避暑に行こう! ~イリスとコタのお留守番編~
ご要望のあったイリスとコタのお留守番時のエピソードをまず書きました!
★☆の前がイリス、後がコタ視点です。
少しでもお楽しみ戴けたら嬉しいです。
空を飛び、去って行く皆さんを見送る。
その姿が見えなくなると、私はジュリアさんとレナさんに向き直った。
「それでは、改めまして。ジュリアさん、レナさん。クレハ様……ではなくて、クレハちゃん達が留守の間、どうかよろしくお願い致します。私と一緒に、留守を守って下さいませ」
そう言って、私は深々と頭を下げた。
クレハちゃんは、今朝少し、元気がなかった。
きっと留守の間の、家や畑、動物さん達の事を心配なさっているのだろうと思う。
つまり私は、そんな大切な家や畑や動物さん達を任されたのだ。
今日から数日は、動物さん達や畑の作物のお世話をするのは私一人。
クレハちゃん達が留守の間、しっかりと任された役目を果たさなくては!
私は改めて気合いを入れ、動物小屋へと向かった。
★ ☆ ★ ☆ ★
こんにちは、そして、こんばんは。
初めまして、僕はコタ。
クレハちゃんに飼われているウォンです。
僕は今、一週間前に新たにクレハちゃんの家族になったイリスさんの後について、動物小屋へとやって来ました。
クレハちゃんには、このイリスさんのお手伝いをしてあげてね、と言われています。
クレハちゃん達はさっき旅行に旅立ち、それを見送ったイリスさんは決意も新たに、張り切って動物の世話を始めました。
けれど。
世話を覚えてまだ一週間な為か、始めて一人でやる為か。
エサの干し草の量がマチマチです。
あっちは量が足りてないし、そっちは逆に量が多いし。
けれどイリスさんは気づかずにブラシがけを始めてしまいました。
……仕方ありません、ここは僕が一肌脱いで、気づかせてあげるべきでしょう。
「ウォン! ウォン!」
僕はエサ箱の前へ行き、イリスさんに向かって吠えました。
するとイリスさんは僕を見て、近づいて来ました。
「コタくん? どうしました?」
「ウォン! ウォン!」
僕はエサ箱を見て、一生懸命、吠えました。
けれどイリスさんは首を傾げるばかりで、一向にその意味に気づいてくれません。
うう……これがクレハちゃんならすぐに気づいてくれるし、ギンファちゃんなら、獣人な為か、僕の言葉をほとんど理解してくれるのに。
……仕方ありません、吠えても気づいて貰えないなら、行動を起こして気づいて貰いましょう。
僕は顔全体を使って、多いほうのエサ箱から、少ないほうのエサ箱に干し草を移しかえました。
エサ箱は隣接しあっているので、簡単に移しかえられました。
「あ……! こ、こちらの量が多かったんですか? コタくん?」
「ウォン!」
「そ、そうでしたか……! それは申し訳ありません! 以後気をつけます!」
「ウォン!」
どうやら、無事に気づいて貰えたみたいです。
良かった。
……と、思ったのもつかの間。
僕がモモ達の搾った乳を入れる銀の容器を棚に片づけて外に出ると、放牧を終えたイリスさんは畑に向かおうとしていました。
放牧スペースの柵を固定している、石を片さず、柵を開けたままにして。
これはいけません。
動物達が放牧スペースから出て、庭に、更には家の敷地の外に行ってしまうかもしれません。
イリスさんに柵の事を気づかせてあげないと。
「ウォン! ウォン!」
「え? どうかしましたか? コタく…………あああっ!?」
僕は柵の所へ行って、畑に向かうイリスさんに向かって吠えました。
イリスさんは振り返って僕を見たあと、目を見開き、大きな声を上げながら、駆け戻って来た。
「も、申し訳ありませんコタくん! 柵を閉め忘れていましたね! 教えて下さってありがとうございます!」
「ウォン!」
イリスさんは石をどけて、柵を閉めた。
そして今度こそ畑に向かうイリスさんに、僕はついて行った。
畑につくと、イリスさんは一心不乱に雑草を抜き始めた。
やがて全て抜き終えると、抜いた雑草を全部一緒くたに袋に詰めようとした。
これもいけません。
ほんの数個ですが、その中にクレハちゃんが錬金術で使う草が混じっていたのです。
「ウォン! ウォン!」
「え? ど、どうしました? コタくん? ……あっ!?」
僕は草の茎の上に足を置いて、イリスさんに向かって吠えました。
イリスさんは僕を見ると、足元の草に気づき、すぐに草を選別しました。
「あ、ありがとうございますコタくん……! もう少しでクレハちゃんの大切な材料を捨ててしまうところでした!」
「ウォン!」
こんな調子で、イリスさんは毎日ひとつふたつうっかりミスをして、その度に僕はイリスさんに向かって吠えて、フォローをしました。
そしたらイリスさんはある時から、僕を"コタくん"ではなく"師匠"と呼ぶようになりました。
「おはようございます師匠! 本日も、私に何か至らぬ点があれば、ご指導をよろしくお願い致します!」
「……ウォン……」
そう言って頭を下げるイリスさんは、尊敬する人物を見るようなキラキラとした目で僕を見ています。
おかしいです。
どうしてこんな事になったのでしょう?
僕はイリスさんのサポートをしていただけなのに。
皆が帰って来たなら、僕の言葉がわかるギンファちゃんを通じて、イリスさんとお話する必要がありそうです。
……クレハちゃんや皆、早く帰って来ないかなぁ……。