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第04話 男装少女の初めての冒険 Ⅱ

「これで最後っと」

 

 喉に食らいつかんと言わんばかりに飛びかかってきた野犬を、ギフトのによって一歩横にずれて躱し双剣を叩きこむ。2匹で奇襲を仕掛けてきた犬型の魔物は、既に1体が光となって消えており、2体目もたった今光となって消えていった。

 

 戦闘時間は3分ほど。1人の為に上手く動きを誘導し、カウンターで攻撃するしか無い。回復手段が限られている以上、無理に攻めて倒すことは出来てもダメージを受けすぎるわけにはいかなないのだ。


 体が重く、疲労感を感じポーションを飲む。HPバーは無く疲労感でのみ知ることが出来るためどれほど回復したかは分からないが、疲労感の大半が消えていった。

 

「あぁー疲れたぁー!」




 結果から言えば森に行く決断は大成功だった。レベルは既に2つ上がって3になっていて、双剣のギフトも5まで上がっている。

 出てきた魔物は犬型と植物形の2種類だけで、どちらもある意味では相性がいい。

 手に入れた素材からそれぞれの魔物の名前も知ることが出来た。犬型の魔物はシルワストース、植物形の魔物はトレントと言うらしい。

 

 シルワストースはゴブリンよりも早かったが、攻撃方法が木々に隠れながらの突進での奇襲。つまり木々に囲まれたこのエリアに置いて後衛が直接狙ってくるという嫌らしい魔物だ。しかし1人で探索している私にとっては、誰かを守る必要もないので回避行動は安易になる。じいちゃんに鍛えられた自前の気配察知は突進される直前に察し、それを避けて双剣を構えることが出来るのだ。

 

 トレントはゆっくりとだが移動可能な木の様な魔物で、攻撃方法は柔軟性のある妙な枝を振るって殴って来るといったものだった。双剣での相性は良くないが、移動速度は遅いために1人と言うこともあって戦闘を回避している。こちらはあまり数がいないため、木々に紛れての罠としての役割が強いのだろう。即座に逃走しようとしていても、1撃入れられることは珍しくない。

 

 レベル上げで1番大切なことは、瞬間的な戦力ではなく継戦能力だと私は考えている。森での狩りを始めて既に3時間が経過した今でも、初期資金で買ったポーションは半分程残っているという点でこの狩場の相性の良さが分かるだろう。

 

「はぁ、結構長く狩って目標資金の半分とか鬼畜すぎないかな。手に入った素材を売ればある程度の儲けにはなるんだろうけど」


 全然終わる気がしない、なんて思って憂鬱になってくる。

 あまり大きくない一本の道と、その両脇を囲むように何百本も生えている木々に辟易する。1人でも魔物を倒せている以上このままでもいずれ貯まるけれど、せめてもう1人仲間がいれば──なんて今更過ぎることを考えて先に進む。


 有り体に言えば、延々と同じような景色で飽きてきたのだ。

 話し相手が欲しい、切実に。

 

 死に戻りはお金と素材が無駄になるが、しかし歩いて戻れるかも分からない。いい狩場と言うことで色々と彷徨ったせいで、絶賛迷子中なのだ。

 このゲームは素晴らしい事に、マップ機能は町でエリア毎の地図を買わなければ使えない。仮にあったとしても現在地を知ることは出来ない、文字通りの地図なので使い勝手は悪いのだがここまで迷うことは無かっただろう。

 

 長時間1人で気を張って周囲を警戒し、時折の襲撃がある度に肉体(システム)的ではなく精神的な疲労が蓄積していく。パーティーであればローテーションで休憩できるだろうが、ソロである私は泉と呼ばれる安全圏を探す必要があった。ログアウトや一時的な休憩が出来る、魔物が近寄らない場所だ。

 

「はぁ、奥に来すぎたかな。数が多い」

 

 思わず溜め息を吐く。右手前方、2時の方角から枝を踏み折る音が聞こえた。多分3匹。既に何十回と繰り返したおかげかスムーズに双剣は両手に収まり、自然と待ちの姿勢になる。深呼吸をし、無理やり精神を落ち着かせた。

 

 そして思考の半分で迫り来る脅威を感じ警戒しながらも、もう半分で理想となる動きを想像する。度重なる戦闘によって少しずつ、しかし確実に洗練されてきたそのイメージは、既にシルワストールを一撃で屠るまでになっていた。


「3……2……1……いまっ!」


 近づく気配に小声でタイミングを数え、想像を開放する。こうなればいいと言う願い。

 それに導かれた私の体は、力を入れていないと感じているのに関わらずに意識を伴わず動きだした。

 

