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33. ヒロインちゃんと悪役令嬢


 その日は曇天で、まるで私の心を表しているようだった。

リラとカーラはいそいそと支度をしているが、私はのろのろと動いていた。

私の髪を梳きながらリラが言った。


「いよいよ高等部ですね、お嬢様」

「そうね……いよいよ……」


ついにこの日がきてしまった。


 高等部入学式。式典後の歓迎会で、ヒロインは王太子殿下と運命の出逢いをする。

春に兄マクシムはダンピエール伯爵令嬢ルイーズと結婚した。ルイーズ嬢が王太子妃候補からおりてしまったため、私は悪役令嬢アリスへの道まっしぐら。

母のお陰で、正式な婚約はしなかったが、王太子妃の第一候補のままである。

シナリオの補正はどこまで私に関与してくるんだろう。


初等部はグレーの制服だったが、高等部は黒が基調。少し大人っぽくみえるかな?

「髪はどうしましょうか?」

「そうね……。ハーフアップでおとなしめにしてもらえる?派手な髪飾りとかいらないから」


ここからは、皆に近づかない!

目立たないように生きるのだ!




 学園につくと、明らかに夏休み前までと雰囲気が違う。おっとりとした空気の学園が、なんだか賑やかだった。入学式の前に自分の教室を探した。高等部校舎は初等部の隣で馴染みもあり、さほどの不安はなかったが、本当に『クラスメイト』がいるのかどうか、私はドキドキしていた。


 ゆっくり来たので、教室にはすでに多数の生徒がいた。王命とはいえ、貴族の子女しかいなかった学園に数多くの平民が入学している。先生たちも苦労していると思う。クラス分けは暗黙の了解で、貴族と平民にわけられたようで、教室の中には初等部で見慣れた顔ぶれが揃っていた。


入口のすぐそばで、サシャが笑いながら私に向かって手を振っている。今日は緑色の髪に色とりどりの生花をつけていて、やっぱり女子用のリボンをつけていた。


「おはよう、サシャ。お花可愛い」


私がそう言うとサシャが「おはよー。アリスちゃんの席は窓際~」と教えてくれたので、そちらを向いた。


窓際に立つその人に、私の視線は吸い寄せられた。


黒髪に緑の瞳。ずいぶん背が伸びて、見違えるほどに精悍だった。

エリアスは真っすぐ私を見ている。いつから見てたんだろう。


サシャが「やーだー見つめ合ってる。アリスちゃんて、わかりやすーい」とからかっていたが、何も言えなかった。わかりやすいだろう。誰の目からもわかりやすいくらいに私は動揺している。心臓がバクバクしてる。


「おはようございます。お久しぶりです、アリス様」

エリアスが少し笑ったように見えた。


「お、おはよう、エリアス。久しいわ……本当に」


「同じクラスでしたね。入学の際の後見がフランドル伯なので、こちらのクラスになったようです」


「……本当に、『クラスメイト』なのね」


会えてうれしい。初っ端からこれでは心臓がもたない。エンディング前にしぬんじゃないかな。


「席も近いですよ」


「へ?!」

思わず変な声が出た。


席が近い?すぐ近くに座るってこと?吐いた空気吸えるってこと?マジで?教科書忘れて机くっつけあって見せ合ったり出来るやつ?


と妄想してたら、エリアスの後ろが私だった。


(かーみーさーまーーーーーーーーーーー!ずっと見てていいって事ですか?)


背中を堪能させて頂きます。私、授業聞かない自信ある。永遠にこの位置でいい。

担任の先生が来たが、本当に何も聞こえない。ひたすら背中を見つめて(ああああああ後ろ姿もカッコイイってどういう事?)と悶絶していた。


あとから、「10日くらいでエリアスの背中に穴があくんじゃない?」とサシャに言われる程見つめていた。アレックスとリュカも同じクラスで、『皆に近づかず目立たないように生きる』なんて無理だと思い知らされた。いやでも向こうから関わってくる。私からはなるべく話しかけないようにしようと誓った。




 ホールでの入学の式典は何事もなく終わり、歓迎会が行われる庭園へと場所を移した。


「アリス様、ごきげんよう。聞いてはいましたが、とても人数が増えましたね」

「カミーユ、ごきげんよう。本当に。皆様の顔と名前を覚えきれるかしら?」

すっかり親しくなったダンテス伯爵令嬢カミーユと話しながら並んで歩いていると、後ろから声を掛けられた。

「私を置いていかないでくださいませ!」

遅れてデルべ伯爵令嬢ジュリエットも来る。


……悪役令嬢と取り巻きの完成である。やばい、これシナリオ通りだ。



 学園内に身分はない、というのが建前だが、クラスもわかれているし、やはり貴族と平民は何となくそれぞれ塊になっていた。平民のグループかなという集団の中で、一際元気な声が聞こえてきた。


「ソフィアも貴族じゃないんだね。私も平民なの。仲良くしてくれるとうれしいな!」

耳の下で揃えた金髪が、少女の活発な性格をよく表している。貴族階級の女性はほとんどが髪を長くしているから、その短い髪が自由の象徴のようで、私は何だかうらやましかった。


「うわーあれが貴族なんだねー!ギラギラしてるー!私さー王都にくるのさえ初めてだから、たくさんの貴族をこんな間近でみるの初めてだよー!!」


その少女は田舎の修道院(の寄宿学校)で育ったらしく「尼さんに育てられたの!全然合わなかったけどね!」と大声で笑っていた。

名ばかりの貧乏貴族の娘も口べらしに修道院に入れられる。王都のきらびやかな上位貴族は、本当に一握りの存在なのだ。あの金髪の少女にとっても、公爵だの伯爵だのといった貴族なんてモノは、きっとこっそり読んでいた恋愛小説の中にしか存在し得なかったんだろう。


注視されるのは慣れている。貴族とはそういうものだ。

ただ、隣にいたジュリエットはやや不快そうな声で言った。


「騒がしいわ。学園の風紀が乱れそう。ねえ、アリス様、とりわけ不躾ですわね、あの二人……」


(二人……?)と思って私はジュリエットの視線の先を見た。


背中が冷たくなった。


その賑やかな金髪の少女の少し後ろで微笑んでいた女の子は、間違いなく、私が死ぬ直前までしていたゲームの主人公(ヒロイン)だった。




次は【34. ヒロインちゃんと王子様】です。月曜日投稿予定です~。よろしくお願いします~。

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