†聖なる夜の御伽噺†
初投稿です!
今まで小説を色々読んできましたが、読み手ではなく書き手になりたいと思い投稿しました!
Dランクな書き手ですが最後まで読んでいただければ、幸いです。
それでは、物語の幕開けです♪
星空の見える空から、白く冷たい雪がしくしくと降っている。辺りは薄く雪が積もり白色の世界に顔色を変えている。
うっすらと積もっている雪をキラキラと照らしているイルミネーション、そのきらびやかな光にも負けないくらい、綺麗な星空。
その星空の中でも、一際大きく優しい光で世界を照らしている月光を放つ月。
その酷く優しげな光の下で多くの人々が、今か今かと待ちわびた今日と言う日に一喜一憂している。
お母さんの作ったご馳走を口一杯に頬張り、食後のケーキに思いを馳せる子ども。
受験勉強を一休みし家族の団欒に心を安らげる受験生。
店長にどうしてもと頼まれて仕方無くアルバイトに勤しむ学生。
彼氏彼女と町や家で二人の時間を楽しむカップル。
男友達や女友達で集まりばか騒ぎをする独り者たち。
仕事場で一人愚痴りながらも淋しく残業をする会社員。
子どもたちのケーキを買い急いで家族の下に帰るお父さん。
家族の笑顔を見て嬉しくなり自然と笑みを浮かべるお母さん。
一人すること無く小説を読む人。
色々な人がいて、色々な物語を紡いでいる。そんな中でも少し変わった物語。
一人の少女と、一人の会社員の“ふぇありーている”
§
とある町のとある広場。そこは、赤や黄、青等の綺麗な光を咲かせるイルミネーションに彩られた空間。
そのいつもとは違う空間にはちらほらと人の影がある。
都会ならばきっと見渡せば其処らかしこに、カップルやら親子やらがいるに違い無い空間には、仕事の帰りと思わせるスーツの上からコートを着ている男性や、コンビニから出てくる作業服を着たおじさん。
あまり、イルミネーションの意味が無い感じが多分に感じ取られる、少し残念な空間になってしまっている。
それでも、一組、二組程カップルが歩いては居るので、無意味と言う訳でも無い。
この鮮やかな光を咲かせる広場の真ん中に、一際目立つモミの木が植えられている。
円錐の形をしたモミの木は高さはおよそ7メートル程あり、幅が飾りの分も足すと直径1.5メートル程の大きさもある。
この木を囲うように大人が二人が座れる程の四つのベンチが置かれている。
そのベンチの四つある内の一つに少女とおぼしき女の子が足をぷらぷらさせながら、座っている。
「雪よ降れ♪雪よ降れ♪辺りを白く染め上げて雪はゆっくり降り積もる♪雪よ──」
少女の歌にのせた願いを聞き届けてたと言う訳では無いだろうが、ほんの少し木枯らしと共に雪が吹雪く。
イルミネーションの淡い光に照らされたそのぼた餅の様にぷくりと膨らんでいる雪は桜吹雪の様に鮮やかで、七色の光にその身を染めている。
少女の鼻先にちょこんと乗った雪は、少しして消えるように溶ける。少女はそれを嬉しそうに微笑み辺りを見回す。
すると、少女の座る反対の椅子に二人のカップルとおぼしき二人の男女が、座る。
少したわいも無い話をすると、急に男がそわそわし始めた。女の人も何かを察したかの様に、自分の髪をすいたりしている。
男が一つ咳払いをする。
「あの少し見てもらいたい物がある」
そう言うと男は上着の右ポケットから小さな四角い箱のような物を取りだし、女の人の前に持っていき箱をパカリと開く。
「僕と結婚してください」
その言葉と同時に中身を見せるように開いた箱の中には小さなリング状になった物の上に無色透明なリングよりも小さな綺麗な宝石──ダイヤモンドが嵌められていた。
「はい」
女の方はそう一言言うと、瞳から一滴たらし嬉しそうにもう一度 "はい!"っと言い、男と一言二言話したのち腕を組んで歩いて行った。
少女はそんな様子を盗み見るように──食い入るように見ていた。二人のカップルが夫婦になる瞬間を。
少女は祝福するよに笑みを浮かべると同時に、少し悲しそうな表情にもなった。
足をぷらぷらさせるのを止め今までのこと、これからのことを考え始める。
「会いたいよ...」
§
「はぁ、疲れた」
溜め息を吐きながら歩く、見た目は何のへんてつもない、スーツ姿の普通のサラリーマン。
ふと気づく。今日はクリスマスかっと。
イルミネーションは12月に入ったくらいからあるので、気づくのに少し遅れたが、サンタクロースのコスプレをした女の子がケーキを売るために一生懸命売り子をしていたため、そこで漸く気づいた。
(ケーキっか。久しぶり食べようかな)
「クリスマスケーキ如何ですかー!お子様に人気のキャラクターケーキもあります!クリスマスケーキ如何で──」
「クリスマスケーキ一つ貰えますか」
「ありがとうございます!どの種類のケーキをお求めになりますか?」
種類が多くて選び切れないな。
スポンジケーキ、ロールケーキ、タルト、シフォンケーキ、マフィン、それとプチフールだったかな?
