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1. プロローグ

ぽんこつヒロインが頑張ります。生暖かく見守ってください。都合上、平日のみの更新です。よろしくお願いします~。

 

「お嬢様がお気づきになりました!」


 見慣れた天蓋。横からは聞きなれた声がする。ああ、侍女のリラだ。

待って、リラって誰だ。


「アリス、意識が戻ったのね、良かった!」


 うっすらと視線を移すと、すぐそばに美しいご婦人がいた。濃い緑の髪を結い上げて、ハンカチを握りしめて涙目でこちらを見ている。

アリスって誰だ。てかこの人誰だ。


「おかあさま……」

私はそう呟いた。


「痛いところはない?」

母(?)が優しく頬を撫でながら私に問う。頭痛が酷い。視界がぼんやりとしたまま私は答えた。


「あたま。頭がとても痛い……」

 

そしてまた意識を手放した。






 再び目を覚ました私は、自分の置かれた状況を理解した。

私と弟が乗った馬車が、別の馬車と衝突してしまい、私は車内で昏倒したのだ。四輪の箱馬車だったので、車外に放り出されることはなかったが、幌馬車だったら運が悪ければ死んでいただろう。幸いなことに同乗していた弟は無傷で、私は三日間、意識が戻らなかったらしい。……日頃の行いの差だろうね、きっと。


 私の名前は、アリス・マグノリア・ルテール。ルテール公爵家の長女。

父はこのアルジャン王国の内務卿。母は前国王の妹の子。現在の国王の従兄妹(いとこ)

ルテール公爵家は建国以来続く、いわゆる名門中の名門。



「奥様は、ずっとお嬢様につきっきりでしたのよ。本当に良かったです。私もとても心配しました」

 

 そう言いながら私の体を拭いてくれているのは侍女のリラ。

私が微笑んで「ありがとう」というと、リラは少し驚いたようだった。沈黙しているとリラは私が疲れたと思ったのだろう。リラは清拭を終えると、小さな優しい声で「もう少しお休みくださいませ、お嬢様」と言って退室した。


 私は部屋を見渡す。中世ヨーロッパの雰囲気バッチリのこの部屋は、レースをふんだんに使った、ご令嬢に相応しい豪華絢爛な装飾に溢れていた。

うう、趣味じゃないなーと思いながら、ベッドから飛び降りる。


「あいてててて腰が痛い……」


私は痛みに思わず床にうずくまった。そして自分の肩に流れる金髪に驚く。髪をひっぱると痛い。自毛だ。


「夢……夢じゃないの……?」


 部屋にある姿見の前に立つ。

鏡の中には、輝くようなプラチナブロンドに翠の瞳、通った鼻筋に薄い唇、華奢ながら体幹のしっかりした少女の姿があった。


「マジで……?ねえこれマジで?詰んでるやん…もう詰んでるやんか……」

私はがっくりとうなだれた。


 私は、乙女ゲーム『銀水晶の聖女』に出てくる悪役令嬢アリスその人だった。






 『銀水晶の聖女』は、ヒロインが聖女を目指す育成ゲーム。舞台となっているアルジャン王国には「王国に危機迫るとき、銀水晶の聖女が甦り、聖なる力でもって国を守る」という言い伝えがある。そして、物語の冒頭ナレーションで「16年前、銀水晶の聖女が甦った、というお告げがあった!」と語られる。そこで国王は16歳になる子女で特に優れたものは身分に関係なく王立アカデミーに入るようにとお触れを出す。

 その聖女とは勿論ヒロインなのだが、そこに恋愛要素が絡み、育成恋愛ゲームとして人気を博していた。


 私はというと、予備知識なしにプレイした一回目で、物語終盤に攻略対象である王太子に告白された際、(これは私が聖女に相応しいかどうか試されているのでは……)と勘繰り、恋愛にうつつは抜かしません!と「お断り」した。そして攻略対象全員を振って孤高の聖女となった。

あとから友人に「乙女ゲームなのにヒロインがストイックすぎるだろ」と言われるが真面目にやったらこうなったのだ。

とにかくまあ、ヒロインは国を救う聖女様なのだ。


 そして、悪役令嬢アリスは、大好きな王太子をとられまいと、ヒロインに意地悪をする敵役。アリスは物語終盤で邪悪なる力が復活したときに、最初の犠牲者となる。アリスの死を悲しみ、ヒロインは内に眠る聖なる力をよみがえらせる……。


 意地悪な悪役令嬢の死さえも悲しむ心優しきヒロイン……。

 引き立て役の私……。



 ……私?



 ああ、アリスは私だ。

鏡の中の私は、どう見ても記憶の中の自分じゃない。

記憶の中の自分は平凡な大学生で、黒目黒髪のジャパニーズ。こんな美少女じゃない。鏡がおかしいのか、認識がおかしいのか。急に足に力が入らなくなり、私はずるずるとその場にへたりこんだ。


 夢うつつの中で、私は「胡蝶之夢」という言葉を思い出していた。日本人だった私は、アリスが見ていた夢なのかもしれない。20年とちょっとの長い夢を見ていて、アリスの私が現実なのかもしれない。もしくは、私はベッドの中でアリスになっている夢を見ている最中なのかもしれない。

私にはわからない。


 ただ、もしもこれが私の知るゲームの世界なのだとしたら、


 悪役令嬢アリスである私は、


 ()()()()()()



次は【2.いきなり王子様】です。今日だけ、二話続けて更新予定なので、よろしくお願いします~。

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