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ギルドスタッフ! 3  作者: ケシゴム
シェオールの英雄 リーパー・アルバイン
9/63

引き抜き

「では、本日のゴミ拾いはこれで終わります。皆さんお疲れさまでした!」


 一通りのゴミを集め、最後にキールが乗って来た馬車の荷台にゴミを積み終えると、フィリアが終了を告げた。

 ロンファンが参加してくれたお陰もあり、予定より少し遅れた程度で綺麗に片づける事もでき、成果としては上々だった。


「キール助かったよ。積み込みまで手伝ってくれてサンキューな」

「いいよ別に。これも仕事だ」


 キールはシェオールのポーター(運び屋)で俺達の幼馴染でもある。ハンターギルドには毎日のように荷物を運んでくれていて、俺としてはもうスタッフの一員と変わりなかった。それでもまさかゴミの運搬まで請け負ってくれるとは驚きだ。


「じゃあ俺はもう行くよ。あんまりのんびりしてたら、夕方の配達間に合わなくなっちまうからな」


 キールも色々と忙しいようで、積み荷の確認をするとすぐに御者台に腰を下ろした。


「ああ。また頼むよ」

「フィリア、じゃあ俺は行くから」

「えぇ、ありがとう御座いました」


 ただのゴミ拾いでも仕事は仕事であるため、最終確認するようにキールはフィリアに声を掛け、フィリアが承認するとトコトコ帰って行った。


「では皆さん、私達もギルドに戻りましょう。お手伝い頂けたお礼に、お茶を御馳走します」

「おぉ、それは有難い。ロンファンさん、一緒に頂きましょう」

「はい~」


 エリックは、人見知りの激しいロンファンに手品を上手く使い距離を縮めた。それは手品師にとっては基本的な技術なのかもしれないが、野犬並みに警戒心の強いロンファンとここまで仲が良くなれるのは、人柄もあるのだろう。


「おいアドラ! お前も一緒に来い! 手伝いはしなかったけど、最後まで見張りをしてくれた礼はしてやる!」


 アドラは何処かへ行ったように思っていたが、結局ロンファンが心配だったようで、ずっと木の上で昼寝をしながら傍にいた。


「いいだろフィリア?」

「えぇもちろん」


 勝手に約束してからだが、一応確認を取るとフィリアは快諾してくれた。


「アドラ~。早く来ないと置いて行きますよ~」

「分かったよ」


 俺が声を掛けてもこちらを見るだけだったアドラは、ロンファンが声を掛けるとすぐに降りて来た。……どういう事!?


 こうしてゴミ拾いを終えた俺達は、心地良い充実感に満たされながらギルドに戻った。その道中もエリックは手品を披露し、俺達を楽しませた。


 晴れ渡る空、優しい風、少し暑いがまだ夏らしい気温。そこに蝉しぐれが音を付け、草の匂いが色を付ける。

 一仕事終えた俺達は満たされ、不思議な一体感に皆も自然と笑みがこぼれる。


 ゴミ拾い最高! 


 今までゴミ拾いどころか、ボランティア活動にすら参加した事の無い俺は、ヒーの作戦を疑っていた。だが実際やってみると、これはかなり効果が期待できると感じた。今日はたまたまロンファンが参加してくれただけで偶然だが、これを何回も繰り返して行けば必ず人が集まるだろう。


 目に見えない利益。これなら冒険者ギルドとも戦える!


 そんな自信を得て上機嫌だった俺だが、ギルドに戻り、三人をフィリアに預けリリアの下に戻ると、その気分を台無しにされる事態が起きていた。


「今戻ったぞリリア。俺は何をすればいい?」

「お疲れ様ですリーパー。エリックはどうしました?」

「今フィリアがお茶を出してる。途中でロンファンとアドラも手伝ってくれたから、その二人も一緒に」


 ボランティアへのお礼には俺も参加した方が良いのだろうが、フィリアにエリックという接客上手が二人もいる為、任せる事にした。何より、あのままお茶に付き合ってしまうと、俺自身が仕事へ切り替えが出来なくなってしまうと思った。


「そうですか! 初日にしてもう二名ものボランティアを確保しましたか! やりますねリーパー!」

「いや別に俺が呼んだわけじゃないよ。たまたまだよ」

「そのたまたまが輪を広げるんですよ!」


 例え俺の知り合いだとしても、リリアにとっては二名も輪が広がったという事実の方が大きいようで、眼を輝かせた。


「それより、俺はこの後どうすればいい? 受付に戻るか?」


 今日はマリーさんが休みの為、受付にはヒーがいる。今のテンションのリリアの傍に居れば、また面倒臭い話に付き合わされる。そう考え、何気なく受付に戻るよう指示が出しやすい質問をした。