 膝と足首を使って滑るように左に半歩だけ移動する。それと同時に右手を下げ、首元に食らいつこと跳躍したシルワストールがその上を通過すると同時に振り上げた。腹へと突き刺さった剣は、シルワストールの速度も相まって高いダメージを与えた。


 柔らかい何かに突き刺さる感覚を感じると同時に、その反動を利用して踊るように一回転して後の2匹から距離を取る。それと同時に手首をスナップを効かせて、刺した野犬を私の足元になるであろう場所に投げ捨てるように放った。

 

「首を狙ったんだけど外しちゃったか」


 首への一撃(クリティカル)が決まれば、シルワストール程度の動物型の魔物であれば即死させたが失敗してしまった。足場が不安定になるが好機を逃すのも嫌なので、足元に転がっているシルワストールが起き上がらないように首を狙って踏みつける。眼前でこちらを睨む2匹のシルワストールはこちらを睨めつけながらも、一撃でやられた仲間を見て警戒したのか攻撃してくる気配がない。


 10秒程のにらみ合いの後、踏まれ続けた1匹は青い光に包まれて消えていった。

 

「まずは1匹」


 通常の剣技は隠しステータスであるスタミナや魔力を使うが、ギフトは3分間のCD(時間経過で再使用)方式だ。つまり出来るだけ時間を稼ぐか独力で倒す必要がある。

 

 基本的に連携しないシルワストールは、焦れた片方が突出して攻撃してきた。下手に突っ込むと最初の1匹のような攻撃を警戒したのか、急な加速で足に噛みつこうとしてくる。焦らずに蹴りあげ、軽く宙に浮いたところを斬りつける。

 

──浅い


 追撃をしようと1歩踏み込むもうとすると、視界の端にはいつの間にか近寄ってきていたシルワストールが映った。既に跳躍を終え目の前に迫っている。既に回避できる距離ではない、そう即座に判断し左腕で顔をガードすることであえて噛ませた。


 そして全力で左腕を振り、噛み付いていたシルワストールを地面に叩きつける。間髪をいれずに踏みつけ、グサグサと刺した。

 3度ほどで青い光に包まれてそのシルワストールが消え、前に飛ばした最後の一匹機の方に向き直る。既に体勢を立て直しこちらへと走り寄って来ていた。


 左腕を噛まれたせいか、痛みで動かしにくい。数十秒で直るが、この戦闘中は難しいだろう。

 

 判断は一瞬。

 

 左手の剣を投擲した。左手が痺れているため無理やり肩と腰を使って投げられた剣は、当たらなかったが牽制となりシルワストールは怯んで速度を落とす。


 その隙に、一息で近づき右手の剣を叩き込んだ。最後の野犬は宙へと浮き、そして青い光に包まれて消えていった。

 再び森の音が戻ってくる。

 

「ふぅ、意外とスキルを使わなくても勝てるもんだね。疲れたし泉を見つけないと」


 投げた剣を拾って腰の剣帯へとしまう。左腕の痛みは無くなったが、HPを削られたのだろう。体がとても重く、倦怠感を感じた。

 

「あと1戦ぐらいいけるかな? ってレベル上がったか……HP回復してくれればいいのに」


 帰りの分を考えると使うことが出来ない。過剰な回復はポーションの無駄になってしまうからだ。時間経過でもある程度回復はするため、気だるさを無視して歩き出す。目指すはログアウト可能ポイントである泉だ。

 

 実物を見たことはないが、エリアに最低1箇所は存在する大きな水盆の様なものらしい。周囲にはオブジェクト(木々)も無いということなので、森のなかでは非常に目立つだろう。

 そう思って改めて周囲を見渡すと、強い違和感を覚えた。

 

 少し前までいたのは、町に近いためか管理された森のようなエリアだったはずだ。

 決して秘境のような、鬱蒼と木々が生い茂った場所ではない。

 

「……え?」


 周囲の木々の幹もいつの間にか太くなり、1本1本が樹齢数百年と呼ばれるであろうほどになっている。道も先程はそれなりにしっかりとした道があったが、いつのまにかそれも細くなっていた。獣道とまでは行かずとも、人が2人横になって歩けば道が塞がる程度には細い道だ。鳥の鳴き声や梢の鳴る音も聞こえなくなっている。


 周囲を改めて観察すれば、少し前までとの違いが明瞭に感じられた。

 

