善は急げ
「セフィロト三大勇者ってあれだろ? キャメロットのトレヴィンとかだろ?」
セフィロト三大勇者とは、冒険者の中でも特に大きな功績を上げた現役の冒険者の事を言う。ちなみに俺はトレヴィンしか知らない。
「そうです。彼らはタナイヴと行動を共にしていた冒険者です!」
あ~、なんかそんな名前聞いたことある。
「何した奴らなんだ?」
リリアはこの質問にちらりと俺を見た。てっきり無知を責められるのかと思ったが、一切咎めることなく説明を始めた。
「アブラム地方で起きた、魔人薬事件を知っていますか?」
「い、いや、知らない……」
「そうですか。では知識として覚えておいて下さい」
今のリリアにとっては、少しでも冒険者ギルドと戦う戦力が欲しいのか、親切に教えてくれる。この子は熱中すると遊びでも自分の世界に入ってしまう。まぁでも、今回は仕事への貢献にもなるし、もう少し付き合おう。
「三年ほど前、アブラム地方で魔人のような力を持つ者が町を襲う事件がありました」
全然知らない。三年前なら俺はアルカナにいたはずだが、そんな噂は聞いた覚え……いや、あったような無いような……
「最初は、悪魔崇拝の組織がテロを画策して起こした事件だと思われていたのですが、いくら捜査してもその組織を見つけることが出来なかったらしいんですよ」
「へぇ~。で、その事件を解決したのが彼らって事か?」
「まぁ簡単に言えばそうです」
「へぇ~……でも、なんでそんなもんで勇者って呼ばれてるんだ?」
確かに憲兵が血眼になって探しても見つけられなかった犯人を見つけたのは凄いが、功績としては弱い気がする。
「一般の教師であった犯人を見つけた事と、捕縛の際、犯人が自身に薬を使用し、悪魔に匹敵する力を持ったのを討伐した事に加え、その犯人に薬の完成を手引きしていた組織の存在を見つけたからです」
「なんかややこしいな。結局犯人は単独犯だったって事か?」
「違法薬物の製造までは単独です。そこから先の魔人の襲撃は、組織的な犯行だったようです。ただ、犯人に人体実験用のモルモットを提供していた組織と繋がった切っ掛けは、犯人が死亡したため謎のままらしいです」
なんか超こぇ~話なんですけど。
「じゃ、じゃあ、その組織はどうなったんだ?」
「セフィロト全土に広がるテロ組織らしく、未だに末端くらいしか捕まっていないらしいですよ」
「へ、へぇ~……それはヤバいな」
ヤバイねセフィロト! 魔王だけでも厄介なのに、そんな組織まで俺達の平和を脅かしてんの!?
「ええ。しかし今の脅威は目の前の冒険者ギルドです!」
「そこはそれほどでもないだろ! テロと一緒にすんな!」
凄いねこの子。もう自分の世界に入っちゃってるよ。
「同じです! もし冒険者ギルドにお客様を取られ、我がハンターギルドが閉鎖となれば、私達は職を失うんですよ!」
「いや確かにそうだけど。そしたら冒険者ギルドに雇ってもらおうぜ?」
「バカヤロー!」
バカヤロー!? この子一人で熱くなり過ぎじゃね?
「私達は無くなっても良いような仕事をしているわけじゃないんですよ! プライドは無いんですか!」
プライドもくそも、リリアは自分で言っていて疑問に思わないのだろうか?
冒険者ギルドもハンターギルドも、競うように世界中に数多く存在する。だがしかし、分布的には意外にも冒険者ギルドが無い町の方が多い。
冒険者ギルドは色々な手助けをしてくれる組織だが、田舎では町民同士が協力し合い生活するのが基本の為、冒険者を必要とするような命の危機に値する損害が起こる事は少ない。その為、農作物や人に危害を加える猛獣の駆除などの専門的な組織の方が優先される。故にハンターギルドは必ずと言って良いほどどこの町にも存在する。
「そこまで分かってんなら絶対に潰れねぇよ! ハンターいなくなったら誰がモンスター駆除すんだよ!」
「冒険者ギルドがするでしょう!」
「それが出来ないからハンターがいるんだろ! おめぇ本当にサブマスターか!」
ハンターの仕事は、ただ力技で駆除するだけではない。駆除した後、再び別のモンスターが町に来ないよう対策したり、適度に討伐する事によって生態系の維持をする知識も必要になってくる。それこそ簡単に言えば、スズメバチの巣の駆除だって技術が必要になる。何も考えずただモンスターを狩るだけがハンターじゃない。
「くっ!」
「くっじゃねぇよ! 落ち着け!」
最近リリアの言動がおかしい。盛り上がり過ぎて風邪でもひいてんじゃないの?
