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デストラクション  作者: 桂田 武史
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崩落

『中間報告だよ。えっとね、今二人で生き残っているペアをアナウンスするね。あ、念のためだけど組みなおす前の最初のペアね。新しいほう番号とかつけようないし? 怒っちゃやーよ。

 んじゃ、一、三、九……』

 わたしは慌ててスマホを取り出しました。五番が抜かされています。心臓が激しく脈打って、その音で狩手に見つかってしまうんじゃないかと思いました。

 わたしはペアというアプリをタップしようとします。何かの間違いに決まっています。

 でも、間違いじゃなかったら……。

 怖くなって、スマホを両手で抱えへたり込みました。

 日が傾いて、辺りが冷えてきました。わたしはどれだけの時間座ったままいたでしょう。他の参加者がわたしを見て、ひそひそとやっていました。

 ポケットに髭剃りがありますが、もう伸びてしまった髭をそる気にもなりません。

 周りからは剥げかけた化粧で無精髭のスカートでツインテールな気色悪い男にしか見えないでしょう。誰もわたしに声をかけませんでしたし、わたしも黙っていました。

 決心がついたのは、完全に夜になってからでした。

 まだ震える指でアプリをたち上げると、すぐに鋼志を示す青丸を捜しました。怖くてペアの状態詳細は見れませんでした。

 青丸は、動いていました。それも一定のスピードで。生きているかもしれない。ほっとしましたし、この希望こそが全てだと自分に言い聞かせました。

 わたしは、まだ喧嘩別れについて謝れていません。夜は危険ですがわたしは青丸に向けて歩き出しました。

 幸いにも、スマホの光で寄ってくる狩手はいませんでした。視界が悪いこともあり、他の参加者とすれちがっても馬鹿にされなくてすみました。

 青丸の場所はかなり遠くでした。わたしは喧嘩してから同じ場所で鋼志を待ちましたから、鋼志はむしゃくしゃした顔で今のわたしと同じ道を通ったのかもしれません。

 半分くらいの道のりを歩いたときでした。わたしはある違和感に気付きます。鋼志は、ずっと同じ場所を一定の速度で回っていました。鋼志のいる場所は、地図では「ドキドキランド」となっています。

 恐ろしい予感が駆け抜けました。

 わたしは尚も前へ向かって歩く自分の足を呪いましたが、それでも止まれません。手汗がじっとりしているのに何かの呪いのようにスマホは手から離れてくれません。青白い光に目を背けようとしましたが固まった首も開ききったまぶたも思い通りにはなりませんでした。

 青丸の場所は、メリーゴーランドでした。本当に動物園におまけという体裁でボロボロの。コインで動くパンダのおきものや、小さなジェットコースターもあります。何故かアトラクションは動いていました。しかし遊んでいる人は、見つかりません。

 わたしは帰ろうとしました。不気味な光景に寒気がしました。それに、遺体を見てしまうのが嫌でした。

 メリーゴーランドは間抜けにさえ思えるような明るい音楽を鳴らしています。

 わたしは逃げ出そうとして、転びました。音楽と橙の灯りから逃れようと四つんばいでもがきましたが、メリーゴーランドから目をそむけることができません。驚くほどに動けませんでした。

 わたしは涙をながしながら非情な木馬たちを睨みます。

 そこに、馬ではなく長いすの形をした座席が回ってきました。

 鋼志が、死んでいました。

 わたしはその場で動けなくなります。阿呆のように鋼志の遺体を目で追いました。肌は青白いなんてものじゃありません。腹部からあふれた血はすでに黒味をおび、彼を照らすメリーゴーランドの光が非現実の出来事のように揺れていました。

 鋼志の服はやぶられ、下半身は脱がされていました。はぎとられたトランクスが台座に落ちています。

 わたしは勢いよく吐きました。

 なんて酷いことをするのでしょう。

 彼は死んでまでその尊厳を踏み捻られた。怒りとも後悔ともつかない感情につぶれそうになります。

 わたしが、鋼志に「顔も見たくない」なんて言わなければ。捜しに行っていれば。喧嘩なんてしなければ。待ち続けたほうが従順な女の子っぽいと頭の端でわたしは思っていたのでしょうか。それとも初めてあった同類に、わたしと同じに違いないと決め付け勝手に裏切られたと怒っていたのかもしれません。

 ――お前いい人してりゃ報われてホンモノになれるって思ってるだろ。

 鋼志は、正しかった。

 死んでなお悔しそうに天をにらむ鋼志の目が頭から離れません。

 さらに吐きました。すっぱい味が、胃液ばかりの吐瀉物がいっそう惨めな気持ちにさせます。

わたしの前を一人の狩手が通りました。

わたしは、人殺しです。罰せられることを望みました。わたしは両手を大きく広げ、狩手のほうに歩いていきます。

狩手はあっと悲鳴をあげ逃げてしまいました。わたしは思いつく限りの怨嗟をぶつけます。臆病者、なんで、殺しなさいよ。息が詰まります。

人でなし、偽善者、出来損ないが、気持ち悪い、死んでしまえ。途中から全て自責に変わりました。

狩手のいた場所に小銃が落ちています。わたしはそれを拾い上げ、銃口をこめかみに押し付けました。

しかし、結局弾は出ません。押しても押しても引き金は何かで引っかかり、わたしの頭をぶち抜いてはくれません。わたしは、ただ背中を丸めて泣くことしかできませんでした。

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