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ステージ上の魔法使い  作者: のりやす
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第7話 『星降る夜空に願うのは』 その4

 がむしゃらに掃除している内に夕方になってしまっていたので、『Nacht』のメンバーはそのまま夕食づくりに取り掛かる。主な調理はすべて司狼が行うので、旭姫は食材を洗ったり皿を用意したりちょこまかと動いている。眞白はといえば、味見係か、文字通り鍋を見ている「だけ」の係を担当していた。



 リーダーの負担だけが大きすぎるのかもしれないが、そこに文句をつける気など皆無だった。そもそも、チームの重みを背負ってこそのリーダーだ。責任は重大な分、成功した際にはそれ相応の栄光がついてくることを、司狼はよく知っている。



 問題は、チームメイト以外の、なんのメリットもない気に食わない奴に対してまで、自分の労力を提供しなければならないことだった。



「なんだかいい香りがするね~」



 扉を開けて、某OLドラマよろしく横並びになった『Bell Ciel』の三人が入って来た。何も言っていないのに、各々ちゃっかりと夕食の準備がされたテーブルに着く。



「おい、てめえ、何か言うことあるんじゃねえのか? 『わあ! 美味しそうな料理だね! 僕達も御相伴にあずかっていいのかい』ぐらい言えねえのか?」



 何とか言え、言ってみろ、と吠えたてる司狼に、美琴はしばし考える素振りを見せた後、口を開いた。



「んー……雑用係、ご苦労様?」



「ふざっけんな! 誰もてめえのためにやったわけじゃねえ! そもそも『ご苦労』は目下のもんに使う言葉だろうが!」



「……? おかしかことを言うね? どう考えたって『息子くん』の方が僕より格下だと思うけど」



 目下を格下という単語にすり替えるあたり、美琴は司狼をおちょくるコツを掴んできたのかもしれない。



「適当なこと言ってんじゃねえ! いつ俺がてめえなんぞの格下になったんだ!? 行ってみろよ!? 西暦何年何月何日何時何秒地球が何回まわったときだよ!?」



「……司狼、それじゃあただの小学生だから」



「すみません……私がちゃんとお手伝いできればよかったんですが……」



 夕の話を聞く限り、五分間のミーティングの後、『Bell Ciel』は本当に三人仲良くお昼寝タイムを漫喫していたらしい。



「俺が小学生ならてめえらは幼稚園児じゃねえか!? あぁ!?」



「もう、きゃんきゃん吠えて煩い犬だなあ……。空翔、大丈夫?」



「あ、俺は大丈夫です。船酔いもすっかりおさまりましたし、賑やかな食卓って、楽しいです」



「俺の話を聞けよ! ……だいたい、勝手に席についてはいるがこれはお前らの夕食だなんて俺は一言も――」



「そう? そのわりには、量が多いように見えるけど。もしかして『Nacht』のメンバー全員の三日分の食事を作ったのかな? でも、使われてる食材を見ると、僕達が持ってきたクーラーボックスに入ってた食材と同じものがあるね? 食材のチョイスまで被るほど僕達と君達はシンクロしてたのかな? だったらちょっと心外だよね」



 その美琴の言葉に、司狼は「うぐっ」と言葉をつまらせる。さっきまで吠えていたのが嘘みたいだ。



 コテージにも食材が置いてないわけではなかったが、どうやらほとんど缶詰など非常食ばかりで、それでは味気ないと感じ、それぞれのユニットが持ち込む形式が今回の合宿では取られていた。クーラーボックスやダンボールに詰めた食材は、玄関先で投げ出され放置されていた『Bell Ciel』の分まで司狼がキッチンにまで運び込んでいた。



 食材の選択基準が両ユニットでシンクロしていたかどうかは定かではないし、司狼以外は知る由もない。が、司狼が調理している食材の中には、明らかに『Nacht』であれば選びそうもない食材が入っていた。まず、旭姫と眞白は高級食材を持ってきていない。そして、司狼は魚より肉派なので、メインの食材に魚を持ってくるとは考え難い。



 つまり、おそらくは、司狼は『Bell Ciel』の食材まで使ってしまったことになる。



 普段のしっかりしている彼からは考え難い愚行である。



 おそらく、楽しくなってしまったのだ。家事のしすぎで。ランナーズハイのようなものだ。



 少なくとも、料理中のうきうきした司狼の顔を長年見てきた旭姫は、そう思っている。



「いずれにせよ、作りすぎで冷蔵庫にも入らないくらいなんだから、皆で食べちゃった方がいいでしょ?」



 取りなすように旭姫がそう言って、食卓につく。司狼をフォローすることしか考えていなかったせいか、奇しくもその席は空翔の正面だった。席に着いた途端嬉しそうに微笑まれてしまったので、ばつが悪い。



「……お腹空いた」



「では、眞白さんはこちらに」



 眞白と夕が向かい合わせに着席してしまったので、残るは――



「ああ、『息子くん』は僕の前に座らないで頑張って給仕してね?」



「てめえ……っ!」



「上手く給仕できたら、僕専属のシェフとして雇ってあげても……いや、まず履歴書に貼ってある顔写真がムカつくって理由で落としちゃうかもしれない」



「……嫌な雇い主だな、おい」



 言い合いすることにすら疲れてきたのか、司狼は皆の前に皿を置いていく。口では文句を言いつつも、彼は確実に他者に自分の料理を食べてもらうことが好きなタイプだ。



「これ、何……?」



 行儀悪くフォークで料理をつつきながら、眞白は目の前の夕に尋ねるが、夕も初めて見る料理だったのか、「さあ……」と首を傾げるばかりだった。



「……季節野菜のエチュベに帆立のポワレを添えたものだ。それは前菜で、魚料理はサーモンのマリネにキャロットラペの付け合わせ。メインは鹿とフォアグラとトリュフのパイ包み焼きだな。ソースはキノコとトリュフだ。テーブル中央にはバゲットとバターが置いてあるが、ライス派のために一応米も炊いたから要望があれば言え。それから、デザートにはグレープフルーツとジンジャーエールのゼリーを用意している」



「すごい……俺、こんなにお洒落な料理初めてです!」



「……司狼、いい加減、気分でフルコース作ろうとするのやめたら?」



「嬉しいなあ。僕、船内では夕の自家製ジンジャーエール飲めなくてがっかりしてたんだよね」



「別にてめえのために作ったわけじゃねえ! 眞白が気に入ってたのと夕が作ったジンジャーエールが余ってたから作っただけだ!



「これ、美味しい……」



「眞白さん、それ、たぶんメインだと思うので、まずは前菜から食してはいかがでしょう……?」



 口喧嘩が飛び交う食卓で、旭姫は苦笑いをしながら、空翔はにこにこと嬉しそうにそれぞれの皿に手をつけている。眞白はそんな二人の笑顔と食事の所作を見て「似てる」と呟いたが、夕は「気のせいですよ」と言っただけだった。


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