この六種類の中から更にイチゴやチョコ、チーズと色々な種類があり、あまりに多いので選ぶことを諦める。
「オススメのケーキありますか?出来たら小さいのをお願いします」
流石に一人でクリスマスケーキワンホールは食べきれない。それに、店員さんのオススメならば、外れはあるまい。
「はい!でしたらこちらのプチフール、『苺とラズベリーのジュエリー』などは如何でしょうか?」
オススメされた『苺とラズベリーのジュエリー』と言うケーキは、横4㎝縦7㎝高さが4㎝程の大きさの長方形型のケーキ。上部には苺とラズベリーが隙間無くたっぷりと敷き詰められている。
「じゃあそれを二つお願いします」
「ありがとうございます!こちら二点で計700円になります──またのご来店お待ちしております!」
何となく買ったケーキを手にして、もう一度帰路に足わ向ける。
先程のケーキ屋さんから5分程歩いたところで、いつもは気にしない少し大きめのモミの木を見て足を止める。
モミの木を囲うようにして置かれているベンチの一つに足を揃えて──ぷらぷらし始めながらベンチに座る少女。
何故だろう、その少女を見た時頭にチリチリと電気が走るような感じがした。そして、少し懐かしく感じた。
少女の元まで少し早歩きで近付く。
「こんなところで何をしているの?お父さんやお母さんは一緒じゃないの?」
何をしているんだろう。自分に対して自問自答する。いつもならきっと、少女に気付かずにそのまま帰っただろう。 若しくは気付いたとしても、そのまま帰ったに違い無い。
多分今日がクリスマスだから、少し心が浮わついているのだろうと、そのへんにあたりをつける。
「え?夜君?」
「うん?あ、ごめん上手く聞こえなかったからもう一度言ってくれるかな?」
「・・・」
さて、どうしたものか。
質問をしたら、少女は少し驚いたように何かを口にしたが、上手く聞き取れなかった。
そして、沈黙。少々困る。
「う~ん。とりあえず、お家は何処かな?」
「・・・」
「じゃあ、誰か知ってる人の電話番号とかわかるかな?」
「・・・」
またしても沈黙。
駄目だ、何を聞いても俯いて返事がない──只の屍のようだ。
よくよく少女を見てみると、中々に調った綺麗な顔立ちをしていた。
黒い髪が肩口らへんで切り揃えられてをり、少し茶色がかった瞳、肌は酷く白い。
何故だろう、何処か懐かしいその顔を見ていると、心が疼く。
僕は、この子を知っている?
「貴方は、誰?」
色々と考えていたが少女の問いかけにより中断せざる終えなくなる。
「僕の名前は宿木白夜だよ。君の名前は?」
「私の名前?...音色」
う~ん、やっぱり知らない名前だな。
でも、やっぱり何か引っ掛かる、なんと言うか『音色ちゃん』と言うの違和感がある。
とりあえず、音色ちゃんに承諾を得て呼び捨てで呼ばして貰うことにした。
それより、何だかとても寒そうな服装だけど大丈夫かな?
