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ギルドスタッフ! 3  作者: ケシゴム
シェオールの英雄 リーパー・アルバイン
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三大勇者

 町の小さな夏祭りが終わり、一大イベントが過ぎたのにも関わらず、未だに夏真っ盛りの九月。蝉しぐれが続く中、町民達が待ちに待った冒険者ギルドがいよいよ営業初日を迎えた。とは言っても、相当な建設費に焦りを感じた役場が凄まじいドワーフの仕事ぶりを見て、半ば強引に開業を前倒ししたようで、未だに工事は続いている。だが一部の施設は完成したようで、本日からの営業となった。

 

 シェオールにも、昔は宿屋に簡易の冒険者ギルドはあったが、列車が開通してから貿易路を奪われると、あっという間に撤退していった。

 元より、シェオールのような田舎では自警団がいればほぼ問題は解決するため、冒険者自体がほとんどいなかった。しかしいざ冒険者ギルドが出来るとなると、地元民の俺としては大変喜ばしい事であった。それは当然シェオール民にも言えた事で、例え建設途中のギルドであっても、開店のセレモニーには大勢の町民が押し寄せた。


「本日は朝から天気も良く、冒険者ギルドの開店には相応しい陽気となっています」


 黒のスーツに赤いネクタイを締めた町長のジムが、炎天下の中この日の為に用意されたステージに上がり、挨拶する。

 脇には議員や来賓が並び、アルカナと冒険者ギルドの紋章が入った垂れ幕がセレモニーを彩る。その中にはうちのギルドマスターのニルと、冒険者ギルドの設立のきっかけとなった寄付をしたハンターの代表としてクレアもいた。


「列車の開通により徐々に人口を減らし、高齢化が進むシェオールですが、この冒険者ギルドと、今まで町を支えて来てくれたハンターギルドが協力する事で、昔以上の活気をシェオールにもたらしてくれると、私は思っています!」


 本来なら、町長や議員の演説など聞く気にもなれない俺だが、生まれ育った故郷が活気づくと思うと、仕事中でも否応なく聞き入ってしまう。

 そんな俺に、リリアが言う。


「リーパー、そろそろ業務に戻りなさい。いくらお客様がいなくとも、勤務中ですよ」

「あっ、悪い……」


 リリアはこのギルドのサブマスターで、俺の四つ下の幼馴染だ。冒険者ギルドの設立に感化され、勝手に敵だと認識して、意識改革やらサービス向上やら一人で盛り上がっている張本人である。

 しかしそのお陰で俺達はよりプロ意識を高め、町へ貢献するという目的を得ることが出来た。これにより、今までなんとなく仕事をしていた俺は、僅かではあるがギルドスタッフの仕事の楽しみを覚えた。

 

 当初はこれが目的で騒ぎ立てているのかと思っていたが、今も昔もお祭り騒ぎが大好きな性格が変わっていないリリアは、ただ単に戦いを演出して盛り上がりたいだけのようだった。


「良いですかリーパー。今は新しいという理由だけで、お客様があちらに惹き付けられているだけです。ですから、誰もいないからと言って、油断して良いと言うわけではありませんよ」


 何かそれらしい事を言っているが、そりゃあんだけ派手なセレモニーやられれば、誰だってあっちに行くよ。それに何回客がいないって言う気なんだよ! 完全に悔しがってるよ。


「分かってるよ。プロとして、仕事に徹すれって言ってんだべ?」

「そうです! さすがはリーパーです!」


 このノリ。リリアはプロが言いそうな事を言えば目を輝かせる。ギルドマスターのニルや双子の妹のヒーの話では、リリアは冒険者ギルドと戦うために、何故か戦記物の小説や漫画を読み、戦術を学んだらしい。その影響のせいか、最近はそれっぽい言葉に過剰に反応するようになった。そこはビジネス本を読めよ!


「竜昇拝むば竜雛の呱です!」(※この世界のことわざ。虎穴に入らずんば虎子を得ずと同じような意味)


 仕事に関しては優秀だが、それ以外、特にことわざなどの知識はさほど成長していないのは最近知った。


「そ、そうだな……」


 でも可哀想だから、細かい事は言わない。そういうのはヒーかフィリアに任せる!


