プロローグ 消えた一族
騒がしい音、それから何かが焼けるような臭い。それらが、少し遠くに感じるこの場所に二つの影。
片方は切羽詰ったように、その手に大切に大切に抱き締める一つの卵。もう片方はそれを見やり、苦しげに表情を歪める。
その足元に、ぼたぼたと落ちる紅い紅いモノ
「このままでは、”これ”の命まで危うい」
「…出来ることなら、この子の顔が見たかったわ…」
「これをやり過ごしたら、その頃には”これ”が自分できっとこちらへと戻ってくる。心配するな」
「何言ってるんですか、私は貴方のこと信用しているんですよ。必ず」
卵を、その硬い腕で抱き締めた白色は、燃え盛る炎の様な真紅の瞳を隠すように伏せた。
何かが大量に近づいてくる音、それに気付いたもう片方
森に大きな大きな咆哮が二つ。
むかしむかし、グィレンバルドの森には大きなそれは大きな白いドラゴン達が居た。
その白さは、光に当てれば七色に反射する程。燃え盛る炎の様な真紅の瞳。そして有り余る程の魔力。
竜の王と謳われた一族、人と契約をし、力を貸すこともあったが欲の強い人間に愛想を尽かし人の前へと姿を現す事などなくなった。
そして、時を経て次第にその数を減らし、ついには罪深い人間たちにより最後の番が狩られのであった。
それからと言うもの、森は荒れ果て、魔物の住処となり、そこから人を襲いに来る様になった。人々は困り、力を合わせて魔物に立ち向かったのだが
ひ弱な人の力だけではどうにもならなかった。そして、やっと気づいたのです。今まで魔物に困らなかったのは、ドラゴン達のお陰だったのだと。
そして、竜の王を滅ぼした欲深い一人の王の王国は、一時は繁栄したかのように見えたが一気に衰退し、反乱を起こした軍の者によって惨殺されてしまった。
「それは、竜の王の呪いと言われるようになったんじゃ」
「へえ、ぼくもそのりゅうおうみたかったなぁ…きれいだったんでしょう?ばあはみたことあるの?」
「ふふ、ばあは一度だけ、な。それはそれは綺麗じゃった。」
昔話を、ベッドに横になっている黒い小さなもふもふとした犬のような獣人の子に聞かせる、腰の曲がった歳を召した黒に白い毛の混じる獣人。
「話は今日は此処までじゃ、もう寝なされ」
「ええー!もうおわり!?」
「全く、何度この話聞かせれば済むんじゃ…ばあはもう疲れた。明日は人の話を聞かせてやる。もう寝ろ」
「ほんとう!?ほんとうにほんとう!?」
まだまだと、駄々をこねる子供。
それを宥めるよう、明日聞かせてやる話を約束すると、途端にキラキラした瞳で老婆を見た子。
言ってしまったからには、明日もまたこうしてせがまれるのかと思うと少し億劫だと思ったが、子供は可愛い。それに勝るものは、老婆にはなかった。
布団をかけなおしてやり、ランプを持つと部屋から出ていった。
おやすみ、夢を見る子。お前の未来に多くの幸があらぬことを――