「えぇ、ヒーの元で受付をして下さい。ただ、少し問題が起きまして、もしマリアが来たらこちらに連れて来て下さい」

「え? なんで?」


 もしかしてマリア何かやらかした? まぁでも、賢いマリアならこれも経験と無駄にはしないだろう。


「ミサキがマリアを冒険者にしようとしているらしく、マリアが逃げ回っているんですよ」

「ええ!? なんでだよ!? ミサキって冒険者嫌いでハンターになったんだろ?」


 ミサキは冒険者ライセンスでAを取得している。冒険者はAランク以上になると推薦状を書くことができ、それがあれば誰でも冒険者ライセンス試験を受けることが出来る。

 しかしミサキは、派閥だの上下関係だのが嫌でハンターライセンスを取得したとマリアが言っていた。ハンターにもそういうものはあるが、冒険者の場合は一つのギルド内でも人間関係が複雑で、酷い所では派閥に入らない者はその地を出るまで虐めを受けるらしい。


「詳しくは分かりません。ただマリアが言うには、『今冒険者になり、私のパーティーに入ればクィーンの称号を与える』とミサキが言っているそうで、おそらくミサキは、『うちに籍を置けばキングにしてやる』とでも冒険者ギルドに言われたのでしょう」

「マジか!? あいつ現金過ぎんな!」


 冒険者ギルドには、一つのギルドに籍を置くことによって、様々な恩恵を貰える入団というものがある。これはハンターの専属契約とは違い、いつでも退団が可能で、特に罰則のようなものは無いらしい。ただそれはギルドの話で、人間関係では知らない。

 冒険者ギルドは、入団した冒険者の中から代表を選出し、キングの称号を与える。そしてクィーンは、男女問わず№2に与えられる称号で、要はハンターのクラウンのようなもので、キングの称号を得る者はそのギルドの顔となる。

 ミサキには、前々からそういう欲にはがめつい性格じゃないのか? という思いがあった。しかし、まさかマリアまで引っ張ろうとするとは思ってもみなかった。


「でも待てよ。タナイヴのメンバーいるのに、ミサキがキングっておかしくね?」

「彼らはあくまで一時的な雇われの身です。契約期間が過ぎればいなくなるので、ミサキに声を掛けたのでしょう」


 冒険者ギルドめ! ずる賢い!


「それに、原因はどうあれ、ミサキもシェオールを救った英雄の一人です。(※参照ギルドスタッフ!) たしかに全国的に有名なタナイヴの名は強力ですが、シェオールの場合、地元民により親しみやすい冒険者をキングにした方が客受けが良いですからね」


 これが商戦! 俺からしたら何故? と思うような事にも大きな意味を持たせている。


「それはミサキには言ったのか?」

「いえ」

「いえって、そんな宣伝に利用されるんだぞ! アドバイスくらいはしてやれよ!」


 ミサキにとっては地位が手に入るチャンスかもしれない。しかし利用される以上、いつ切り離されるか分からない。


「落ち着いて下さい。まだミサキと直接話はしていないと言う意味です」

「あぁ……ごめん。でも、マリアの件は引き抜きになるんじゃないのか? 文句くらいは言えよ」

「それは出来ません! ミサキはうちにとっては上客ですし、何より、冒険者になってはいけないという規則はありません!」


 たしかにそんな規則は聞いたことが無い。実際ミサキやアドラだって冒険者からハンターになっている。もしそんな規則があるのなら、先に叩かれているのはうちの方だ。


「じゃあどーすんだよ! このままじゃマリアが可哀想だろ?」

「クレアにはミサキに注意するよう頼んでいます。ですから、今はマリアにミサキを近づかせないようにするしかありません」


 それは無理じゃね? 法的にもそれは無理だし、何よりマリアとミサキの関係が悪くなってしまう。だが良い策が思い浮かばない。


「……ふぅ~。分かった。それはヒーも知ってるんだな?」

「えぇ」

「じゃあ今はクレアに任せるよ」


 これは個人的な問題であるため、これ以上俺達がここで揉めても何も解決しない。そこで先ずはヒーの意見を聞こうと思い、今は仕事に戻る事にした。


「なら受付に戻るわ」

「えぇ、そうして下さい。ただ、言っておきますけど、ミサキが来ても余計な事は言わないで下さいよ」

「余計な事って?」

「マリアを引っ張るだの、冒険者ギルドに行くなとかです」


 リリアは俺の事をよく理解している。ミサキが来たら説教するつもりでいた。


「……分かってるよ」

「本当ですね?」

「あぁ」


 ミサキはうちでは一番の稼ぎ頭だ。それもあるため、リリアとしては冒険者との掛け持ちでもミサキを離したくはないのもあるのだろう。


「ではヒーの下に戻り、受付業務をして下さい」

「了解」


 折角ゴミ拾いで良い気分だったのに台無しだ。


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