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36. 私に構わずヒロインの所へ行け!!



 「何やってんのー?お前らみんな怖い顔して」


 オスカーがふらっと現れて、面倒そうにサシャとリュカの間に割って入った。


「俺も騎士を目指そうかな」なんて言ってたオスカーは、今は近衛府にいる。王家直属の近衛兵……といってもまだ見習いだけど、正式に所属している。アレックスの父オルレアン伯率いる騎士団とは別の組織。騎士団は戦争があれば最前線へ行くけれど、近衛兵は王宮勤めになる。オスカーは騎士を希望したらしいのだけど、父ノワイユ侯爵がそれを許さなかったと聞いた。

オルレアン伯とノワイユ侯の仲が悪いからなのか、もし戦争が起きた時に前線に行かせたくないからなのかは解らない。


 近衛兵は国の儀礼の際にも色んな役目があるから、礼儀にも厳しいらしい。オスカーは前より姿勢が良くなった。相変わらず元気で爽やかだけど、鍛錬で体も引き締まって男らしくなった。


「アリス、どうした?何か揉めてる?」


「オスカー……」

そもそも何でこんな事になってるのか私が分かってないから、なんと説明していいかとオロオロしてると、サシャが言った。


「オスカーには引っ込んでて欲しいわねぇ。ややこしくなるから」


「何?俺はお呼びでない感じ?じゃあ、歓迎会に戻ろうかな。昼食始まるよ。行こうぜ、アリス」

そう言ってオスカーはごく自然に私の腕を引いたから、サシャが叫ぶ。


「ちょっとぉ!アリスちゃんを連れていかないでよ!当事者なんだから」


「え?何?アリスの事で揉めてんの?」

オスカーがちょっとわざとらしいくらいに驚いた表情で言うから、わかってない振りして、私を逃がそうとしてくれてるんじゃないかって気がしてきた。サシャが諦めたような顔で両手を挙げた。


「あーもう!いいわ、今日は。確かにまだ早かったかも」


リュカはずっと無言だったが、サシャがそう言って歓迎会の会場へと戻っていくのを確認して、ようやく私の方に振り返った。腰まで届く長い髪が目の前で揺れる。

リュカは侯爵家を継いでからますます忙しいようで、最近はあまり言葉も交わしてなかった。リュカが一番背が伸びた。アイスブルーの綺麗な瞳で見下ろされてちょっと怖い。


「君はあまり一人で行動しないように」

淡々とそれだけ言い、踵を返すとさっさと立ち去ってしまう。クーーーール。




(ええと、整理しようか。これは……私がモテている……?)


お、お前らー!!私に構わずヒロインの所へ行けよーーーー!!!

そりゃ、仲良くしてきた幼馴染達だから好意は持っている。でもラファエル様含めて、それはあくまで友人としてだ。ただ、私たちは甘酸っぱい16歳。思春期の多感なお年頃……。


(あ、甘ったるくて胸やけしそうだわ……)


そう思ったけど、ここは乙女ゲームの世界。

ヒロインに向かってドロドロに甘い言葉を囁くロマンチストだらけなんだった……。


オスカーが「なーアリス、飯食いに戻ろうぜ?」と言うから、本来の目的を思い出した。


「オスカー、ごめん、私は医務室に行きたいから」


「アリス、具合悪いの?」


「いえ、さっき友人が怪我をして……様子を見たいから」

別に友人じゃないけど、説明が面倒だからそう言って私は歩き出した。


「んーじゃあ、俺ついていく」

さっきリュカが私に「一人で行動するな」と言ったからなのか、オスカーが後ろからついてきた。


 医務室のある棟が見えてきた、と思ったらもう手当てを終えたらしいソフィアの姿。エリアスが手を支えている。


ニコニコ笑ってるソフィアは可愛いなぁ……。

エリアスは特に表情を変えてなかったけど、心配そうに連れだってるのを目の当たりにすると、少し……いやかなり胸が苦しい。


「エリアスと一緒にいる女の子……あれ、誰?あれがアリスの友達?」


さっきソフィアが転んだ時にオスカーは多分離れた場所にいたんだろう。ソフィアに会うのは初めてのようだった。


……私の目にもしパラメータが見えるチート能力でもあれば、きっとオスカーのヒロインに対する好感度がきゅんきゅん上がったのが数値で見えたと思う。


「あの子、かっわいい~!!!」


(アハハ、だよねえ~)