「音色はその格好寒くない?何か羽織るものとか持ってる?」
音色は顔を横に振る。う~ん、またもや困った。流石に僕の着ているスーツの上着を被せるのは、犯罪臭がしてくるし。
「それじゃあ、ここで少し待ってて」
僕は音色の反応を見る前に、ここから見えているコンビニに足を向けた。
コンビニに入ると温かい空気に包まれた。
早速お目当てのものを探すべく辺りを見回す。入り口を入って右側が雑誌等が陳列されていて、左側にイートインと呼ばれるコーナーがある。さらに、正面を進んで行くと食品が置いてありその隣にホットドリンクが置いてある。
とりあえず、音色ちゃんの好みが分からないのでレモネード、ココア、お茶を買い物カゴに突っ込むことにする。
次に雑貨コーナーに移動しお目当てのブランケットをカゴに入れる。
僕はここで少し音色について考える。まず、どうして一人であんなところにいたのだろうか。それにあの格好は冬の格好とは思えない、どちらかと言えば春や秋に近いと思う。
そして何より、どうして僕はあの子に手を差しのべるような事をしているのだろうか。いつもなら無視していたに違い無い。
いや、多分何処か彼女を懐かしく思っているからだろう。
──色々と考えてみたが、何れも答えがでないので中断し、とりあえず、家計を済ませコンビニを後にする。
音色のいるモミの木に向かう。
「はいこれ、毛布と飲み物。飲み物は好きなのを選んでね」
「...ありがとう」
音色はボソリと感謝の言葉を述べ、ブランケットを体に巻きレモネードを選んだ。
僕は音色が選ばなかったココアとお茶から、ココアを選び音色の横隣に座る。
僕は冷めた手を温めるように、ココアを手の中で遊ぶように転がす。ココアが冷めては美味しくなるので、その一歩手前で缶の蓋を開け少し飲む。
冷えた体が内から温かくなるのを感じながら隣に座る音色を見ると、レモネードを手にしたまま飲まずにこっちを見ていた。
「飲まないのか?」
「...飲む」
何だかとても無口な子だな。そうだ──
「良かったら、ケーキ食べるか?」
「いいの?」
返事を返しつつケーキを取り出す。二つ入っている内の一つを自分で持ち、もう一つをケーキの入っていた箱を机が机にするようにして、音色に渡す。
「ありがとう」
たぶんこの子は僕が先に食べないと食べないだろうから、先にいただこう。
とりあえず、一口。ふむふむ結構美味しいな。スポンジはふわふわしていて何より苺とラズベリーの酸味が口の中一杯に広がって、うん中々僕の好みのケーキだな。
「...いただきます」
プラスチックのフォークで小さく切り取ると、その小さなお口にパクリと飲み込まれた。
美味しい、そう言いつつ二口、三口とフォークを進める音色。
僕もそれに合わさるように食べる。二人とも2分もかけずに食べきる。
「ごちそうさま」
「...ごちそうさま」
フォークや箱などを、ビニール袋に詰めて一纏めにしていると珍しく音色から喋りかけられた。
「白夜はどうして12月の24日、クリスマスイブに私とケーキを食べているの?」
「どうしって、特にすることも無いからかな?それに、女の子をこんな夜の町に一人置いておくわけにはいかないしね」
「家に帰っても家族はいないの?」
胸がチクリとした。
「うん、僕は今年から高校を卒業し会社勤めすることになったから、親元を離れようと思ってね。」
音色は僕に問う、“どうしてっと”僕は理由は分からないけど、ポロポロと自分の事を話し始めてしまった。もしかしたら、誰かに聞いてほしかったのかも知れない。
“少し時間かかるけど良いかな?”と前置きをしてから、僕について語り出す。
「僕は今両親との仲があまりよくないんだ。
保育園に通っていたときは、毎週の様に土曜日や日曜日に近くの公園に父さんや母さんと一緒に遊びに行ったりしていた。
