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35. ヒロイン友人vs悪役令嬢

 

 ヒロインちゃんと王子様はきっと二人で東屋へ行くだろう。スキップ出来ないイベントとして。


(ハート飛んでないかな?)って思うくらい、ヒロインちゃんはうっとりとした視線でラファエル様を見つめている。ラファエル様は優しげな眼差しでヒロインちゃんを見つめ返している。

私の脳裏には(イエス、フォーリンラブ)というワンフレーズが何度も再生されていた……。


 それよりも、私はコラリィをどうしようかと思っていた。さっき、何故か私が突き飛ばしたと思い込んで、いきなり手をはたきやがった。伝聞だけなら、完全に私が悪役。コラリィは私を睨みつけた後はずっとこちらを無視している。

だから、私はコラリィの肩に手を置いて言った。


「何か誤解なさってるようだけど、私は彼女を突き飛ばしてなどいないわ」


コラリィは私の手を振り払ってやはり無視した。取り付く島もない。

めんどくさい。……もういいか。めんどうになってきた。

そう思い始めた時、背後から「お待ちください」という凛とした声が聞こえた。

振り返らなくてもわかる。エリアスの声だ。


「アリス様は、誰かを突き飛ばすようなことはなさいません」


よく通る声だなと思って聞いていた。ああ、『クラスメイト』はやっぱりアリスを庇ってくれる。振り返ったら泣いてしまって何もかも台無しにしそうで、そのまま前を向いていた。


コラリィが私達の方を見て忌々しそうに言った。


「でも、現にソフィアは怪我してるじゃない。平民だから気にくわないの?酷くない?」

「突き飛ばす現場を見たのですか?」

「え?」


コラリィがひるんだ。私は確かに手は出していたけど、それは助け起こそうとしただけだし、事実、突き飛ばしてはいない。


「それは……」


言い淀んだコラリィが視線をさまよわせていると、隣にいたラファエル様が口を開いた。


「アリスはずっと僕の隣にいたよ。突き飛ばすなんてことはしていない。それより、怪我人を放っておけないよ。誰か彼女を医務室へ運んでやってくれ。足を痛めたようなので」


「え、ラファエル様がついていくのでは?」

私が思わずそう言うと、ラファエル様が笑いながら返答した。


「僕は君のそばにいるよ」


えーーーーー行っていいんですよ?王太子妃が別の人になるのは全然構わないんです。むしろ、そうして頂きたいのに。

その時、ふと気づいた。コラリィが私に絡んだこの件、ソフィアは何も言わなかった。

突き飛ばされたかどうか、なんて本人が一番わかっていただろうに。意図的なのか単に口を開くタイミングが掴めなかったのかわからないけど、なんだか嫌な感じがした。気のせいかもしれないけど。


そして、私にとっては一番関わって欲しくない人が、ソフィアを医務室へ連れて行くことになった。


 エリアスがソフィアをお姫様抱っこしてる……。


 こんなの見たくなかった……。このパターンは想定していなかった。ゲームでは悪役令嬢側として、ヒロインとの好感度に左右されないはずの『クラスメイト』エリアス。でもその彼は、高等部入学前にメインキャラクターである私の幼馴染達に出会ってしまっている。私はフランドル伯と父との約束で会うことが出来なかったけど、幼馴染達はエリアスと仲良くしていたようだから、どこかでシナリオがずれてもおかしくない。


 ソフィアは可愛い。誰の目にも可愛いだろう。私のことなんか好きじゃないエリアスが、可愛いソフィアに惹かれてしまったらどうしよう。エリアスまでもが敵になってしまったら、私は耐えられない……。それこそ悪魔を召喚して国ごと滅ぼしたくなってしまうかもしれない。




 私が皆と踊るよう強く勧めたから、ラファエル様はダンスの輪に戻っていった。私は医務室へ行こうと学舎の方へ足を向けた。庭園を横切っていると、途中でサシャに呼び止められた。


「あのさあ、アタシが口を出しちゃいけないのはわかってるんだけど……」


少しためらいながらサシャが話し始めた。

サシャは、どう見ても私を意識しているエリアスに、「学園にいるうちはラファエルに遠慮しなくていいんじゃない?」と言ったらしい。

けれど、エリアスはこう答えたそう―――


「遠慮とは?」


「やあねえ、アリスちゃんのことよ。王太子妃の候補だけど、正式に婚約してないんだから、エリアスが遠慮することないってば」


「……アリス様は、将来国母になられる方。私の役目はそれをお守りすることだと心得ております」


―――控えるのが当たり前だと。



「……ぜーんぜんアタシの話、きいてくれなかったのよね」

「はあ、ソウデスカ……」


改めて言われると結構ショックだった。


「肝心のアリスちゃんはどうなのよ」


「え……?」


「アリスちゃんの好きな人はだあれ?」


サシャには言ってしまおうか。母のように味方になってくれるかもしれない。でも、いつ敵になるかわからない。躊躇っているとサシャが一歩私に近づいて言った。


「それがアタシだったらうれしいんだけど、そうじゃない事くらいわかるわ。わかっちゃう自分がイヤになっちゃう」

一度目を伏せて、私を見たサシャがいつもと違う。


「え、サシャ……?」

不機嫌に見えていたのは、笑ってなかったから。今まで笑顔に誤魔化されて、サシャが何を思っていたかなんて想像してなかった。

真剣な顔でサシャが言った。


「エリアスが遠慮してるなら、アタシが奪っても構わないかしら?」


奪うって何を?

私の頭の中が疑問符だらけになったけど、なんだか危険だということはわかる。

去年、アレックスに復唱させられたのを思い出した。

―――知ってる人でもひとりでついていかない!


ひとりでいたら知ってる人が近づいてきて豹変したんですけど、どうしたらいいでしょうか?


「……冗談だよね?」


「そうね……と言いたいんだけど……」

また一歩近づかれるから、私は後ずさりした。


「サシャ、あのね……私は」

もう、はっきり言ってしまおうと思っていたら、綺麗な長い赤毛が視界に入ってきた。


「お前の恋愛対象は16歳以上なんだろう?アリスは誕生日がまだだから15歳だ。サシャ・アシル・コルベールともあろう者が主義主張を曲げるのか?」


その声に、サシャが少し笑いながら答えた。


「あらやだ。これはこれは、リュカ・アクセル・エヴルー侯爵様」



……さっきから何?何なの?何イベント?こんなイベントあったっけ?

混乱し始めた私をよそに、目の前で「けんかをやめて~ふたりをとめて~」みたいな出来事(イベント)が始まっている。


私は早く医務室に行きたいのに!!!


その願い空しく、さらにそこにオスカーが加わった。



次は【36. 私に構わずヒロインの所へ行け!!】です。金曜更新予定です。よろしくお願いします〜。

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