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デストラクション  作者: 桂田 武史
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 少しは倦怠感もマシになった気がする。

 俺は寝たまま首だけ動かして深谷のほうを見る。

 もう一人でも動けそうなんだけど許可なく起き上がると怒られる。トイレから戻った時だってすぐベッドへ行くように命じられた。俺が怪我をしたことで深谷は自分を責めているのかもしれない。

「健二君、お昼ご飯にしよっか」

 ぼんやりしていたら深谷が俺を起こそうとしてか身体の下に手を入れてきた。俺が自力で動いたらあんまりにも心配そうな顔をするから「大丈夫」と笑ってみた。こんなふうに気にかけてくれる人がいるって悪くない。

「本当に?」

「ん」

 調子に乗って左腕を叩いたら痛かった。

「梨緒に心配かけたくない?」

「それもそうだけど。いつまでも寝てる状況じゃないと言うか」

「梨緒は変なことしないよ?」

「そういうんじゃなくて」

 ……変、なこと?

 昼ごはんはいつもより多かった。チョコチップパン、コンビニとかで八本セットくらいで売っているやつだ。飲み物はオレンジジュース。好物だ。

 さらにデザートもある。

 スティックみたいな、なんだかわからない洋菓子。

「マカロン! やった」

 ……俺の知っている奴と違う。

「にしても。なんでこんなに」

 食料のクーラーボックスは十個。これでは食べられない人もでてしまう。もっとも、俺は顔も見えない他人を気にかけるほど心の温かい人間ではないけど。

 それにデスゲーム中にまで「人として」とか「常識」とか世間様にたいして点数稼ぎする必要性も見出せない。

 深谷もやはり同じなんだろう。

「狩手の恰好で行ってみたの。そうしたらね、みんな逃げちゃった。あまったら勿体ないもん。ね、梨緒のこと褒めてくれる?」

 やわらかい髪をわしわししたら深谷が「にゃあ」と言った。

「楽しそうだな」

「だって。あと半分で明日で、明日になったらどっかでゲームが終わる。そうしたら運営を潰すんでしょ? 梨緒わくわくする」

「そうか」

「でも……そうしたら健二君ともお別れなのか」

 俺の手が止まった。

 全く考えてなかった。深谷と行動を共にしてたったの四日。それなのに長年過ごしたはずの家族なんかよりはずっと打ち解けていた。

 確か初めて会った時、俺は深谷を怖れていた。今もまだ深谷については解らないことも多い。とはいえ、深谷はこんなにも優しくて可愛いのに。

 今となっては隣に深谷がいない状態が考えられない。

 本来なら家族とか親友とかもっと早く知るべき感情だったのかもしれないが。

「深谷がペアで良かったよ」

「本当? うれしい。健二君でもそういうこと言えるなんて意外というか」

 深谷がくるくると回った。短い髪がふわっと広がっている。

「なんというか。思ったより平和だよ」

「爆発したのに?」

「巻き込まれていない」

「怪我は」

「後遺症すら残らないレベル」

「良かった」

 俺はのんびりとあくびをした。狩手の恰好をしている今、拠点を動く必要もなさそうだし、ゆっくりと運営を潰す計画をたてればいい。

 まず、運営のトップだけど。何を考えてこんなゲームをしているか全くわからない。ゲームを生き抜けば運営からの接触があるのは間違いないんだけど。帰らなきゃだもんね。

「なら、その時か」

 それには敵についてわからないことが多すぎる。敵の人数も、これだけ武器を用意できるなら組織自体の武装も。

 普通に考えたら、頭は警察に捕まえてもらったほうがいい。

「いや、警察は動いているのか?」

 大掛かりなゲームなんだ。気付いていないなんてことがあり得るのか。ならば、

「初めてなのか?」

 その割に手際が良すぎる。俺はスマホをいじった。やっぱりスマホだけど電話がない。できれば終了前からこちらに有利に立ち回りたいところ。

「ああ、くそっ」

「健二君、一回落ち着いて。梨緒も手伝うから」

 俺は深谷の顔を見た。笑顔を綺麗だと思った。はじめて年相応に見えた。なんでだろう。

「運営のことなんだ。果たしてゲーム終了後に対話が叶うだろうか」

「んー、梨緒は無理だと思う」

「やっぱりか。なんかこう、運営に目をつけられなきゃか」

「だよねえ」

 俺は腕を組んだ。なんか目立つことしたほうがいいのか? いや、運営はどこで俺たちを監視している? 目立つことして届いてなかったら恥ずかしいやつ。

「狩手は運営側なのか?」

「違うと思うよ。なんかね、変なの。ゲームでも楽しんでるって感じかな」

「うん」

 頭がこんがらがってきた。馬鹿は頭使うだけで疲れるんだぞ。

「一回休んだら? そろそろ頭疲れたんじゃない?」

 人に言われると凹む。

「ためしに運営のメールに返信してみたら?」

「もうやった。反応も無い」

「そっか」

 俺は棒にされた変なマカロンをかじった。わからない。運営の反応を待つしかないのか? もっと早く何か……。

 スマホが鳴った。きたっ!


『やあ、みなさんお元気? そろそろ疲れたかな? あと少しで終わりになっちゃったねえ。さーみしいっ。

 さてさて、またまた大事なお知らせなんだけどね。

 ぶっちゃけさあ、今のペアどう? 運営のやつ勝手に決めやがってみたいになってない? ちょー怖いんだけどさ』


 違う。俺はため息をかみ殺した。続きを見る。


『でねでね、ペアの組みなおしが可能になったよ! ペアってアプリから試してみてね。

 相方死んじゃって寂しい人、相方まじウザくてむりって人良かったねえ。

 そうそう二つ注意点があるんだ。

 相方が生きている場合は双方の同意がなきゃ解散できないよ? 当然だよね? そこで揉めたのまで僕らのせいにされたくないもん。

 あとね、ルール上ペアは双方の同意で組めるんだけど異性でなきゃ組めないからね?

 じゃ、まったねー』


 俺はスマホを置いた。

「なにこれ。ちょっと梨緒わかんない」

 深谷は露骨に不機嫌そうだった。深谷って、こんな顔したっけ?

 俺はペアの解散を望まなかった。

「一緒に運営潰すんだよな?」

「うん」

 深谷が嬉しそうに飛び跳ねた。こんなの初めてだ。俺も、嬉しかった。

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