リーパーとクレア
「で、それで話ってなんだ?」
食事が始まりしばらくは全てを忘れクレアの料理を楽しんだ。味も見た目に対して不味いというようなオチも無く、とても美味だ。クレアも俺が「美味い」と言うと喜び、良い雰囲気になった。そこで早速本題に入る事にした。
「あぁ。実はな……」
相当深刻な悩みのようで、俺が問いかけるとクレアはスプーンを置き、表情が暗くなった。クレアは食事が始まると楽しそうにしていたが、グラスの中のワインは一切波打たせなかった。それに気付いて俺も酒の席での話ではないのだと悟り、手を付けなかった。とか言うが、俺は基本的に酒は好きじゃないだけ。
「ミズガルド軍からうちに来ないかと声を掛けられた」
「それってスカウトってやつか?」
「あぁ」
先日来たミズガルドの騎士はこのためにクレアに会いに来たのか。俺はてっきりまたどこかで放火でもしたのではと思っていたのだが、別に悪い話ではないようだ。
「良かったじゃねぇか。スカウトなら一気に将校とかになれるんだろ?」
「い、いや……いきなりそんな役職は貰えない。ただ普通に入隊するよりは良いだけだ……」
軍の階級は良く分からんが、Aランクハンターの実績と前回のミズガルドでの活躍が目に止まりスカウトされたのだろうから、きっと戦場に出ないで威張り散らせる立場の席に就くのだろう。そうなれば給与も物凄いはずだ。
「それでも指揮官補佐とかそんなものからスタートできるんだろ?」
「ま、まぁな……」
話を聞く限り全く問題があるようには思えない。あっ、そういう事? クレアはきっと軍隊はむさ苦しい男ばかりで、重労働ばかりさせられる辛い職場だと思っているのだろう。それに、軍隊は兵舎での共同生活が基本だと聞く。軍には女性もたくさんいるがクレアはそれを知らなくて、もし軍に入隊すれば自分も男に囲まれて共同生活をしなければならず、下手をすれば夜這いを受けて襲われると勘違いしているのだろう。だがそれは一般人の偏見で、実際は綺麗な兵舎の個室を与えられ、大部屋は新兵が入るらしい。それもある程度種族を分け、きちんと男女を分けている。と昔軍にいた事があるハンターに聞いたことがある。
「お前もしかして大部屋で生活するの嫌なんだろ?」
俺だって規律だの共同生活だのあるのは嫌だ。それでもクレアの場合は向こうから来てくれないかと声を掛けられている。なら絶対そんな扱いは受けない。きっと戸建ての部屋を与えられ、サラリーマンのように出勤する形になるはずだ。
「べ、別にそういうわけではない」
「じゃあ門限は何時とかいう規則が嫌なんだろ?」
「それは確かに嫌だ……だが私が悩んでいるのはそういう事ではない」
まぁ年齢的にも、そのくらいでこんな良い話に悩みを抱えないことくらいは分かっていた。
「分かってるよ。あれだろ? ホームシックにならないか心配なんだろ?」
「違う!」
絶対これだと思ったのに全力で否定されたよ! 俺だったら絶対これが理由だよ? 引っ越しは面倒臭いし環境も変わるし、あっ、そういう事?
「あ~そういう事ね。ごめんごめん、俺が勘違いしてた。あれだろ? 新しい環境で上手く人付き合い出来るかって話だろ?」
「違う! 先ず私の話を聞け!」
えええ!? 相談されてるはずなのになぜか怒られたよ!? 先ず私の話を聞けは絶対物を頼む人が言っちゃ駄目な言葉だよ!?
「わ、悪かった……どうぞ続けて」
「あぁ」
何? 俺が悪いの? 折角良い雰囲気だったのに、完全にクレア怒っちゃったよ……
「最初に一つだけ言っておく。この話はお前だから相談するんだ。だから他言はしないでくれ」
俺はクレアとはそれほど信頼関係は無いと思っていた。それは行動を共にした時間が短く、お互いの事をよく知らないからだ。それでもクレアは俺だからと言った。これは俺が努力してAランクまで登り詰めた事を知っていて、クレア自身もそうだからなのだろう。クレアは俺を認めている。そう思うと俺もクレアを認めようと決めた。
「…………なんで?」
「…………おい! しっかりしてくれ! これならまだゴンザレスに相談した方がマシだった!」
そりゃないっすよクレアさん!
