1 それは唐突に
「あーあ、今日も結構派手にやらかした。」
ここ最近、何をやっても上手く行かない。と、嘆く様に一人、手に中身の詰まったコンビニの袋と反対の腕に仕事のバッグをかけた一人の女。
瀧口龍。男の様な名前で、小さい頃はよく誂われた。けれども、その名前に恥じぬ程の男の子のような子だったと、専らの噂。
遊びに行っては、生き物を捕まえてきたり小さな怪我など日常茶飯事。けれども、今ではそんなふうには見えない程の女性になった。
気づいたら真っ暗な空、見上げ見える星を数えた。
「どこかにいいこと落ちてないかなー…」
声は少し楽しそうだが、表情はそんな楽観的な事でも言ってないと泣きそうだ。
自宅へとつくと、鍵を開け中へと入った。当たり前のように真っ暗な部屋。電気をつけるとより一層寂しくなった。
机に買ってきた物の入ったコンビニ袋をのせ、少し離れた場所から座椅子を引っ張ってくるといつもの位置に座った。
テレビを点けるとこの時間はニュースぐらいしかやっていない。袋へと手を伸ばすと、中から缶チューハイと軽食を取り出した。
出るのはため息ばかり。
「あ、そうだ読みかけの漫画」
思い出したように、机の端にのっていた漫画を手に取り読み始めた。明日が休みだということもあり、買って来た酒を全て飲み尽くすまで漫画に集中していた。
しかし気付いた時には、そのままそこで眠ってしまったのか昨日のままの状態だった。
動こうにも、二日酔いで動けもしない。
しかし、頭痛と吐き気に急いでトイレへとバタバタと駆け込んだ。
そして、やけ酒などもうやらないと堅く誓った。
「そんなに飲んでないのに…」
ふらふらとした足取りで、そのまま風呂に入り出て来ると丁度インターホンが鳴った。
「宅急便でーす」
「え、ちょ…ま、待ってくださいー!!」
玄関の方から聞こえる声。慌てて服を着て向かおうとすれば足が縺れて廊下で盛大にこけた。結構な音がしたからか、玄関を開けるととても心配をされたようだったが、特に怪我もなく愛想笑いでかわした。
サインをして受け取った箱は、結構な重さと大きさで、鍵を閉めてから廊下に下ろしそのまま押して部屋へと持って行った。
廊下傷つくかなこれ。
「そもそも荷物なんて頼んだっけ?」
そんな記憶はほぼ無い。
けれども、断言は出来なかった。数個前科が有った。
前回は確か、前から買おうと思ってたワイン。
伝票を見るとそこに書いてあるのは、この家の住所と、差出人不明の空白。
「今って、差出人不明で荷物出せたっけ?」
いつもらきちんと記入されてるその欄に、親友のなにか悪戯だろうと決めてダンボールの蓋を開けた。
「……卵……?」
中には、少しゴツゴツとした白に赤い複雑な模様の入った、大型犬の1ヶ月程の子犬がすっぽり入れそうな程のサイズの大きな卵。ダチョウのものともまた違った、大きな卵。
何を基準にしたのかはわからないが、形と見たままに直感的にそれが卵だと思った。
よく分からぬ状況に固まり、まず一旦状況を整理しようと蓋を閉じるべく手をかけると、蓋の裏に貼り付けられた、よく外国の昔の映画など見ていると見るような封蝋のついた奥ゆかしい雰囲気の封筒に入った手紙一つ。