小学低学年まではそんな感じで幸せだったよ。
でも、中学年ぐらいから徐々に家族との触れ合いは無くなってきて、高学年には夕食を食べる時くらいしか顔を会わせなくなってさ、中学に上がって益々会話が無くなったんだ。
部活動はテニスやってたんだけどさ、部活から帰ると家族は大抵仕事に行っててさ冷めた夕飯が置いてあるだよ。酷いときにはカップ麺が置いてあってさ。流石に寂しかった。
僕は小学生時から親を余り家族と感じなくなってきていた。そして家事を自分でするようになっていった。たぶん家族でもない人にしてほしく無かったんだろうな。
それで、高校進学するとき私立の特待生で入学しようと決めたんだ。幸い自分で言うのもあれだけど、頭は結構良かったから何とか入学出来たんだけどさ。で、それの理由が家族でもない人に迷惑をかけられないって言うね、滑稽だろ?結局俺は私立に入学し成績をトップを維持し続けることで在学費や授業料を免除して貰うことで親に迷惑をかけないようにしていた。
それとともなって親との距離はさらに広がっていて、週に一言二言交わすのが精々となっていた。
それで、僕は今まで育てて貰うのにかかったお金を借金の様に感じ始めていた。だから少しでも早く借金を返すために大学には進学せずに、就職することにした。勿論の様に何度も担任から考え直せと言われたけど、結局僕は就職した。
親の元から離れたくて、逃げるように独り暮らしを始めた。就職一年目ではお金が足りる訳もないが、それを見据えて僕は禁止されているアルバイトを先生と交渉し三年間していたのでそれなりのお金があるから、こうして独り暮らしをまだ続けられている。
とは言えお金に余裕があるわけでは無いから、一月に一万円仕送りするのが限界な理由だけど今も送っている。
つまり、僕は親を家族と思えないから親元を離れて一人だから帰ってもすることがない。だから、音色といるのかな?」
何故だろう、ここまで自分の事を話したことは先生は勿論友達にも話したことは無かった。
不思議な少女だな。結局最後まで一言も発さずに全て聞いてくれた。それのお陰か、胸につっかえていたものが取れたような気分だ。
「夜それはとても辛いこと何だよ?だから我慢せずに泣いても良いんだよ。夜が今まで頑張ってきたことを私が知った、私が知っている。よく頑張ったね」
音色は頬に幾つもの光の滴を流しながら、優しい声色で微笑みながら、僕と言う存在を認めてくれた。
気が付くと自分の頬にも涙が溢れ出ていることに気が付くと。
「どうして、僕は──」
そっと僕の頭を包み込むように音色は優しく包み込む。
「夜、よく頑張ったね。辛かったね」
僕は抑えて嗚咽を抑えきれずに、吐き出し始める。
音色はそんな僕の頭を優しく撫でながら、“大丈夫”っと何度も言い聞かせるように語りかけてくれる。
優しく撫でてくれるその小さな手は、とても大きく温かく感じた。
それから、数分がたった今。音色は僕の隣に座り直している。僕は少女に慰められたり、大人になりながら嗚咽を垂れ流した事とても恥ずかしく、穴があったら入りたい気分だ。
「夜、もう大丈夫?」
「うん、ありがとうね音色」
あれ、音色? いや、そんなことよりどうして|白夜《、、、
》ではなく夜なのだ?
頭にチリチリと電気が流れる様に痛みが走る。でも、それでも考えずには居られない、目の前で僕を夜と呼ぶ少女の事を。
そして今度は強く痛みが走る。そして思い出す。
そうだ、その名で僕を呼ぶのは──
「──色音?」
「うん、そうだよ。久しぶりだね、夜君」
嫌可笑しいじゃないか、僕は彼女と同い年のはず。いや、それより彼女は確か...あれ?どうして僕は彼女のあの出来事について忘れていたんだ?
