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ステージ上の魔法使い  作者: のりやす
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第7話 『星降る夜空に願うのは』 その2

 『Nacht』のメンバーは、ただぼんやりと旅行を楽しみにしていた眞白を除いて、実験に協力するついでに、思う存分『魔力』を解放して、完璧な写真集用のオフショットも撮影してやろうというつもりだった。特にメイキングやらオフショットやらは素人の技術でも問題ない。何よりアイドル本人が撮ったことで価値が出るものだから。



 現在のアイドルには、魔法を使用してライブをできる場所がない。そのため、ファンへの活動報告の主な拠点は雑誌掲載か写真集だ。人々は書店でそれを買い求めながら、いつか自分が魅了されるアイドルが、自分を観客席に座らせてくれることを夢見る。



 秋の終りに夏をイメージしたショットを撮影することになるが構わない。プロになれば真冬の日本海で凍えながらも笑顔で水着を来てソフトクリームを頬張ることだってあるだろう。それと比べたら、まだ冬が近づいている割にはあたたかい南の無人島での撮影の方がマシだ。



 そんなわけで、三日間、無駄にしている時間は微塵もない。



 それなのに、この様だ。一体どこから手をつけていいのやら。そう思うと、ついつい途方に暮れてしまい、時間だけが過ぎていく。



 島に到着したところまではよかった。特に遭難することも漂流することもなく、フィクション作品よろしくサバイバルを強要されることはなさそうだ。預けておいた荷物や三日分の食糧もスタッフが無事に届けてくれた。その後、彼らは『魔力』の暴走という危険性があるこの地から去り、三日後に迎えに来てくれるという。



 よって、あとはコテージで各々に荷物を整理した後、ユニット毎に合流して稽古だの実験だのに励めばいい。

――と、思っていたのだが。



「……ひどいな」



「……ひどいね」



「…………ひどい」



 各々が思うままに感想を呟いたが、見事なまでに一致した。



 名前も分からない草という草が太陽を浴びてすくすくと育ち、扉までの道を塞いでいる。壁に這っているものまである。窓ガラスは透明であった頃の名残などもはやなく、埃で薄汚れて内部の様子は予測不可能となっている。



 島は本島からかなり離れたところに位置している。管理者もこまめに来るのがめんどくさいのだろう。コテージは荒れ果てていると言っても過言ではないくらいのひどい有様だった。



 スタッフを呼び戻すべきだろうか。けれど彼らは先ほど帰っていったばかりで、掃除のために呼び戻すのも忍びなかった。



 司狼や旭姫はともかく、眞白にまともな掃除ができるとは思えない。いっそのこと、『Bell Ciel』のメンバーとも協力して六人がかりで掃除なり草むしりなりを開始してしまえば、早めにけりがつくのだろうか。



 司狼はちらりと『Bell Ciel』のリーダー、織田美琴に目配せをした。自分の意図が伝わればいいという気持ち半分、こんな奴に明確にアイコンタクトだけで自分の意図が伝わってしまうのも何か癪だという気持ちがもう半分。



 そして、司狼からアイコンタクトを送られた美琴はどうしていたかと言えば――。



 欠伸をしていた。



 司狼のことなどガン無視である。



「み、美琴さん……?」



 夕にとっても、美琴が人目を気にせず欠伸だなんて珍しいことだったのだろう。思わずといった表情で声をかけていた。



「今日は稽古の予定だったんだけどね……やめよう」



「え……っ?」



 おろおろする夕と、まだ船酔いによる体調不良が抜けきらずぐったりしており事態を呑み込めない空翔だった。



「僕はもう疲れたからね」



 そう言って、雑草の上を容赦なしにずかずか踏み込んでいく。顔には疲労を滲ませていたけれど、足取りだけはかろやかだった。草に遮られているとはいえ、目的地がすぐそこに見えているからかもしれない。



「船酔いでもしたのかよ。軟弱なお坊ちゃんは。でもいいのか? こんな埃まみれな部屋の埃まみれのベッドじゃ眠れないんじゃないか? 何しろ軟弱なお坊ちゃんだから」



 「軟弱なお坊ちゃん」という言葉をわざとらしく、二回も繰り返した司狼を美琴はじろりと睨んだ。



「何とでも言えば? 生憎、僕は君みたいに神経質な育ち方をしてないんでね。大らかなんだよ。それに、僕達の目標とする活動時間は今じゃない。夜だ」



 だから今は寝る、ということらしい。



 慣れない船旅で疲れている、というわけではないのだろう。何しろあの大企業の一人息子なのだ。豪華客船でゆく世界一周くらい、物心つかない頃から何度も経験していそうではある。



 となると、疲労の原因は、夕が言っていた「考え事」なのだろうか。彼がこの島の中で、一体どんなことを企んでいるのかは、まったく予想がつかなかった。夜空と共に撮影、紺碧の海と空の間に輝く魔法。そんなありきたりなものではないはずだ。



「空翔も、まだ船酔いの疲れでぐったりしてるし、部屋でゆっくり休むといいよ。夕は後で僕の部屋に来て。僕が寝る前に五分だけ、ちょっと話したいことがあるから」



 それだけを言い残して、美琴は扉を開け、室内へと消えていった。



 ちなみに、美琴が真っ先に、『Nacht』の誰にも告げることなく陣取った部屋は、一番日当たりの良いいわば特別な部屋で、それを知るや否や司狼が怒り狂ったのは言うまでもない。


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