。前にも言ったけど、私は先代達のように器用に戦えない。さっきみたいに直ぐ泣くし、本当に弱い奴なんだ。

 ──そんな私に、二人は優しく笑って見せた。


「もちろんだ、マイカ。僕は君のために生き君を守る。……ただ、マイカはダメなんかじゃない」


「そうですよ先輩! 元気出して! 先輩は誰よりも学園を守ろうとしてくれてる、凄い人なんですから!」


「……ありがとう、二人とも。お世辞でもめっちゃ嬉しい」


 私は泣き虫で臆病で弱くて怠け者で文句ばかりでテキトーな人間だけど、二人の言うように、学園を守りたいという気持ちだけは負けるつもりはない。

 それが、守神としての使命なんだから。


 自分の災厄なんかに、負けて堪るかって話ですよ。


「一瞬でいい。絶対に躱せないくらいの隙を作ってくれるかな。守神のちからを使って、たった一つの矢で──射抜く!」


「分かりました!」


「よし、やろう」


 赤羽先輩がキキーモラの顔面をフライパンで叩いて、ののちゃんが圧巻の迫力で顎を蹴り上げた。うおお、浮いてる。

 二人とも、凄いなぁ。一般人なのにあんな怖い災厄に立ち向かえるなんて、本当に凄い。


「心から、尊敬出来るよ」


 指を離して矢を放つ。落下するキキーモラの、頭を射抜いた。性格には顎からだけど。

 キキーモラの身体は空中で固定されて、パキパキ耳障りな音を立てて石化した。これがこの矢の効果だ。


「ほっ」


 赤羽先輩が、何となくでだろうけど石化したキキーモラを殴る。ガラスみたいに亀裂が入って、そのままバリーンと割れて消えた。

 ののちゃんが何だか感動している様子。先輩は一息ついて、腰に手を当てている。


「……先輩、驚かないんですね。あんな風に災厄が倒されるのを見て」


「そうだね、今更って感じかな。先代である長野原先輩は僕らの入学式で戦車で放つような人だったし、その妹は学園を支配下に置いたりしていたし、不思議なものを見ても大して驚かなくなった」


「待って、先代もヤバいけどその妹さんもヤバくないですか」


「一応同級生だったが、今は行方不明になっているらしいね」


「大丈夫かその人⁉︎」


 先輩生徒達、凄いというか何というか……。いや直ぐそこに後輩でも凄いのいるけど。

 私は別の町からこっちに来たから、先代のことよく知らないんだよね、どの場所の先代のことも。

 この広い国に、たった五人……だしね。私の世代はあと私を含めてあと二人になったんだっけな。


「二人は……私が災厄を封印する時、どんな気持ちになる?」


 何となく、そんなことを訊いてみる。この二人は私を好きでいてくれてるらしいから、その時どんな反応をするのか、気になった。

 二人は一度見合って、それぞれ考え込んだ。


「私は、泣く泣く受け入れますね。守神の使命である以上、避けられないことだと思うから」


「僕は一緒に封印されちゃおうかな? なんてね。……とても穏やかなまま過ごせる気はしないかな」


「そっか……」


 私なんかのために、悲しんでくれるんだ。そんな風に思って、既に寂しくなって来た。

 自分で自分をどうやって封印すればいいのか、全然分からんけど。

 それと──


「トールは、どうするのかな」


 廊下の先から駆け寄って来る親友を見て、呟いた。赤羽先輩達はトールの呼びかけに気を取られていたらしく、誰にも聞かれていない。

 トールもさ、悲しんでくれる? 私が、憎い災厄だと知っても。


 ──ヤッベ、ワックスのこと思い出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