何故僕は彼女の事を忘れていたんだ。
確かあの日は──
§
「待ってよ、色音ちゃん」
「早く来なさいよ夜」
僕たちは町の北側にある公園で遊んでいた。遊具がブランコ、滑り台、小さな鉄棒が一つの小さな公園。夕陽がやけに目に入り込んで来た。
僕たちは白と黒のシマシマな猫を探していた。
「見つけた?」
「うんうん、いない。それより、そろそろ帰ろうよ色音ちゃん」
「なに言ってるの?まだ見つけてないでしょ?見つけたら帰る約束でしょ?」
「うん、あっ、あっち!滑り台の下!」
「オッケー、待て~!」
白黒の猫は逃げる。僕たちは追いかける。少しして僕たちはまた見失った。
「捕まらないね。もう帰ろっか?」
「うん、あっ猫がカラスに襲われてる!」
僕たちは直ぐに猫の元まで駆けつける。すると、カラス達は鳴きながら飛び立っていた。猫はカラスに引っ掻かれた傷やつつかれた傷が幾つもあった。
猫は脱兎の如く走り逃げて行った。
僕たちはもう一度逃げて行った白黒猫を追う気にはなれずに、僕たちは少し立ち尽くしていた。
「夜、帰ろ」
「うん」
僕たちは二人で公園を出ようと歩きだした。丁度公園の出口、道路の一歩手前くらいで僕たちは襲撃を受けた。さっき追い払ったカラスだった。
僕は色音を救おうと、前に出るが当然のようにカラス達は僕を色音の下まで行かせてはくれなかった。
僕はその時に頭を嘴で、左腕を爪で傷つけられた。それでも僕は色音の所に行こうと懸命に足を進めるがやはり届かない。
「たすけて、夜」
「今、今行くから!」
色音は“たすけて”と何度も言いながら、前も後ろも分からない状態で足を踏み出してしまった。
トラックのプーと言うクラクションの音。トラックと色音がぶつかり鳴る、鳴ってはならない音。自分の頬にも飛んできた、赤い液。
自分の世界から色々の物が消え始めた。世界の色が褪せて行き、肌を撫でる風の感覚が遠退き、民家から集まる野次馬の喧騒も耳に届かなくなった。
残ったのはやけに耳に響くカラスの鳴き声と、赤い夕陽の光のみ。
気が付いたらベットの上だった。その傍らには母と父が目に涙を浮かべ立っていた。
どうやら、公園の近くの十年病院に運ばれたらしい。
まだ意識がはっきりしていない。たがそれも徐々に回復していく。
「...色音。色音は?」
「僕はすがるように、願うように、尋ねた。」
二人とも目を合わせてくれない。仕方なく、自分で言うのも確認に行こうとすると、思うように体が動かなかった。
これは後から聞いた話だが、頭に受けた傷が思っていた以上に危険なものだったらしく、命に別条が無かったの奇跡だったらしい。それほどのダメージを頭に受けたのだから、しばらくの間動けないのも仕方がない。
それでも、あの頃の僕がそんなことを知るはずもなく、知っていたとしても間違いなく答を見つけようとしたに違いないが、動かない体を無理矢理動かそうと試みる。
それを見かねた父さんが僕に言った。
「命に別条は無い。が、2度と目を醒まさないかも知れないと」
僕はそこでまた意識を閉ざした。そらから、数日が経ち、僕は退院した。
そして僕は色音の事を忘れようとした。僕はそらから人と余り喋らなくなった。親が公園に遊びに誘っても、一人部屋の中でいた。
「さようなら色音」
§
思い出した、何もかも。
そうかあの時僕は色音を救えなかったのか。それに、僕は親から愛を受けてないと思い違いをしていたが、違ったんだな。僕が拒んだんだ。僕は自分を騙すことによって、偽りを真実と勝手にすり替えてしまっていたのか。
父さん、母さんごめんなさい。何より色音──
「...思い出したよ色音、僕は君を救えなかったんだね。ごめん」
「そっか、思い出したか。別に謝らなくて良いよ。
私は二年ほど前に目が醒めた。その時はお医者さんは奇跡と謳い、私に優しくしてくれた。お母さんやお父さんも優しくしてくれた。
でも、私の精神年齢はあの頃のままだった。それでも何とか勉強して同年代の子達と同じくらいの精神年齢まで取り戻した。
でも私は事故の傷が完全に癒えた訳では無く、一日の大半を寝て過ごした。一ヶ月、半年、一年、段々と皆の私を見る目が優しい目から、痛々しいものを見るような憐れみの目に変わり、今では厄介者を見るような憎らしげな目に変わった。
そんな中私に優しく接し続けてくれた人がいた、名前は幸子さん。この人だけは私の味方だった。
だから、私は堪えることができた。君に伝えなくてはならないこともこうして伝えられる。
最期に君に、夜に会えて良かった。
ありがとう。
この言葉が言えたからもう充分だよ。」
彼女は涙を流しながら、そう言い言い切った。
「充分なもんかよ!お前はやりたいこと全部やったのかよ!」
「そんなの...そんなのまだまだ一杯あるに決まってんじゃん!私は夜と一緒に遊びたい。一緒の学校にも通いたかった。私が作ったお弁当を食べて貰いたかった。春にはお花見して、夏には海に出掛けて、秋には文化祭とかで馬鹿やって、冬には一緒にスキーしたりして...一緒に居たかった!