 冷房は掛けてはいるのだが、シェオールらしさをモットーに掲げた我がギルドは、簾に風鈴というスタイルで今年の夏を過ごす。そのため、受付まで町長の演説が聞こえ、時折聞こえる観客の笑い声にどうしても興味をそそられてしまう。

 

「なぁ? なんでヒーを行かしたんだ?」


 セレモニーには、うちからはギルドマスターさえ参加すれば問題無かった。それなのに、何故かリリアはヒーにセレモニーを見てくるよう指示をした。


「当然敵情視察の為です!」

「いや、視察も何も、フィリアたちみたいに窓から覗けばいいだろ?」


 盛大なセレモニーに、受付はもちろん、併設される飲食店のジャンナまで閑古鳥が鳴いている。そんな状況に、暇を持て余したホール担当のフィリアと新入社員のアルカが、窓から向こうの様子を窺っている。


「分かっていませんね。敢えてこちらから斥候を送り込むことによって、相手にこちらの余裕を見せ、プレッシャーを与えているんです」


 あれ? 斥候って知られたら意味無いんじゃないの?


「それも、頭脳明晰で上級スタッフのヒーが視察をしているとなれば、相手は気が気じゃないでしょう」


 いや、多分気が気じゃないのはニルだけだよ。ニルからしたら、ギルドマスターとしてミスを許されない状況だよね。あれだけの、それも敵営のセレモニーでうちに恥になる様な事したら、間違いなくリリアにチクられるよね?


「そういうわけなので、私達は冒険者ギルドのセレモニーなど一切気にせず、普段通り、いえ! 普段以上に気を引き締めていきましょう!」


 確かにヒーが視察に行っているのなら、何も気にするような事など無い。だが、例え俺達がいつも以上に気合を入れて業務に集中しても、客が来ることは一切ない。

 そんな中、今までで一番の観客のどよめきが上がった。これにはさすがのリリアも反応を見せ、見に行きたいのだろうか、ソワソワし始めた。


「おい」

「な、なんですか?」

「仕事に集中しろ」

「わ、私は常にしていますよ! あのくらいでうろたえる筈がありません!」


 自分からうろたえるとか言い出した時点で、完全にうろたえてるよね?


「じゃあなんだ。お前トイレでも行きたいのか?」

「そんなわけありません! 私ほどのクラスになれば、体までが仕事のリズムを作り上げ、トイレの時間さえルーティーンとして組み込んでいます! それに、私ほどのクラスなら、便意くらいなら自在に操れます!」


 うろたえるって言うか、もう動揺レベルの答えだよ。隠そうとするあまり、要らないことまで口走りだしたよ。


「女性は男性に比べ、尿道が短いと言われていますが」

「もういい! 分かったから仕事するぞ!」


 リリアは打たれ強いが、急所を突かれるとあり得ないくらいオタオタする弱さがあった。


「貴方に言われなくても分かっています! ただ私は……」

「おおおぉぉぉ!」


 突然観客の大きな声が上がり、リリアの声を遮った。

 これだけの大きな歓声に、リリアは堪らず受付を飛び出し、正面扉に走り出した。こういう所はまだ子供。あれ? でももう二十四くらいだよね?


 リリアが正面扉にへばり付くとほぼ同時に、大きな拍手が鳴り響いた。本来なら受付を空にすることは許されないが、これだけ大きな歓声につられ、俺もリリアの横で覗くことにした。


「おい! 一体何があったんだ?」

「非常事態です! 見て下さい!」


 リリアにとっては非常に由々しき事態なのだろう、俺が受付を離れた事を咎める事なく、ステージを見るように言った。

 見るとステージ上の町長の横に、三人の冒険者らしき人物が立っているのが見えた。


「なんだあの人たち?」

「ギルドの開設にあたり、町の方で雇った冒険者です!」

「雇った冒険者!?」


 冒険者って金で雇うものなの!? ハンターには指導員や派遣はあったけど、冒険者って傭兵みたいに雇えるの!?


「はい。新設したばかりだと、どうしても冒険者を集めるのに苦労します。そこで人手を確保する少しの間、名のある冒険者を雇うんですよ!」

「マジか!? 派遣じゃないのか!?」

「ええ。冒険者協会は助力が原則ですから、協会を通せば個人委託も可能なんですよ!」

「ごめん! よく分からん!」

「簡単に言うと、協会が認めれば、金さえ払えば冒険者は個人で雇えるという事です!」


 それはもう傭兵! 冒険者って金に汚すぎ!


「しかしこれは困りました。まさかここまでのサプライズを用意しているとは……これは死人が出る争いになるかもしれませんよ」


 えっ? 商売で戦うんじゃなくて、直接やり合う気なの?


「そんなに凄い冒険者なのか?」

「ええ。セフィロト三大勇者と言われるパーティーの一員ですから」

「マジか!?」


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