44. 王室礼拝堂探検隊
その日の放課後、私は俯きがちに歩いていた。
(あーあ、また口が滑って告白してしまった……。いい加減ウザいと思ってるに違いない。好きでもない女から好き好き言われても困るだけだってば。ばーかばーか!知ってたけど私のばか!)
うじうじ思いつつ、車寄せへと向かっていると人の気配を感じた。顔をあげるとソフィアが門の所に一人で立っている。誰かと待ち合わせなんだろうかと、反射的に身を隠そうとしたがもう遅かった。
「ルテール公爵令嬢」
小鳥の囀りのような軽やかな声で呼びかけられてしまった。うるうるした瞳。ヒロインちゃん可愛い。
「私にご用事……?何かしら?」
私は、また何か言いがかりをつけられるのかと、警戒して立ち止まった。
「これを差し上げたくて公爵令嬢をお待ちしていました」
そう言って彼女は、可愛らしい包みを差し出す。ピンクのラッピングに見覚えがある。好感度をあげるための基本アイテム。
(こ、これは!ヒロインちゃんの手作りお菓子!!!)
「先日、『私も食べてみたいわ』とおっしゃっておられたので」
「え……?」
庭園でソフィアに話しかけて、そんな会話をしたような気がする。私はすっかり忘れていた。それを覚えていたソフィアは律儀に持ってきてくれたらしい。受け取ろうとして、はっと周りを見回した。何かの罠では?
そんな私の様子をソフィアは不思議そうに見ている。
「すみません……公爵家のご令嬢に、このような粗末な……」
「違う違う!頂きます!頂きます!」
昨日はラファエル様が誤解を解いてくれたけど、私はこの子に「手作りの菓子などみすぼらしいものを持ってくるな」と言ったことになってたんだった。受け取らないと、また何か言われてしまう。受け取りながら、私はソフィアに話しかけた。
「あなた、そうえいば、具合は大丈夫なの?倒れて医務室へ行ったとか」
「あ、それは大丈夫です……。アレックス様が付き添ってくださいましたし」
何故かソフィアの顔が赤い。はて?変な事を聞いた?
……え?そういう事?そんなイベントあったっけ?
具合悪くなって医務室でイチャイチャするイベント?
(ア、アレックスのドスケベ!)
同時攻略中のオスカーが可哀想だな……と思うと、想像するだに恐ろしかったので、私は会話を打ち切ってソフィアにお礼を言って帰宅した。
帰宅して包みを開くと、そこにはクッキーが入っていた。とても甘い香りがする。サクサクした歯ざわりで、口の中でとろけて、ふんわりして美味しかった。
(さすが女子力高い……って、ヒロインちゃんへの好感度が上がっちゃう?!マクシムお兄様ルートを潰すためにもこれ以上は食べない方がいいのでは)
そう思っていたのに、後を引く美味しさで、結局ひとりで全部食べてしまった。食べ終わる頃には「ソフィアって悪い子じゃないよね」と思い始めていた。エーメ男爵夫人のお茶会の時もそうだったけど、私はこの世界の甘い物が好みに合ってるようで、すぐに釣られてしまう。時々おせんべいが恋しくなるけど、お料理やお菓子はとても美味しいのだ。
おいしかったな~と余韻にひたりつつ、リラが淹れてくれたお茶を飲みながら、外国語の教本を読んでいると、カーラが部屋に駆け込んできた。カーラは滅多に慌てたりしないから、どうしたんだろうと思って見たら、頬を朱に染めて手紙を持っている。
「お、お嬢様……お返事を……頂きました……」
カーラはいつものように学生寮へお使いに行ってくれていた。
いつものように。エリアスの所へ手紙を届けに。
「おへんじ……?」
もう一年以上、返信などというものから遠ざかっていたので、私が出した手紙にエリアスが返事をくれたのだと理解するまで相当な時間がかかってしまった。
恐る恐る手に取って封筒を見る。表にある私の名前。その筆跡は間違いなくエリアスのもので、なんだかうれしすぎて開けるのが怖くなってしまった。
「ぜぜぜぜぜ絶縁状じゃないよね???」
カーラは笑いながら首を横に振っている。きっと内容は知ってるに違いない。絶縁状じゃないらしいので、勇気を出して真鍮のペーパーナイフを持った。
中には、フランドル伯から私宛の手紙も同封されていて、フランドル伯も一緒に王宮図書館と王室礼拝堂へ行く旨が記されていた―――。
翌週の休日、私は王城へ行くため、リラとカーラと供に馬車に乗っていた。
フランドル伯が私を監視したいのか、他に意図があるのかわからないけど、条件付きとはいえエリアスと一緒にいられる機会を逃したくない私は、勿論フランドル伯に「是非ご一緒してください」というお返事を書いた。
馬車を降り、王城内を東へ向けて歩いていると、王室礼拝堂の尖塔が見えてくる。
王室礼拝堂は、白と金が基調の壮麗な造りで、戴冠式や立太子式などの王室関係の式典が行われる場所。
装飾には歴代の王の彫刻や、ばら窓のステンドグラス。入口は三つで、それぞれが、大王の扉・聖女の扉・聖アンリの扉と呼ばれている。尖塔に鐘はあるが式典の際にしか鳴らされない。礼拝堂の隣は王家の石室墓があり、王族の遺体が安置されている。
その王室礼拝堂の前に、二人の人影。てっきりエリアスとフランドル伯だと思っていたのに、何故かエリアスとガブリエルが私達を待っていた。
「どうして大公殿下が?」
「面白そうだったから」
これ以上人数が増えたらデートじゃないじゃん!来ないでよ!と言いたかったが、王族かつ公爵かつ紋章官という地位の人にはとても言えない。どうやらエリアスがガブリエルに連絡していたらしく、二人は私そっちのけで楽しそうに雑談している。
(ぐぬぬぬ……完全に邪魔だわ、ガブリエル……!)
