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ステージ上の魔法使い  作者: のりやす
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第7話 『星降る夜空に願うのは』 その13

 時間が経つのはあっという間で、気づけばとっくに最終日に来ていた、と司狼は頭を抱えていた。もっとも、責任の一端は出歯亀行為を喜々としてやった自分にあるのだけれど。



 まあ、明け方近くには、はぐれたそれぞれのメンバーが怪我もなく無事に合流できたことだけが、不幸中の幸いだった。この結果に文句をつけるつもりは司狼には毛頭ない。



 迎えは明日の朝に来る。残るは一日――二十四時間。帰りの集合時間や今からの睡眠時間も含めると、「自分達のやりたいこと」に使える時間は、十時間あればいいところだろうか。



 十時間のうちに、「やりたいこと」すべてができるようにするのがベストなのだろう。しかし、今のままだとどれだけ工夫しようと、三分の二ができれば上等といったところだ。そうすると、優先順位を決めてこなしていくことが重要になる。自分がリーダーとして決めてしまってもいいのだろうが、やはりメンバーからの意見も聞いておきたいところだった。そうすると、先ほどプチ遭難から無事帰還してベッドに入ったばかりの彼らを起こしてしまうことになる。アイドルの資本は身体であり、多少頑丈にできている自分ならともかく、彼らを睡眠不足に陥らせるのは……。



 考えている間に、瞼が重くなる。意識に靄がかかり、そのまま机に突っ伏しそうになる。それではだめだとかぶりを振って、思考回路を再度繋げる。ひたすらそれを繰り返し、どれくらい時間が経ったのかも分からない時に、ノックの音がした。



 また喧嘩を売ってくる奴に入ってこられたらどうしようかと思ったが、しばらくしても扉を蹴り飛ばすような音はしない。ノックの音も、あの時に比べていくぶん優しかったような気がする。



「――はい、こちらリーダー室」



 自分でもよく分からないことを言いながら扉を開ける。



 そこには、旭姫と眞白が立っていた。旭姫は徹夜明けもしくは深夜のようなテンションで、ランナーズハイのように、目をらんらんと輝かせながら司狼に詰め寄った。その後ろにいる眞白といえば、立ったままで、意識を放棄するかのように船を漕いでいた。



「どうした。まだ寝ててもいい時間……というか、寝てないんだろう、お前らは。大人しく寝てろ。既定の時間が来たら起こすから――」



「そんなことよりもさ、司狼」



 そんなこととは何だ。アイドルにとって、いや、全人類にとって、第一に考えるべきは健康だろう。そう言おうとしたのに、旭姫はやけに楽しそうに話すのだから、口を挟めなかった。



「僕、面白いこと思いついたかもしれない」






「暗闇の中を歩くことになるが、旭姫は大丈夫なのか?」



「大丈夫だよ。それくらい」



 あの後、ほんの数十分で終わる打ち合わせを少しだけした後、『Nacht』のメンバーは早速撮影に入った。さすがに徹夜は辛いのではないかと司狼は二人に問いかけたのだが、旭姫は深夜のテンションが続いている状態で逆に眠れないと言うし、眞白は自分のことを「いつもこんな感じだから少しくらい眠そうにしてても大丈夫」とまで言い切ってしまった。



『ストーリーをつけたいんだ』



 咄嗟の思いつきを、旭姫はそう解説してくれた。



 オフショット撮影であれば、主にライブ前や後の楽屋でのものが多いだろう。その他、PV撮影時のものも挙げられる。旭姫が選んだのは、後者の撮影だった。



『司狼は、学園長にこの島か、あるいは類似した場所をPV撮影に使用できないか訊いておいてくれる?』



 しかし、PV撮影のオフショットにストーリーをつけるとは、どういうことだろう。



『僕達はまだ、実態がほとんど明かされていないユニットなんだ。たまに雑誌に掲載されて、ダウンロード形式で曲が配信されているだけ。『マジック・ライブ』でデビューを飾ってもいないんだ。『魔法』を売りにするユニットとしては、まだ新人以前の問題だよ』



 デビュー前だが、『プレライ』を既に七回成功させているユニット。そういった意味での知名度はある。次にデビューするユニットだろうという注目度はあるし、メンバーの大まかなプロフィールと性格ならばホームページといくつかの雑誌で公開済みだ。



 けれど、注目しているからといって、その人達がファンとイコールで結ばれるわけじゃない。



『そんな人達を、ファンとして取り込みたい。ライブでデビューする前から、僕達のことを知っておいてほしい』



 だからこそ、オフショット撮影の中でも、大まかなストーリーが必要になるのだと旭姫は言った。

『ライブを開催して観客の前に姿を現しているのなら別だけどね。ライブは成功だけでひとつの体験になるし、ファンとの一体感も得られる。成功体験の裏側っていうだけでストーリーができているんだ。……でも、僕達にはまだそれは無理だから』



 最後の一文だけは少し悔しそうに、旭姫は付け加えた。



 もちろん、曲のPVにもストーリーはつけるつもりだ。曲調の普段の『Nacht』らしいクラシカルでダークなものを全面に押し出していく。ストーリーとしては、ざっくばらんに言ってしまえば、夢の中で孤島を彷徨う三人の青少年達が、苦悩の末に星を見上げることしかできない、というものだろうか。



 それに対して、オフショットの方はヴァカンスをイメージし、ひたすらに爽やかで明るい雰囲気を出していくのだという。



『司狼が以前に言っていたでしょう? 『メンバーの仲の良さもアピールしておいて損はない』って。あの時の策を、ここで実現しよう』



 オフショット撮影の方はPVとは対照的にコミカルな雰囲気になる。『Nacht』がPV撮影のために訪れた島には、お宝がある。いつからの言い伝えかは分からないが、そう秘かに伝わっている。荒れ果てたコテージの中で、掃除に勤しんでいた司狼は、押し入れの中に古びた地図を発見する。それが宝の地図だという話になり、夜、『Nacht』の三人は、そのお宝とやらを探して出発する。



『そして、最後には、星を降らせたいんだ』



 そうして旭姫によって提案された案は、司狼が考えていた「この島で成すべきこと」をすべて網羅したものだった。


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