「でもよ。雇ったって言ったよな?」
「ええ」
「よくそんな金あったな。建設だけで三百万掛けてんのに、大丈夫なのか?」
町クラスの資金なら、三百万くらいは何とでもなるのだろうが、住民としては後々税金やらなんやらで個人負担を増やされるのは困る。
「恐らく予算三百万は、建築費ではなく総予算なんだと思います。私は建築などには詳しくないので分からないのですが、あの規模の建物を建てるのに三百万掛かりますか? リーパーは大工さんをやっていたんですよね?」
「ああ」
そう言われて気付いた。確かに言われてみれば、二階建てではあるが面積的にはハンターギルドとあまり変わらない。かと言って外壁材も高級素材を使っているような雰囲気はない。
もしかしたら内装を豪華にしているのかもしれないし、ドワーフへの人労賃がかさんでいるのかも……それにしても……
「そう言われればそうだな。あれくらいなら百五十万くらいで済むと思う……」
「やはりそうですか」
内装を豪華にするのなら、当然外壁も豪華にする。ドワーフの賃金が高くても、異常なまでの早さを考えれば高すぎる。契約の時点で提示した金額が高い可能性もあるが、ドワーフの相場は、通常の職人の二倍もいかないと聞いたことがある。ドワーフは金額ではなく、如何に面白いかで仕事を受ける種族だからだ。金額が高いのは、人間側の都合だとか。
「ああ。多分最初から冒険者を雇うのに金を出すって言ったら、住民が反対するだろ? だから建築予算を高くして、それらしい設備を付けて誤魔化す気だったんだよ」
「なるほど。こういう話なら、私よりリーパーの方が詳しいようですね」
「まぁな。そういう仕事してれば意外とそういう噂は聞くからな」
金を管理する役職の人と仲良くなると、意外とそういう話をしてくれる。これはほとんどがお客様への不満だが……
「それともう一つ、あの池のような物はなんだと思いますか? 私はずっと気になっていたんですよ。もしあそこに池を作られ、景色の良いテラスのような物を作られれば、間違いなくジャンナの脅威になりますからね」
「え? あぁ、あれ? あれは多分……」
リリアは知らないようだ。ドワーフは腕は良いが、趣味で余計な物を作るという困った奴らだという事を。そのうえ、意外にも良い物を作るため、余計な仕事を増やされることは多々あった。会社としては新たな仕事が増え喜ばしい事なのだろうが、次がある労働者にとっては迷惑極まりない産物だ。
「池だな」
「やはり。あの冒険者たちだけでも厄介なのに、これは由々しき事態ですよ!」
ごめんリリア。多分あれは暇を持て余したドワーフが遊びで掘った穴だよ。あれを池にすれってなったら、ほとんどの職人が怒って帰っちゃうよ。
「リーパー! 受付に戻りましょう!」
「え? あぁそうだな。あんまり遊んでたら、イメージ悪くなっちゃうもんな」
やっと真面目モードに切り替わったのか、サブマスターとしての指示が飛んだ。と思ったのだが。
「いえ、作戦会議です!」
「はぁ?」
「まだお客様は来ていません。ですからこの僅かな時間さえも有意義に使い対策を考えます! 善は急げです!」
善は急げは違くね? どちらかと言うと仕事サボってるよね?
俺が入社したときの真面目なリリアは、一体どこへ行ってしまったのだろう……
小説は書けば書くほど腕が上がる。色々な本を読んでも一番の上達は書く事だと謳っています。ですが、特に今話は何度読み返しても下手くそだと思います。稚拙な文章を公開している私自身にも問題がありますが、悪い見本として参考にして頂けたら幸いです。読み手と書き手、双方がより良い小説を作り上げる事を願います。