月のあの子
「キレイ」
ぽっかりと夜空に浮かぶ、月に向かって呟いた。
黒色と青色の絵の具を混ぜたような空に、白色と黄色の絵の具を混ぜたような月。
ほぼ毎日見れる景色。なんだか偽物みたい。
「いいわね。……羨ましい」
月は、きれいだ。
花鳥風月とも言われるし、月とスッポンと例えられたりもする。
……月に勝とうだなんて、恐れ多い。
けれど、言ってしまったのだ。彼に。
『月よりも、私の方がキレイになったら……私と、付き合って』
ある種の賭だった。
月に勝てるはずがない。そんなこと、分かってる。
所詮は花火のように、一度きりで散っていくしかない私。
……だから、少しの可能性に賭けてみようと思った。
「一夜の夢でいいから……見せてよ」
花火のような私だもの。見る夢は、散る前の一夜限りでいいわ。だって……、ねぇ。夢が見られるだけ、幸せだと思わない?
どうせ、散るなら潔く散りたい。
……月に勝ったって、意味がないこと、分かってる。
ただ、私は。それでも、月のように輝いているあの子に勝ちたかっただけ。
『あなたは月。私は花火。そうでしょう…?
私とあなたは違うけれど、おバカな所は似てるのね』
彼の葬式で、あの子にぶつけた言葉だ。
自分への皮肉でもあった。もう振り向いてもらえない彼。勝敗を決める前に勝手に死んでしまった彼。
『……それ、どういう意味よ』
涙をためつつも、反抗的なあの子の目には月があった。その中に輝きはなくて。
『バカでしょう。つれない彼に、恋をして……』
あの子には常に、輝きを分けてくれる誰かがいる。私みたいに、自分だけで輝かないで済む。
こんな所にも、月と花火の特徴はあるのだ。本当に、どこまでも皮肉的。
「もう、いいわよ。独りでも……」
もう、見られない夢など望まない。
私は、ソコから飛び降りた。
ミニシリーズするかもです。