少年と少女
目覚めた少年がまず目にしたのは天井だった。
何もない無機質な天井。
――僕は死んだのではなかったのか。
死後の世界かと思ったが自分の心臓の鼓動が聞こえる。死んだ訳ではないようだ。
意識がはっきりとしてきたところで周囲を見回す。
(見た目的に)何故だがわからないがどよめいている祈祷師の人達、見るからに身分が高そうな男性、そして―――
僕の隣には少女がいた。
「ここは…?」
少女も困惑しているようだ。ここで僕は推測する。
周囲の人達。明らかに着ている服の文化が僕の知っている物ではない。中世風の衣装を現代に近づけるとこうなるのだろうか、とにかく僕の知っている限りではそのような服は見たことがなかった。少女は制服だ。普通の高校生が着ているような普通の制服。
そして僕は足元を見て思った。――魔法陣?
そう、魔法陣だ。僕自信実物は見たことがないのだが恐らく間違っていない。見たことのない服、魔法陣、隣の少女は恐らく文化は同じ。そこから導き出されるのは――。
「僕達は別の世界に呼ばれたのか…?」
つい口に出してしまった。
「え!?何!?君、今異世界って言った!?」
少女が食いついてきた。しまった、これは面倒くさいパターンだ。
「ええ、まあ…でも確証は持てませんが…」引き気味に答える。
「くおーーー!!異世界!!剣と魔法の世界だよ!興奮してきたーー!!!」
駄目だ、話を聞いていない。どうしようか。
「あの、ちなみにお名前は…?」
少女に問う。この話題で少しは落ち着いて欲しいものだが。
「ああ、そういえば名乗ってなかったね!私は朝比奈 詩織!高3だよ!君は?」
大人しく答える。
「…僕は夜空 連。高1です。」
年齢まで答える必要があったのか。まあいいか。一応これでお互いの名前は知れた。まあ朝比奈さん、でいいだろうなどと考えていたがふと隣が静かだったので朝比奈さんの方を見ると
「…そっか。君が――。」
…?予想外の反応だな…。何かあったのだろうか。
「あの…朝比奈さん…?」
一応声をかけると朝比奈さんはすぐに表情を笑顔に戻し口を開く。
「――あ、ごめんね!少し考え事をしていてね!じゃあ夜くん、って呼ぶね!君も私の事は朝おねーちゃん、って呼んでくれてもいいんだよ?」
――朝おねーちゃん。どこかで聞き覚えが……まあいいか。思い出せないものは仕方ない。
「いえ、初対面の人にそこまで馴れ馴れしくする訳には…」
て言うか夜くんって何だ。この人が馴れ馴れしすぎるんじゃないか。はっきり言って苦手なタイプだ。
「えー、いいじゃん夜くぅーん!ほら、私も夜くんって呼んでるわけだしね?」
グイグイくる。いやだから馴れ馴れしいんだって。
「いえ、そんなわけには…あと近いですって…」
注意したにも関わらず彼女はこの距離感を緩めるどころかより顔を近づける。
「えー?いいじゃーん私と夜くんの仲だよ?あ!もしかして私にそんな気が?いやー、気持ちは嬉しいんだけどねえ…」
イライラしてきた。
「いえ、そんな初対面の人に発情するほど軽くはないので…本当に離れてくださいって…」
本当に鬱陶しかったからぐい、と少し後ろに押しやる。朝比奈さんは「ぶー!」と不満気だった。ぶー、なんて今時言わないぞ…
そんなやり取りをしていると何もない壁だったはずのところが開き、人が入って来た。
見た目は50代前半、いや、40代半ばと言われても納得はする。そのような年齢不詳のタキシード姿の男性だった。
「やあ君達。お話のところ申し訳無いが、少しいいかね。僕が君達をこの世界に呼ぶよう努めたこの国の王――エドガーだ。」