第一節第一話 消えかかった炎に救済の油(みず)を垂らす
困った。非常に困った。普段から任務遂行をし、完了させるはずの私が、最近はどんどん勝利から見放されている。どういうことなのか。まったくわからない。なぜ、作戦が上手くいかないのだ。
私は人気の少ない通路の壁に拳をぶつけ悩んでいた。
「ねぇ、フランメ。また作戦失敗したんだってねぇ~?」
私が悩んでいた時だった。私をムカつかせるように質問をしてくる人物がいたのだ。
名前はヴァッサー。幼い時から一緒に過ごしてきた女性だ。幼馴染というやつだ。この女性は、一見人柄がよさそうに見えるが、実はかなりウザい。だから私はコイツが嫌いだ。
私に尋ねてきたヴァッサーは、どうやら任務を終えて帰ってきたようだ。その証拠に、今の彼女は水色のマントを幹部用の黒いスーツの上に纏っている。彼女が任務中の時はだいたいマントを纏っている。彼女のマントは、一つの武器のような存在だ。普通のマントに見えるが、マントそのものは百パーセント水でできているようなもの。だから彼女の武器と言っても間違いではない。ちなみに彼女の能力は、水を自由自在に操るという能力。
一方、私の能力は左手を焼け焦げた悪魔の手に変え、炎を纏い攻撃するという能力だ。だが、この悪魔の手はまだ私に馴染んでない。だから任務が完了するときはあまりないのだ。能力についての話はここまでにしよう。
「……ああ、そうだ。失敗したが、それが何か?」
私はヴァッサーに若干キレながら、質問返しをしてやった。だが、ヴァッサーはすぐに私の嘘を見抜いた。
「ふふん。今、アナタ怒ってるように見せかけたけど、本当は誰かに甘えながら悩みを解消したい。そう思ってるわね?」
俺はヴァッサーの言葉にイライラしたため、考えるより先に手が出た。そのため、今は彼女のワイシャツごと胸倉をつかんだ。
「ふざけるな。次、そのような事をいえば君を燃やし消す」
「そんなことできるのかしらぁ? アナタのその今にも消え死んでしまいそうな炎で」
彼女はそういうと瞬時に胸倉をつかんでいた私の手を払った。
「そんなに怒らなくても、ちゃんとアナタの悩みを聞いてあげるわ」
「いや、いい。悩んでもない」
「へぇ、ならそう。いいわ、だったら今度の集会の時に皆にバラしてあげる。アナタが私に強姦したことをね?」
始まった。毎回のように嘘八百のことをメンバーに言う彼女のしぐさ。私は彼女のしぐさで一番嫌いなのはこれだ。
私はさっき言ったことを無かったことにするように訂正をした。
「あらぁ、どうしたのかしらぁ? まさか、訂正してほしいなんて言うつもりぃ?」
「ああそうだ。訂正してほしい。今の私には権力などほとんどないからな」
「ふふふ、素直じゃないわねぇ~。でもそう言う所がかわいい❤」
ヴァッサーは私を愛でるようにそう言うと私の頭に手を伸ばし、なでようとした。私は瞬時に手で振り払った。なでようとするのを妨げられ、彼女は少しさびしそうだった。さっきまで紺色の髪の上でぴょこぴょこしていたアホ毛も、しゅんとテンションが下がっていた。
「うるさい。いいから早く教えろ。今の私は何をすればいい?」
「そうね~、アドバイスとなると……」
ヴァッサーはそう言いながら私の横に来て、そのまま、
「人間界で人を殺るしかないんじゃない?」
耳元でそうつぶやいた。と同時に、私の二の腕に胸をこすり合わせた。私は問答無用で離したが。
「私はそう言うのはあまり好きじゃない」
「それでいいの? 悪の幹部のくせに人を殺せないなんて。そんな事がばれたらアイ様に怒られ――」
「私は殺らないとは言っていない。私は特殊的に殺す方が好きだ」
「そうだったわね。それなら、良い情報があるわよぅ。聞きたい?」
ヴァッサーも思いだしたようだ。
私は物理的に人間を殺すのが好きではない。一瞬で死ぬのはおもしろくないからだ。だから、特殊的に殺すのが好きだ。苦しみながら、過去を思い出し、自分の哀れさを静かに思う人間の死に際を見るのが何とも言えない。これぞ幸福と言うのだろう。
ヴァッサーは私の事を思い出した後、情報を提供してくれると言ってくれた。罠であっても構わない。それが悪の幹部なのだから。
「ああ、聞かせてくれ」
「聞かせてあげる条件に、今週末、人間界でショッピングに付き合ってくれる?」
ヴァッサーは交換条件に、ショッピングに付き合えと言ってきた。しかも人間界の。まあいいだろう。その帰りにまた襲撃できるはずだから。
「ああ、わかった。付き合ってやる」
「ホント! なら教えてあげる♪」
ヴァッサーは嬉しさのあまり、私に抱きつき、耳元でこそこそと情報を提供してくれた。
「……わかった?」
「ああ、教えてくれてありがとう」
ヴァッサーは私に褒められて嬉しそうだ。その証拠に、長い紺色の髪と一緒にアホ毛も揺れ喜んでいる。
「今の感情ってうれしいっていう分類に入るものなのかしらぁ?」
「わからないが、入るのでは?」
私達にはこんなふうに人間の感情を真似ても、正しいのか全く分からなかった。
そう、私達、悪の幹部には感情というものがわからないのだ。