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ステージ上の魔法使い  作者: のりやす
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第8話 『不穏な雲行き』 その4

 眞白には、「いつものこと」は「いつも通り」に伝えてはいない。旭姫が彼のことを快く思わない人間に暴力を振るわれることは多々あったが、いずれも彼を助けに来たのは司狼であって、眞白ではない。



 旭姫が置かれている状況を、眞白は、まだ知らない。



 眞白は他人の痛みに敏感だ。本人は鈍感な振りをしているが、それはしばらくユニットを組んでいればすぐに分かった。



 他人の痛みに敏感で、他人の顔色を窺ってばかりいて、傷つきやすい。しかし、本人にとって繊細という単語は褒め言葉でもなんでもない。なんともややこしく、こじれた性格だと、旭姫は出会ったばかりの頃に呆れたものだった。



 そんな眞白のことだから、旭姫が――自分の憧れの人が、多くの同業者から憎悪の目線を向けられていると知れば、どうなるかはすぐに予想がついた。



 きっと、傷つくのだろう。平気な振りをしている旭姫の分まで。



 そして悔やむのだろう。何も知らず、何もできなかった自分に対して。



 それから、泣いてしまうのだろう。無意識に、「あの時」みたいに、自分でも止められない涙をぽろぽろ零してしまうのだろう。



 眞白は『Nacht』にとってなくてはならない戦力だ。いつもはお色気キャラで通っている彼が、ライブ中に、ふわりと華が咲くような微笑を見せると、それだけで観客は魅了されてしまう。乏しくはありながらも、ゆっくりと明るい変化を見せる彼の表情に、たちまち釘付けになってしまう。



 そんな彼の表情を、「何かを知らせる」ことによって曇らせることを、旭姫はしたくなかった。そして、その考えに司狼も同調してくれた。



 だから、今回のことも、眞白には何も伝えない。旭姫だけで、それが無理なら、旭姫と司狼の二人だけで、決着をつけたい。



 『プレライ』の数日前から何度も受信し続けた迷惑メール。昨日の段階ではもう来ることはなく、さすがの愉快犯もノーリアクションに飽きが来たのだろうとほっとしたのも束の間。



 リハーサルが終わってから、堰を切ったように次々とあのメールが届いた。



『今日が『Nacht』の『プレライ』だったね』



『舞台の最高潮から君達が転落する瞬間を楽しみにしているよ』



 これだけだったらまだよかった。何の具体性もない、ぼやけた嫌がらせのメール。



 それが、リハーサルを終えた瞬間、やけに真実味を帯びた記述に変わっていった。



『犬色眞白の様子はどうだい? 普段とどこか違うところがあるんじゃないか?』



『この『プレライ』、犬色眞白がいるから、失敗するよ』



 もし、失敗させたくないのなら――



 今すぐ楽屋を出て、指定の場所に来るように。



 その下に、日時と場所が記されていた。



 今楽屋を出れば間に合う時間。相手の目論見が何かは分からないが、すぐに解決すれば本番には間に合う時間。それが今も近くで『Nacht』を見透かしているようで、気味が悪い。



 名前も顔も知らない、匿名性に物を言わせている彼が、一体、犬色眞白の何を知っているというのだろう。



 ユニットメンバーを侮辱された怒りに手を震わせながら、旭姫は携帯に表示されたメールの本文を睨みつけ、向こうに指定された場所へ向かった。



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