何より『夜のお嫁さん』になりたかった!」
「だったら、生きろよ!何諦めたような事口にしてんだよ。
学校はもう卒業しちまったから無理だけどさ、春、夏、秋、冬色々出来るだろ!弁当だって作ってくれよ!
何より『俺の嫁に』なってくれよ!」
「無理だよ、今のは私は思念体でもう残りの命は多分後一時間も無い。
だから、お願い。最後は笑って別れようよ」
「だから、死ぬな!俺はお前と一緒に生きていたい。だから勝手に死ぬな!それに、お前。どうやって笑うんだよ。お前今涙で顔グチャグチャだぜ?
だからさ、もう一回聞く俺のお嫁さんになってくれ」
「...はい。」
僕は彼女の言葉を聞いた瞬間に駆け出した。きっと色音は今驚いていることだろう。でも今は、一分一秒がおしい。
だから僕は走る。全力で走る。
ひさしぶりだ。こんなに全力で走るのは、いつからだろう全力をやめたのは、いやわかっているそんなのはあの時からだ。
大の大人がスーツ姿で全力疾走とか周りから見たら、多分滑稽何だろうな。それでも、やめられない。いくら足に乳酸が溜まり脳に限界だと言う信号が送られようとも、肺に空気が足りなく立ち止まって深呼吸をしたくとも止まらない。
色音が待っているから。
それに、久しぶりの全力疾走...悪く無い気分だ。むしろ気持ちが良い。
走り始めて十分程だった。
時刻は21時52分確実に病院は開いていないだろ。それでも走る。
とうとう、公園の隣を抜け病院へと辿り着いた。
いつも入る入り口は当然開いていないだろうと予測し、最初から緊急受付方にまわる。
受付のインターホンを押す。
「はい、何か御用ですか?」
「ここに入院している、色音の所まで行かせてください!」
ストレートに頼んでみるが当然のように断られる。それでも、色音のために諦める訳にはいかない。
暫くお願いしていたら、緊急入り口の所まで警備員さんがやって来た。
「今日はもう面会時間はとうに過ぎてるから、帰ってくんな。明日の朝十時頃──」
「それじゃあ、間に合わない!」
僕はその場で膝を折り、腰を曲げ、手を地につけ、額を擦り付けながら“お願いします”と願う。
「いや、だからこっちも規則で──」
「お願いします。」
「いい加減にしてくれ、これ以上は警察を呼ぶよ」
色音、ごめん。ごめん。僕はなんの力も無いから、守ることも傍に居ることも出来ない。ごめん。
「何をしてるんですか?」
突然扉の向こうから、警備員ではない声が聞こえた。すがるように前を向くとおばさんが警備員と話していた。胸に平仮名で『さちこ』と書いてあるおばさんだった。
一類の望みを託して、僕は乞う。
「お願いします。色音に会わせてください。」
「あんた、彼女の知り合いかい。...通してやんな。」
「いや、しかし──」
「黙りな、あんた私に仮があるだろ。それに、もし問題が起きたら私に脅されたことにすれば良い。それが嫌なら私はあの事を全てばらすよ」
「わ、わかった。おいあんた、早く行ってくんな」
「ありがとうございます」
僕は一つ頭を下げて中には入った。
色音の事を病室は幸子さんが案内してくれた。
「ここを真っ直ぐ行ったところの突き当たりにある、602号室の部屋だよ。今彼女の部屋の鍵は開いてる、騒ぐんじゃないよ。でも急ぎな」
僕は幸子さんに礼を言いながら、出来るだけ音をたてずにはしった。
ものの数秒で目的の部屋の前に出るがたどり着く。少し緊張しながら、右手の中指でノックをして入る。
僕は部屋に入った瞬間息をつまらさた。そこには、月の優しい光、一lxにも満たない光を浴びながら上半身を起こし、外を眺める色音が居た。