 いくら疲れてたといえど、ここまで大幅に景色が変わったら気が付かないはずがない。だが、道が曲がりくねっているため遠くまでは見えないが、背後でも同じような光景が広がっていた。

 

「隠しエリア……って事なのかな?」


 メニューを開くと確認できる情報の1つに『現在位置の名称』と『難易度』が存在する。これはどんな場所でも表示され、町中の場合でも難易度は0と表示されるのだ。しかしこの場所はその法則が当てはまらなかった。

 

 『現在地:風の集う場所』『難易度:?』

 

 百歩譲って風の集う場所はいい。地名じゃないだろ、と思うがスルーしよう。だが、難易度不明とはなんなのか。難易度は戦闘職が6人パーティーで挑み、そのエリアのボスを撃破出来るであろうレベルが基準となって5レベル毎に区分されている。


 パーティーの人数が多くなる程魔物が寄って来やすくなり、リンク──魔物とエンカウントした際、周囲の魔物を呼び寄せたり近くに魔物がPOPする(湧き出る)現象が起こる確率が増えるのだが、それでも最大数の6人が最も簡単だと公式が発表していた。


 つまり人数によらずある程度魔物の強さは調整されているのだ。高難度になるほど差が大きくなりパーティーは必須になるだろうが、パーティー未結成だからと言って難易度が表示されないと言う事は起こらない。

 

「最高難度とかそう言うノリなのかな? 遊びやすくする為の物なのに演出の為とは言えそんな事しないと思うんだけど」


 つまり言葉通りに受け取るべきなのか? 難易度が『?』、つまり変数──

 

 そこまで考えた時、唐突に何かが爆発する音、そして大木が倒れるような音が聞こえた。それは音がなかったこの場所で、とても大きく響く。

 

「誰か居るのか?」


 音源の方へと静かに走って近づく。もし良い人そうな人達ならパーティーに入れてくれないかな、という考えだった。

 明らかに怪しい難易度不明のマップ、人数が多ければ多い程心強い。

 

 30秒ほど走って音の場所に近づくと、いきなり視界が広がった。大きな広場に出たのだ。

 奥には祭壇の様なものが見え、広場の周りの木々の大半は激しく燃え盛っている。何本かの木は倒れ、山火事のようなありさまだった。

 

 広場の中央では私よりも大きい、3メートル程の大きな狼が、その獲物である小さな人影に向かってゆっくりと近づいていた。


 髪が長く小柄で少女であることが察せられる。その人が着ているローブは既にボロボロになっていて、近くにはその人の武器であろう杖が転がっていた。自分の倍以上の大きさの狼に迫られ、発動体である杖を失い抵抗する手段がない彼女は、恐怖に引きつった顔で泣いているように見える。


 起き上がるという考えも浮かばないのか、腰を地につけた状態で手足を使って後ずさるだけだ。

 

「あのローブ、魔法系の初期装備だよね。ってことはプレイヤーか……見捨てたら後味悪そうだし行くしか無いか」


 腰にぶら下げた双剣2本、たったそれだけで自分よりも大きく強そうな狼に挑む。


「あぁ……怖いなぁ。本当に怖い」

 

 しかもそれが、泣いている女の子のためだというから驚きだ。明らかに格上で、出て行っても何も出来ずに殺される可能性が高いだろう。何より徹底的にリアルなゲームなのだ。痛みは少なくとも、それはとても恐ろしいに違いない。

 

 現実でもし、暴漢に襲われる見ず知らずの少女を見つけても通報して終わりだろう。しかも今はゲーム、死んだとしても復活するのだ。別に放置すればいい、私は唯の人見知りの女子高生なのだ。何かしらの問題があっても、他の人が上手くやる。

 だから──

 

「大丈夫、何も問題ない。()がやるんだ、上手くいく」


 女の子が泣いている、それを許せないと感じてしまう。助けたいと思ってしまう。

 もう、見て見ぬふりは出来ないのだ。それが、自分という存在なのだから。

 

「それが僕だ、私じゃない」


 知らずの内に口角が上がり、笑っていたことを実感する。恐怖による震えは止まり、武者震いに変わっていた。

 強くて正義感のある仮面を被る。私は一歩、広場へと踏み出した。






名前 ユウ

レベル 4

ギフト 《双剣 Lv.5》

スキル 《鑑定Ⅰ》

書き溜めがなくなってきたので毎日更新はそろそろ打ち止めです。

5000字ぐらい余裕だろって思ってた時期がありました……。

高頻度で更新している他の方に感心する事しきりにです。

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