7話 ダンジョンマスターは寝ていたい
異世界に行きたくない系の主人公って見たことないですね
まあ、そうしたら話も始まりませんけど
異世界をウキウキWatching あっちこっちそっちどっち転生♪
どうも初めまして、異世界転生業務の時間です。
本日の転生者は都内で学生をやっていらっしゃった鳴宮造さんです。
この方は死亡してからの転生ですね。
死因は……火事の中で眠りこけて死亡ってどういう事ですか……
なんかこの人と会うの物凄く不安なんですけど……
「ZZZ……」
「……」
嫌な予感的中ですよ。
何でこの人、死んだのに寝てるんでしょうか?
普通、死ぬと食欲とかそういう欲求って薄れる筈なんですけど。
とりあえず、起きて貰いましょう……
「元気一発!」
「ごほっ!?」
私が優しく起こすと、彼はすぐに起きてくれました。
何もおかしい所はありません。 いいですね?
「おはようございます。私は貴方たちでいう所の神です。鳴宮造さん、貴方は死んでしまいました。貴方には二つの道が……」
「ふぁ~、おはよう……ございまふ……おやすみ~」
「寝るな!」
「ぎゃふん!?」
魂になっても寝る事を優先するとは、どんだけ眠いんですか。
「いててて……アレ? なんかお腹が痛いような……」
「おはようございます。私は貴方たちでいう所の神です」
「神様……? ああ、夢か」
「夢じゃありませんよ~? 寝ぼけないでくださいね?」
「いてててて」
未だボーっとしている彼の頬を思いっきり捻り上げる。
おお、思いのほか頬が柔らかくてびっくりです。
「鳴宮造さん。貴方は死んでしまいましたが、実は貴方にお願いがあって特別にここへお呼びしました。貴方に異世界へ行って貰い、そこにダンジョンを作ってほしいのです」
「だんひょん?」
「はい、その世界ではダンジョンというのは魔力の生成する為の循環器であり、人間が資源を得る為の採掘場でもあるんですが……その経営はダンジョンコアがオートで行っていた為にダンジョン攻略法なる物が出回ってしまい、育つ前に発掘され尽くしてしまって枯渇状態のダンジョンが増えているんです。例えるなら地球の森林伐採状態なのです」
「ほれほ、おへになんのかんへいは?」
「貴方にはダンジョンマスターとなって頂いて、ダンジョンを経営して大きくして頂きたいんです。ダンジョンが大きくなれば魔力も増え、モンスターが増加して資源も豊富になるんです」
彼の頬から指を離し、ダンジョン経営の為のルーツを取り出します。
「スマホ?」
「いいえ、見た目は似ていますが中身はダンジョンを作る為の機能を搭載したマジックアイテムです。これがあればずぶの素人でもダンジョン経営が手軽に出来るようになりますよ」
彼に渡すと、何か考え込むようにじっと手の中のそれを見つめています。
どうやら興味を示してくれたみたいですね。
「ちなみに、経営と言ってもノルマがある訳ではありません。貴方のやりたいように自由にしてもらって構いませんが、探検者と呼ばれる人間がどんどん入って来るので、撃退しないと大変な事になりますからね?」
「……わかりました」
「ああ、やってくれますか。では早速準備を……」
「面倒臭いんでパスで」
「はぁ!?」
今なんて言いやがりましたかこの野郎!?
面倒臭いんでパスってどういう事ですか!
「異世界ですよ? 貴方が夢に見てた、剣と魔法のファンタジーなんですよ!?」
「そうですね、いつも夢に出てきてましたよ。オレもマンガとかは嫌いじゃないんで」
ガッテム! 夢に見てたってそういう意味かよ!
こうなったら意地でもこの人を異世界に送ってやりますよ!
「では、何か望みはありませんか? ハーレムを作りたいとか、女の子にモテたいとか、前世では捨てられなかった童貞を捨てたいとか」
「なんか望みが一方向に傾いてません?」
「異世界転生したがる若者なんて、大なり小なり目的はそれですよ」
彼は考え込むと、ポンと手を打った。
「じゃあ、好きなだけ寝たいんで放って置いて貰えますか?」
「なんでだよ!?」
今の手を打ったのは何ですか!?
ちょっと前向きに考えようかなって思わないんですか?
貴方が異世界に行かないと話が始まらないんですよ!
「なんだろう。今物凄く自分本位な主張をされた気がする」
「気のせいです」
しかし困りました。
彼をどうやって異世界に行く気にさせましょう……
この怠け者は……あ、そうだ。
「そういえば、一つ伝え忘れていた情報があります。ダンジョンマスターになると、ダンジョン内の魔力で体の維持を賄う為、食事や睡眠の必要が無くなります。しかも、魔力があればダンジョンコアで欲しい物が作れますよ?」
私の言葉に寝ぼけ眼だった彼がピクリと反応する。
ふっふっふっ、あと一押しです。
「つまり、難攻不落の大迷宮を作り出せば、必要な魔力がバンバン生成されて欲しい物は作り放題。しかも誰にも邪魔されずに眠り放題ですよ?」
「……ごくり」
な、なにやら物凄い顔をしてこちらを見ています。
彼の琴線に触れるような事でも言いましたかね。
「いや……でも、それは……しかし……いやでも」
なんか物凄く悩み始めちゃいましたよ。
まるで人生の最後の決断を迫られたみたいになっちゃってるんですけど。
いや、似たような物ですけどね。
「い、いき、行きま……いや、でもなぁ……」
「こう考えてください、ちょっと長い旅行をするだけだと、今死んでもあとで死んでも特に変わったりしませんよ?」
「正直面倒臭い……けど、自由な時間……ふかふかのベッドでダラダラ過ごせる時間、プライスレス……う~ん」
どれだけ寝たいんですか。
もうなんか使命を帯びた戦士みたいな責任感に見えてきましたよ。
そこから約2時間ほど悩み続けて、漸く彼は答えを出す。
「わ……かりました。いか、行かせて……貰いま……す」
「はい、それでは準備しますね」
なんかもう待ち過ぎて菩薩のような心が芽生え始めましたよ。
神ですけど。
転送の魔法陣を展開して、彼を異世界へと送る。
「それでは頼みましたよ。ダンジョンさえ作ればあとは好きに過ごして構いませんから」
「わかりました。グデグデだらだら生活の為にガンバ……りたくないなぁ」
彼の最後の言葉は、何とも不安の残る物であった。
それから彼が、入って来る者を無尽蔵に飲み込む所から“竜王の咢”と呼ばれる難攻不落のダンジョンを作り上げたのは、約半年後の事だった。
怠け者スゲー。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。