僕の記憶に残る色音の面影は確かにあるが、それでも余りに綺麗すぎてびっくりしてしまった。
「色音」
ゆっくりと、色音はこっちを見る。
「夜」
互いに自分達の名前を呼び会う。色音の口から吐かれる言葉はとても弱々しいが、確かに僕の耳に届いた。
僕はゆっくりと一歩一歩を噛み締めるように歩き、とうとう色音の下にまでたどり着く。
僕はここに来て色音に何と声をかければ良いのか、分からない。でも──
「お帰り、色音。
そして、ただいま」
何を言えば良いのか分からなかったが、それでも自然と言葉が出た。
「うん、ただいま。
そして、お帰り、夜」
僕と色音は少しずつ額を近づけ合い、互いを確かめるように触れるだけの優しいキスをする。
額を着けたまま色音の目を除き込む。
「まだまだ、色音には伝えなくちゃいけないことがあるけど、もう一度聞かせてくれないか?
君を愛してる、僕と結婚してください。」
「私も...私も愛してる、結婚、しましょう」
色音は泣きながらも最後まで僕に伝えてくれた。だから、もう今日は終わりにしよう。
「うん、ありがとう。今日はもうお休み」
もう一度触れるだけのキスをして、色音を寝かせる。
そして僕は病室を、病院を後にした。
今僕は公園のブランコに乗っている。
「色音、けじめをつけなきゃな」
僕はスマフォを取り出して、元自宅に電話をかける。
プルルルル、プルルルル、プルルルル
三度程コールする音が聞えた後に母さんの声が聞こえた。
「もしもし、宿木ですが?」
「あ、母さん。僕白夜だよ。その、元気にしてる?」
「なぁに、急に電話なんてしてきて。何かあったの?」
「いや、何も無いんだけど何となく声が聞きたくなって」
「そう、変な子ね。それより体は大丈夫?風邪引いてない?上司との関係はうまく行ってる?ちゃんと毎日しっかり寝れてる?他にも──」
あぁ、やっぱり僕が拒んでいただけだったんだね。母さんは僕の事しっかり見ててくれてたんだ。
ごめんなさい、母さん。
「──たまには家に顔を出しなさい。父さんも母さんも心配してるんだから」
「うん、大丈夫だよ母さん。じゃあ、お正月に行っても良いかな?」
「ごめんなさい、その日は仕事が。あっちょっと待って。(馬鹿もん、白夜が帰ってくるんだ仕事なんて休め。電話変われ)
父さんだ白夜。お正月休みだから気にせずに帰って来い。それと、いつでも帰ってきても構わないからな。一々許可なんていらん。それだけだ。メリークリスマス」
父さん全部聞こえてたよ。わざわざ僕のために休みまでとってくれて、やっぱり家族だったんだな。
ごめんなさい父さん。ありがとう。
「うん、ありがとう、お休み。メリークリスマス」
「お休み」
色音僕は想像以上の大馬鹿者だったらしい。
でも、いまはそれも良いかなと思うよう。
§
~一年後~
僕はまたあのモミの木の所まで来ている。今度はスーツではなくてだ。
僕はモミの木の下に足を進める。
「メリークリスマス。色音」
「もう、遅いよ。メリークリスマス夜」
僕たちは一言二言喋る。
僕はおもむろにポケットに入っている四角い箱を色音の前にだす。
そして、パカリと箱を開ける。そこには小さなリングとリングよりも小さい無色透明な宝石──ダイヤモンドが嵌め込まれている。
「結婚してください。」
僕は問う。
「はい。」
彼女は答える。
「これからもよろしく色音──」
~Fin~
どうでしたでしょうか?
誤字脱字や、この文可笑しくない?
色々とあると思いますが、初投稿と言うことでお許しを!
読んでくださりありがとうございました。
良いお年を♪