蝶が舞う
一頭の蝶がひらひらと舞っていました。とても美しい蝶でした。
その蝶に目を奪われた一人の小さな子供がいました。夢中になったその子は、周りのことなど見えなくなって蝶を追いかけました。
恋人とのデートに向かう途中の大学生は、急に飛び出してきたその子供をよけることができませんでした。子供は意識不明の重体になってしまいます。
子供の母親は、泣きながら大学生を激しくなじりました。大学生は罪の意識に耐えかね、自殺してしまいました。
彼の将来に期待していた大学生の母親は、そのショックで気力を失い、寝込んでしまいます。
そんな彼女の看病に夫は疲れ、仕事でミスをしてしまい、その結果、関連会社を一つ倒産させてしまったのです。
つぶれた会社の社長の娘は、毎日のように訪れる恫喝的な借金の取り立てに怯え、精神を病んでしまいました。
その姿を見た兄は激怒し、理性を失って、刃物を持って借金取立てを実行した暴力団の事務所に殴り込み、何人もの暴力団員を殺傷したのち、抵抗にあって絶命します。
彼が殺した暴力団員の中には、この地域での取り仕切りを行っていた顔役がいました。仲介役を失って古いヤクザと新興の暴力団との間に溝が深まり、それを火種に全国レベルの抗争となりました。
度重なる抗争に全国の警察は威信をかけて動き、鎮圧および一斉捜査が行われました。そのため暴力団と関わりのある国会議員が何人もあらわになり、議員は辞職、国会は解散へと追い込まれます。
政情不安の中、円相場は激しく変動し世界経済を巻き込んでしまいます。
景気を強引に回復しようとした某国がミサイルを発射し開戦を宣言しました。たちまちのうちに近隣諸国を巻き込み、世界大戦となってしまいました。
兵器による核の灰がまきちらされ、地球環境は激変。核の冬が訪れました。
蝶の羽ばたきが遠い世界の気候をも変えてしまうというお話。