……私はオスカーに、16歳男子の健全な発育を見た。


「おーい!」とへらへらしながらオスカーがエリアスに声を掛けている。ソフィアにも話しかけて楽しそう。

こんな風にラファエル様も私に構わずヒロインの所へ行ってくれたらいいのになぁ……。


 オスカーがエリアスの代わりに、ソフィアを支えていた。エリアスが他の女と手を繋いでる所なんか見たくなかったから、ほっとした。


(ありがとう、オスカー!)





―――でも多分いま、私とオスカーは決別した。



おそらく、オスカーは私の敵になってしまう。



 『アリス』の記憶の中で、オスカーの存在は特別だった。幼い頃から、兄妹みたいにいつも一緒に遊んでいたから一番の仲良しだった。何があってもオスカーだけは私の理解者になって、いつも味方してくれていた。


……うちの庭で泥団子を作って遊んでいて、私が調子に乗ってそれを持ったまま屋敷に戻り、祖父の大切な絵画を汚した時も、一緒に謝ってくれた。オスカーは「お前そんなの持って入ったら怒られっぞ」と止めてくれていたのに。

王宮の中庭でラファエル様も一緒に遊んでいて、木登りして私が落っこちた時に、血相変えて飛んできて、泣いてる私を背負ってくれたのはオスカーだった。

初等部入学後、なかなか友達が出来なかった私を気にかけて、オスカーはいつも一緒にいてくれた。




『アリス』の初恋はオスカーだった。


それは、淡くて、はっきりとした恋情とは違うけれど、宝物みたいな優しい気持ち。



『私』と『アリス』は、今は溶け合ってひとつの人格のようになってる。

だから今、私の胸が痛い。


……これは、ちょっと辛いね、『アリス』。



でも、仕方ない。

私ではなく、ソフィアが主人公(ヒロイン)の世界なのだから。

少しだけ落ち込んで、(よし、生きる!)と復活しようとしたら、いつの間にか側にいたエリアスが言った。


「アリス、顔色が悪い。やはり具合がよくないのでは?さっきは無理して殿下と踊ったのでは?」


「ありがとう、大丈夫」

私がぼんやりしていたから、オスカーとソフィアはもういなかった。エリアスは彼女らと一緒に戻らずに私を待っててくれたのか。そう思うとうれしかった。



「ん、待って、……いま、敬称無しだった?」

私がそう言うと、エリアスが慌てた顔をしている。


「……ああ、気づかなかった……。すみません、アリス様」


「アリスと呼んで。これからも、そうしてもらえない?」


「しかし……」

エリアスがまた困った顔をしている。でも、構わず続けて言った。


「学園にいる間だけでいいから」

オスカーがいなくなって、次は誰だろう、わからないけど、私はきっとこれからどんどん味方が減っていく。エリアスだけは側にいて欲しい。


「お願い」

よっぽど必死な顔だったのか、以前は嫌がったであろうその図々しいお願いを、エリアスは聞き入れてくれた。


「わかった、アリス。これからはクラスメイトとして、友人として」


「ありがとう」


私は、あなたがいれば大丈夫。

死なないように頑張るぞー!


そう思って私が笑ったら、少しだけエリアスが笑い返してくれた。



次は【37. 女子トーク再び】です。月曜更新予定です。

励まされたので今日は0時に投稿出来ました……(チョロい)。

のんびり更新ですが、よろしくお願いします~。

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