フランドル伯は先に中でお祈りをしているらしい。というか、お祈りをするために少し早く来たそう。
王室礼拝堂は、左右対称の長方形の建物で、中に入るとまず長い身廊があり、奥が祭壇となっている。
身廊はホールのような広い通路で、両脇には側廊と呼ばれる通路があり、前世で見たカトリックの教会とつくりが似ている気がした。突き当りには豪華なステンドグラスが壁を飾り、そこに礼拝室がある。
静かで荘厳な雰囲気に圧倒されそうだった。
先にお祈りをしていたフランドル伯の邪魔にならないように注意しながら、私も礼拝室で祈りを捧げる。
礼拝の後で、フランドル伯に一礼して御礼を述べた。
「今日は、ご同行頂きありがとうございます」
「いえ、わしも久しく参拝しておりませんでしたから」
まさに親戚のおじいちゃんといった風情でフランドル伯が笑って言った。
(……親戚のお墓参りについてきた、って感じなのかなー?)
私は式典以外で来るのは初めてなので、祭壇の後ろや足元、天井に至るまで細かく観察していた。よくよく見ると天井は花文様が美しくて圧巻。祭壇の横にある香部屋(準備室)にも入らせてもらった。
(うーん……でも、特に変わった場所もないわねえ……)
金で作られた豪奢な祭壇を前に、ふと思いつきを口に出してみた。
「ガブリエル、ここに地下聖堂はある?」
「ラファエルか誰かに聞いたのかい?地下聖堂はあるよ。聖遺物が納められているから通常立入禁止だし、入口がどこかも秘匿されている」
あるんだ。やっぱり……。
『悪魔』といえば地下よね!って単純に思っただけなんだけどね!
「王室礼拝堂にある聖遺物とは?」
エリアスがガブリエルに質問している。
「聖アンリの槍……と言われているけど、僕も地下には入ったことがないし、見たこともない。本物かどうかも知らない。どうでもいいけどね」
王族がどうでもいいとか言っていいんだろうかと思ったが、まあ本音なんだろう。
聖アンリは、これもまたお伽話に何度も出てくる盲目の騎士。
建国から200年程後の時代、民を悩ませていた蛇の悪魔を倒して封印し、民を救ったという英雄。
「アリスはどうして地下聖堂の事を?」
「あ、ああ……。悪魔退治の参考にならないかと……」
私は聖アンリの伝説について一生懸命思い出していたから、ガブリエルの質問に深く考えずに答えてしまった。
「「「……悪魔退治……?」」」
ガブリエルとエリアスとフランドル伯、三人が同時に不審そうな声で私の方を振り返っていた。リラとカーラが天を仰いでいる。
(はっ、しまった!!!うちで雑談してる時じゃないんだから、ほいほい答えるんじゃなかった!!!)
「あ、えーとえーと、今読んでる本でね、えーとえーと……」
私が必死で言い訳を考えていると、入口の方から小鳥のような女性の声が聞こえて来た。逆光で見えづらいがそれが若い男女だということはわかる。隣にいたエリアスが呟いた。
「王太子殿下と……ソフィア嬢……?」
……前室にラファエル様とソフィアが一緒にいるらしい。なんで……王城に彼女がいるの……?
お読みくださりありがとうございました~。
次は【45. 王宮図書館探検隊】です。
来週は火曜日更新予定です。よろしくお願いします~。
(2020/2/26 15:45 タイトルミスしておりました~。申し訳ありません。訂正しました。水曜更新予定です)




