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ステージ上の魔法使い  作者: のりやす
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第7話 『星降る夜空に願うのは』 その6

 集合の時は夜。ざっくばらんに、夕飯を食べてお風呂に入ってあとは寝るだけかーとベッドで一息ついているような、そんな時間。廊下も1階のリビングも消灯してしまっていて、電気がついているのは個室だけだ。



 昨日、美琴と夕が外へ出て行ったのも、これくらいか、もう少し遅い時間だった。



 懐中電灯は持った。三人で一つ持てば十分だろうと思ったが、眞白がはぐれてしまった時用に、眞白用に、もう一つ用意しておく。携帯――はいらない。どうせ孤島だ。電波は入らない。財布も、自販機一つないこの場所では持っていても功を成さないだろう。財布にしろ携帯にしろ、落として壊したり失くしたりするよりは、携帯しない方がマシだ。



 美琴と夕はただいちゃつくだけだからか随分とラフな格好で出かけていったが、森の中には危険がいっぱいで、自分達は身体が資本のアイドル候補生なのだ。とりあえず、下はジーンズと、歩きやすいスニーカー。虫よけはスプレータイプのものとウェットティッシュタイプのもの、二種類を使用し、かつ持っていく。



 準備はこのくらいで……と扉を開ける。扉の向こうには、昨日約束を交わした二人は既にそろい踏みだ。そして、二人どころか、もう一人――旭姫がいた。



「夜なのにうるさい」



 まるで司狼を待ち構えていたかのように、仁王立ちである。



 その背後で眞白と空翔が「ごめん」のポーズをしているところを見ると、おそらく彼らがどたばたと準備しているところ、就寝の準備に入っていた旭姫に気づかれてしまったのだろう。



「……二人から聞いた」



 ぼそりとそう言って、旭姫は溜息をひとつ。



「一体何考えてるわけ? せっかくの合宿に、物見遊山で他人の情事を見学? 普通に考えてそんな暇ないでしょう? 眞白と……空翔ならともかく、司狼までそんなくだらないことに便乗するなんて思わなかった」



「くだらなくなんかない……です!」



 旭姫に答えたのは、司狼ではなく空翔だった。



「だって、同じユニットなんです。メンバーのことなら、全部、知っとかないとって思うから……!」



「全部? 他人の全部を知ることなんて、不可能でしょう?」



 それに、旭姫が考える「ユニット」とは、そんな風に仲良しこよしで済むものではなかった。



 「仲間」でも「友達」でも、『Nacht』の間柄を定義する言葉はたくさんあるだろう。けれど、その中でどれかひとつを選ばなければならないとしたら、旭姫は必ず「ビジネスパートナー」という言葉を選ぶ。



 結局のところ、商売にすぎないのだ。アイドル業なんて。



 自分達がまだ開催したことのない、観客を動員したライブだって、多くの人がかかわってくる。アイドルとファンの、一対一の対話じゃない。スケジュールを決める人、ライブをプロデュースする人、宣伝をする人、物販を担当する人――多くの人がかかわってくる。それと同時に、多くのお金が動いている。

 アイドル達は血眼になって歌やダンスのレッスンをする。ファンには愛と夢と希望を売り、「ユニット」を演出してくれた人達には利益を与える。そして、それが自分達の仕事になる。



 だから、仲良くなりたい、なんて、仲良くなるために全部を知りたい、なんて、笑い種もいいところだった。



「そもそも、恋愛なんてプライベート中のプライベートだよ。もし、空翔が『アイドルに恋愛はご法度だから』という意味合いで真実を突き止めたいというのなら、その気持ちは分からなくもない。でも、相手は夕と美琴だ。ユニットの二人同士なら、同業者の女性や一般人女性よりは秘密が守られやすいし、そういう仲の良さに喜ぶファンだっている。無理に暴いてやめさせるような関係じゃないはずだよ。分かったら、さっさと寝たら? 明日も早いし。司狼も、こんな子供達のワガママに付き合って保護者よろしく夜更かしすることはないよ」



 欠伸を噛み殺しながら、それだけを言い残して去ろうとしたところで、再び空翔が食ってかかる。



「確かに、俺の好奇心だけで、先輩二人のプライベートを覗き見なんて、していいことじゃないのかもしれない。でも、それでも、俺は……もう、蚊帳の外は嫌だって思う」



 旭姫は、あの日の空翔を思い出した。「兄弟」じゃなくなってから、二度目に出会った、熱に浮かされた空翔。



『俺……俺だけ……何も知らなかった……』

『兄さん、教えて……俺は、知りたいんだよ……』



 罪悪感が、あったのかもしれない。同情を、してしまったのかもしれない。あるいは、兄弟の絆など断ち切ったと思っていたのに、ふと「弟にねだられる兄」という立場を懐かしく思ってしまったのかもしれない。



「……だったら、勝手にすればいい。でも、僕もついていく」



「旭姫、無理はするな」



「無理なんてしてないよ。この二人が何かしでかした時に、司狼だけで止められるとは思えないから」



 もし、眞白と空翔が何かしでかし、さらにそこを美琴に見つかってしまい、司狼が美琴に売られた喧嘩を買ってしまったら、事態を収拾できる者は誰もいなくなる。いくらこの島では『魔力』を好き放題解放していいと言っても、全員が思うままに解き放ってしまえば、誰かに何らかの危害が及んでしまうような気さえする。



「ちょうど、そこの空翔が仲間はずれは嫌だってごねてたんだ。僕だけを仲間外れにする理由はないよね」



「みんな、一緒。……みんなで、夜の散歩」



「まあ、上辺の目的はそれでいいと思うが……」



 やはり、懐中電灯は二つ持ってきて正解だったと思う。一つは空翔に持たせて、もう一つは自分が持つ。空翔と旭姫を二人コンビにさせては色々と気まずいだろうという司狼の配慮の結果だ。



 夕も美琴も、何も森の奥深くに行こうというわけではないのだろう。気づかれたとしても、夜の散歩という目的を説明することにしよう。偶然、四人とも寝つけず、偶然、廊下で一緒になり、偶然、皆で星空を見ようという話になった。それでいい。

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