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8. 主役だけど舞踏会を欠席したくなりました

サブタイトルを微妙に変更しています~


「お聞き苦しくて申し訳ありません、殿下。あの子、もう取り繕うのを止めたみたいで」


ルテール公爵夫人クロエが扇で口元を隠しつつ、ラファエルに話しかけた。着替え中のアリスの大騒ぎを聞いて、笑いを堪えきれない様子だ。

ラファエルは応接室(サロン)で夫人とお茶を飲みながらアリスがドレスに着替え終わるのを待っている。


「いえ、こちらこそ。約束もせずお伺いした非礼をお詫び申し上げる」


「それは構いませんのよ」


「というと?」


「殿下がいらっしゃると必ず私が喜びます」


「クロエ叔母様、ありがとう」

正確には従叔母だが、親しみを込めてラファエルはルテール公爵夫人を叔母と呼ぶ。

公爵夫人は扇を閉じて優雅に笑った。


「馬車の事故の時にはとても心配しましたが、あのあとはすっかり憑き物が落ちたように昔に戻って」


「そうですね。明るくて元気なアリスに戻りました」


「10歳位からかしら。段々と身分を意識しだして、張り詰めた顔をして」

公爵夫人が長い睫毛を伏せる。その言葉を聞いて、ラファエルはティーカップとソーサーを静かにテーブルに置いた。


「誰かに何か言われたのかも知れないし、自分で考えたのかもしれない。私には何も話してくれなかった……」


「クロエ叔母様……。大丈夫ですよ、アリスは……」



「お待たせしましたー!!!」


 開いたままの応接室の扉から、群青色のドレスを着たアリスが現れ、言葉を遮られたラファエルはクロエと目を合わせると可笑しそうに笑った。







応接室では、母と王太子殿下がお茶を飲んでいる。


 (何これめちゃくちゃ絵にならない?)


妙齢の貴婦人と王子様。スチルに欲しいわ。眼前に新規絵。ありがとうございます。


「何をぼんやり立ってるの。ご挨拶なさい」

お母様にそう言われて正気に戻った。


「はっ、よだれが出そうになってました。すみません」

そそと移動し、王太子殿下の前で深く淑女の礼をする。


「お待たせしました、ラファエル様。頂いた耳飾りと首飾りです。いかがでしょうか?」

顔を上げてもう一度微笑む。


「よかった。エメラルドは貴女の翠の瞳によく栄えている。先程出来上がったので、どうしても僕の手で届けたくて」

そう、先ほどラファエル様が王家からの誕生祝いということでアクセサリーを届けにきてくれたのだ。遣いの者でいいのに、御自らお出ましになられたおかげで、その試着のためにコルセットを締めてドレスを着るはめになった。せっかくのんびりしてたのに。


「ドレスは最終調整に出してますから、ラファエル様は本番を楽しみになさってくださいませね」


お母様はいつもより楽しそうに笑っていた。

(あー…『王太子殿下のエスコート』ってやっぱり周りは喜ぶんだな)


「クロエ叔母様、アリスは舞踏会でも今日と同じ色のドレスですか?」


「そうですね」


「では、僕も色を合わせていいですか?」


「ええ、ええ!勿論!」


「は?」

いやいや待て待て。お揃いとか、盛大に誤解されてしまう。一曲踊ってバイバイだろうからやめて頂きたい……と思っていたアリスをよそに二人がどんどん話を進めている。


「あわわ、あの、舞踏会まで日もないですし……そこまでしなくても」

おずおずと口を挟んだら、にっこり笑った王太子殿下から即答された。


「間に合わせます」

うわぁ権力使う気だぞこの王子様。


「では、うちも少しだけデザインを変えましょう」

うわぁ権力使う気だぞこの公爵夫人。


嵐を呼ぶ予感がする。

自分の誕生日パーティーだけど、欠席したくなってきた……。






「王太子殿下がエスコートなさるって本当ですの?」

「国王陛下から贈られたお祝いの宝石もとっても豪華とか」

「拝見するのが楽しみですわね」


 デルベ伯爵令嬢ジュリエット様、ダンテス伯爵令嬢カミーユ様……えーと、ドッカノ伯爵令嬢ナントカ様あとはもうよくわからない。来週にせまった誕生日祝いに招待しているご令嬢方に囲まれて、アリスは質問攻めに合っていた。

 明確に答えず笑顔で誤魔化して逃げ出し、自席に戻るとオスカーの姿が見えない。

あら?と思ったのを見透かしたように、アレックスが声をかける。


「オスカーならあっち」

アレックスが指を差したのはバルコニーだった。




 「オスカー、寒くないの」


 バルコニーの手すりに肘をついて庭園を見てるオスカーに声をかけたが、オスカーは問いには答えなかった。秋も深まって、涼しいと言うより肌寒い。


「ねえ、聞いてる?」

いつものように肩に手を置くと、焦ったように振り払われる。そして呟くような小さな声でオスカーが問うた。


「お前さぁ、俺じゃなかったのかよ」


「何が?」


「何がって、お前の誕生日のエスコート役だよ。『オスカーに頼もうかな』って言ってただろう」


舞踏会の招待状を渡したときだ。あの頃はまだ記憶が戻る前のアリスで、「(王太子殿下に断られたら)オスカーに頼もうかな」と言っていたのだ。


(す、すねているのか……可愛いな……)


「……ごめんなさい」


「別に謝らなくても」


「でも、確かにそう言ったわ。本当にそう思ってたし。何も言わずに勝手だったわよね。ごめんなさい」


「……怒ってねーからいいよ」

素直に謝るアリスに毒気を抜かれたのか、やや表情をやわらげてオスカーが言った。


「私もオスカーに頼むつもりだったのよ。でもラファエル様に申し込まれたら断れなくて……」

相手がラファエル様とはいえオスカーに申し訳ないなあと思いそう言うと、オスカーが体ごと振り返った。いつになく真剣な顔をしている。


「待てよ、ラファエルの方から申し込んだのか?あいつ立太子してからは誰にも自分からは申し込まないって言ってたのに」


「ああ、それは……」

私は図書館での大公殿下とラファエル様のやり取りを話した。



「……だから、売り言葉に買い言葉みたいな感じだと思うのよね」

私はやれやれと肩をすくめた。しかし、オスカーは納得してない表情をしている。

その時、バルコニーの外から陽気な声が聞こえた。


「ねーえ、寒いしそろそろ中に入らない?午後の授業も始まるわよぉ?」


「サシャ?」


私がキョロキョロと見回すと、隣の教室のバルコニーにサシャがいた。

「ハァイ、おふたりさん。今日も青春してるぅー?」


今日のサシャの髪は真赤だった。毛先だけ巻いて緑色のリボンをつけている。そのうち頭に船とか鳥篭とかつけるんじゃないか。


「アリスちゃん、あなた身辺に気を付けなさい」

サシャは、ふわふわと笑いながら不穏な事を口にした。


「もう一人の王太子妃候補が黙ってないと思うわよ~」



次は【9.シリアスをぶち壊す】です。金曜日更新予定です。よろしくお願いします~。

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