「だっておかしいだろ! お前が軍に入隊するのになんで秘密にしなきゃいけないんだよ! だいたい俺が黙ってても、お前が軍に行けばいずれバレるだろ! なんのための秘密だよ!」
「い、いやそうだが……察してくれ」
俺の正論と剣幕が打ち勝ったようでクレアは怯んだが、最後の察してくれが分からん。
「何をだよ?」
「だから、私が軍に入るのに、何故秘密にしてくれと言ったかだ」
「…………それは……」
「そういう事だ」
「…………どういう事?」
「もういい! 貴様は馬鹿か!」
自分は馬鹿じゃないっす。ちゃんと言葉で伝えないクレアさんがいけないっす。
「分かるわけねぇだろ! ちゃんと説明すれや!」
「貴様よくAランクライセンス取得できたな!」
「頭の良さは関係ねぇだろ! はい」
クレアに言葉の大切さを教えるため、スプーンを渡した。
「なんだこれは?」
「ほらお前だってやっぱ分かんねぇだろ! 今お前が言ってるのはそういう事だよ!」
「なにを~! これを洗えばいいんだな! お前はそう言っているんだろ!」
「ちげぇよ! エリックみたいに曲げろって言ってんだよ!」
「できるわけないだろ! 貴様は突然何を言っているんだ!」
「じゃあ俺がお前の言ってる意味分かんねぇのも納得だろ?」
幼少期から屁理屈上手のリリアと理屈屋のヒーと成長し、現在その二人の下で働く俺にはさすがのクレアも勝てないようで、握りしめたスプーンを悔しそうにテーブルに叩きつけ腰を下ろした。
「じゃあ言葉で教えてやる。その代わり絶対に口外するなよ。したら殺すからな」
ビビるわこの人。まさか喋ったら殺される話をしてくるとは……それなら聞かない方が良いような気……
「実は話を持ち掛けてきたのは、王室騎士団だ」
ああぁ聞いちゃった。つーかすげぇ所からスカウト来てたよ! 王室騎士団!?
「お前本気で言ってんのか!?」
「あぁ。あの時世話になったネスト殿からの推薦らしい」
ネストは王室騎士団のたしか団長で、前回ミズガルド研修中に起きた事件の際、俺達を助けてくれた人物だ。あの時クレアは俺の身元を保証するためネストと会話していた。でも前回活躍したの俺とアドラじゃね? クレアに声掛かるのおかしくね? ていうかズルくね?
「なんでお前に声掛かって俺には一言も無いんだよ! ズリーよ!」
「知らん! どうせ貴様の頭の悪さでも見抜かれたのだろう」
「ただ逃げ回ってたお前に言われたくねぇよ! こっちは命懸けで戦ったのに、なんでお前だけ声掛かんだよ!」
「ガキか貴様は! なら貴様は声が掛かったら入隊したのか!」
「えっ! い、いや、しないけど……」
「なら黙って聞け!」
なんか釈然としない。普通強い奴欲しがるよね? たしかにあの時はたまたまだけどさ、普通強い奴欲しがるよね?
「それに、もうこの話を聞いた以上他言はできないからな。仮に私が入隊した場合、お前が私の身元を話せばどんな罰を受けるか分からんからな。分かったか!」
「…………」
マジかこいつ! なんだかんだ言って結局俺が一番ブタ引いてるよ!
「分かったかと聞いているんだ!」
「……はい」
汚い! 汚いぞクレア! もう権力を振りかざしてきやがった! こいつは一体俺に何を求めているんだ!
「で、それで何が不服なんだよ。人に重荷背負わせやがって、しょうもない話ならぶん殴るぞ」
「あ、あぁ……それでだな……」
悩み事は本当のようで、本題に入ると急にしおらしくなる。口の悪さと態度のデカさがなければ可愛いのに……
「じ、実は、私は一体どうしたら良いのか分からなくて相談したいんだ。なぁリーパー、私は一体どうすれば良いんだ!」
「知らねぇよ!」




