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三月三日、私は死んだ。

作者: ヒデキング

「あかりをつけましょぼんぼりにぃ~おはなをあげましょぼんぼりにぃ~♪」

「やだ、さっちゃん、それじゃそのお歌終わらないじゃないの。うふふ」

「おひなさま、おひなさま♪」

 私の目の前で雛壇の飾り付けが行われている。私はひな人形になったのだ。

 三月三日、私は死んだ。睡眠薬を多量摂取した。

 初めて就職した会社は、慣れないせいもあり、ストレスが溜まる仕事だった。

あれは何度目かの給料日、自分へのご褒美と自分に言い聞かせ、ブランド物の高価なバッグを買った。次の日会社に持って行くと、同僚からの羨望の視線。

 しかし、数日経つと一人の先輩がさらに高額なバッグを持ってきたため、私に集まっていた視線はすぐに先輩が独り占めした。

 それから、私服もブランド物を買うようになった。人より高い服を着ている優越感に心を奪われた。先輩もハイブランドの服を着ていたが、元々裕福な家庭だったのだろう。何の苦も無く新しい服を買っていた。

一時期ロッカールームはファッションショー会場と化していたが、安月給でカード払いの私は、徐々についていくのが苦しくなっていった。

 買い物している時だけ生きている実感があった。カードが限度額に達すると、給料日までご飯も食べられない時もあったが、それも新しい服の為に我慢した。

 そして駅前で配られているポケットティッシュから、街金へ手を出すようになる。

 利息が高く、返済サイトも早い為、借金はどんどん膨らんでいった。

 借金の返済が滞るようになり、街金から会社に何度も電話され、あっさり解雇された。そのまま街金で紹介された風俗店で働くようになったが、それでも買い物は止められず、いくら働いても借金は減らない。精神は蝕まれ、睡眠薬が無いと眠れなくなっていた。

 ついに家賃も光熱費も払える見込みがなくなり、私はこの世を去る事にしたのだ。

 最期に眼に映ったのは、部屋に飾っていたひな人形だった。私が産まれた時に母が買ったものだ。あの頃は幸せだったな。今度生まれ変わるとしたらひな人形になりたい。私はそう願った。

 そして今、目の前で母子が雛壇の飾り付けをしている。

 あいかわらず女の子は調子っぱずれの歌を歌い、お母さんは苦笑いしていた。

「そろそろちらし寿司つくりましょうね~」

「はーい」

 女の子は三歳くらいだろうか、ちょこまかとお母さんについていく。

 私もお母さんのちらし寿司好きだったな。ふとお母さんの顔をよく見ると、それは今よりだいぶ若いが自分の母だという事に気が付いた。という事はこの子、私? そっか、私、こんなに可愛かったんだね。

私が幼い頃父が亡くなり、女手一つで育ててくれたお母さんにこれ以上甘えるわけにはいかないと思っていた。こんな事になるなら早くから相談すればよかった。

 私は泣いた。人形だから涙は流れないが、心の中で嗚咽した。お母さんごめんなさい。ごめんなさい。こんな私を許して。

 すると、あたりが光に包まれ、眼を開けるとそこは病院のベッドの上だった。

年老いた母が、泣きながら私の手を握っていた。



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