続・傘
窓を揺らす激しい音で目を覚ました。目を開けると部屋は暗く、感覚からまだ深夜なのだと気付いた。外からは唸るような風が騒ぎ、時折窓を叩くように雨が打ち付けていた。前日マリーさんが言った通りどうやら台風がシェオールを直撃したらしく、かなりのあれ具合だった。
それでも貴重な睡眠時間の確保が優先されるため、まだ帰ってきていないアドラ達の事など何も考えずそのまま目を閉じた。
――いつもの時間に起床すると、まだ台風は通過しておらず、荒れ狂う木々の音が外の様子を安易に想像させた。
はぁ~。今日は休みになんねぇかな……
別に外仕事ではない今の仕事では天候など関係無いのだが、ギルドへ行くまでの通勤の事を考えるとため息が出た。
今まで屋外での仕事はハンターも含め、色々やって来た。当然そのような仕事ならこれだけ荒れた天候なら休みだ。しかし工期やら期日やらで時間が無い時は決行される事もある。それは俺も経験済みで、その職をしていた時は、「え~、嫌だな~」くらいの感覚だった。
それを思うと、このくらいの風雨はそんなんでも無いと感じた。それにアドラ達の事も気になり、例え休みになってもギルドか自警団には顔を出すつもりでいた。
朝食を摂っている間も天気は荒れる一方で、父や兄は窓の外を眺めては深いため息を付いていた。
父や兄、特に母はアドラ達を心配していたが、やはりライセンスという力は凄いのか、「ハンターならこれくらいは朝飯前だろ」的な事を言い、特に行動を起こすわけでもなく家畜や農作物の心配ばかりしていた。
出勤する時間になっても全く台風の機嫌が良くなることも無く、諦めてポンチョを着て、昨日納屋から引っ張り出してきた傘を持ち、颯爽と出勤する事にした。すると、玄関を出ると想像以上に風が強く、待ってましたと言わんばかりに早速雨が打ち付けて来た。
この勢いにはさすがに驚き、体制を立て直すために直ぐにフードを被った。
アドラ達、大丈夫かな……
予想以上の雨の勢いに、アドラとロンファンの顔が浮かんだ。それでもレイトンの言葉に、今はアドラ達を信じ、今は自分のやるべき事をしようと思った。今はギルドに辿り着くことが重要だ!
そんな俺を試すかのように雨は勢いを増す。
ふっ。馬鹿な台風め。この程度で俺を止められるか!
今の俺には余裕があった。それはアドラ達を信じるという気持ちと、心強い傘が手元にあったからだ。
昨日久しぶりにリリアの傘に入ったが、その時に改めて傘の凄さに気付いた。傘を入手した当時は、ただの流行りに乗っかりたくて買っただけで、実際使ったのは試しにじょうろで水を掛けたくらいだった。当然そんな使い方では傘の真価など理解出来る筈も無く、昨日まではガラクタ同然だった。しかしその真の力を知ってしまった今の俺は、最強の盾を手に入れたような気分だった。
傘という最強の盾。そしてポンチョという鎧。今の俺はレインスレイヤーと言われても過言ではない。
まるで新たな武器を手に入れたような高揚感に笑みが零れた。
気力、体力、イマジネーション、装備。最高と言えるコンディションの俺の事など知る由も無い台風は、そんな俺をあざ笑うかのように風雨を強めた。
さぁ勝負だ!
傘を使って出勤すると、リリア達が「リーパー! 一体どうやって濡れずにここまで辿り着いたのですか!?」という様が目に浮かんだ。そしたら俺は、「いや、雨なんて降ってなかったぞ?」と言ってやろうと、傘を開く一瞬で思った。のだが、傘が開いた瞬間、物凄い力で煽られ、一瞬にして傘が万歳してぶっ飛んで行った。
!! …………アンブレラー!
自然の猛威の前では化学など太刀打ちできず、傘はスカートを捲られたまま遥か彼方へと消えて行った。
結局傘を失った俺は、やっすいポンチョなどでは身一つ守ることは出来ず、びちょびちょになりながら項垂れて出勤する羽目になった。




