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6話 3人揃えば文殊の知恵、4人揃うと……

 蕎麦屋では専らカレー饂飩を頼む転生神である。

 本日の転生者は根倉(ねくら)(りょう)、本田(たける)秋津(あきつ)隼人(はやと)小鳥遊(たかなし)静葉(しずは)の高校生4人組じゃな。


「ようこそ諸君、ワシはおぬしらでいう所の神という存在じゃ」


「か、神様? って事はあのメールは本物だったんだ!」


 どうやら信じていなかったのか根倉(ねくら)(りょう)が顔を青ざめておるのう。

 今回の転生は、携帯電話はPCに送った《貴方は異世界へ行ってみたくはありませんか?》という胡散臭いメールを送り、同意した者をここに呼び寄せるという仕掛けじゃ。

 ちなみに何故そんな事をするかというと、1つは別の世界神からの要望で要求にあった人物を対象にする場合と、ただの営業メールのどちらかで今回の場合は後者じゃ。


「おいクソジジイ! ここはドコだ!? オレたちこんな事して、ただで済むと思ってんのか、あ゛ぁ!?」


「それは今から説明するんじゃ。全く、近頃の若者はせっかちでいかんのう」


「こんなクソジジイ……っ!」


 とは言っても、内容はありきたりな「魔王が現われて世界の危機だから助けてくれ」的な内容じゃから、画面の向こうの諸君には省略する。

 ちなみに、それを聞いた4人の反応は、根倉遼はオドオドはいておったが目は輝き、本田武は体力に自信があるのか自分が魔王を倒すと豪語し、秋津隼人は何か考えるような仕草をし、小鳥遊静葉は深刻そうな顔をして俯いておった。

 すると秋津隼人が突然ワシに向かって手を挙げた。


「すみません神様、僕たちはただの高校生ですよ? いきなり魔王と戦えと言われても、剣も握った事の無い僕たちじゃあ役者不足だと思うんですが」


「無論、その為におぬしらには幾つかの能力を渡す。まずは異世界言語を理解するスキル、見た物を判別し数値化する鑑定スキル、そして異空間に物を収納できるアイテムボックスの3つに加えて、各々(おのおの)にユニークスキルを授けよう」


「フン、オレはそんな物が無くったっていいけど、まあ、貰えるなら貰っとくぜ!」


 サポートがあると聞いて、ホッとした様子の根暗遼に、意味不明な自信を持つ本田武。

 脳筋やってて生きて行けるほど、甘い世界じゃないんじゃなぁ。

 まあ、ワシには関係ないし、注意もせんが。

 すると今まで黙っておった小鳥遊静葉が手を挙げた。


「すみません、私だけでも返して貰うって事は出来ないんですか? 私は異世界で生きて行けるか分からないですし、両親も心配すると思うんです」


「残念じゃがそれは出来ん相談じゃ。あのメールにOKした時点で同意したとみなされるんじゃ。だが安心せい、魔王を倒した時点でおぬしらにはその世界に残るか帰還する選択権を得る。そして、帰還する場合はおぬしがここへ来る直前の時間まで戻すので誰にも気付かれる事は無い」


「そう……ですか」


 すぐには帰れないと分って、ゆっくりと腕を下す。

 そこへ秋津隼人が駆け寄り、彼女の肩に手を置いて爽やかな笑みを浮かべる。


「大丈夫だよ、小鳥遊さん。何があっても僕が守ってあげるから」


「「けっ」」


 ごほん、イケメンオーラに思わず本音が漏れてしまった。

 見ると、根倉遼もこれ以上無いくらいに顔を顰めておった。

 本田武の方はやり取りに気付いてすらないみたいじゃのう。


「そ、それでユニークスキルって……ど、どんな能力が貰えるんですか?」


「そこはついてからのお楽しみ……というよりもランダムで決めるのでワシも知らん」


「チッ、つっかえねぇクソジジイだな!」


 君はちょくちょくワシをDisっておるが、ユニークスキルはランダムで決めるが質を落とす事は可能なんじゃよ?

 まあ、本田武はよっぽど良いスキルを引き当てない限り、自滅しそうなので放って置くがな。


「か、神様! 僕のユニークスキルをこういうのにできませんか?」


 根倉遼がユニークスキルについて、そんな事を言い出した。

 見るからに気弱で、そんな事を言い出すとは思わんかったから驚きじゃ。


「ふむ……は? そんなスキルがよいのか? ハッキリ言ってもっと良いスキルが沢山あるぞ?」


「いえ……僕って弱いし、表立って戦うなんて苦手だし怖いから。こういうスキルが良いです」


 うむ……正直、こんなスキルを欲しがるとは思いもせんかった。

 まあ、ランクは中くらいじゃから他にもスキルを付けて釣り合いを取ればよいか。


「まあ、そういう事なら構わんよ。正直それで魔王を倒せるとは思わんが頑張ってみよ」


「はい、ありがとうございます!」


 あの目、こういう状況になった時の事を考えて、用意しておったな。

 普通ならば思春期の妄想で終わる所が、叶える場を得たという訳か。

 意外に適応能力は高いみたいじゃな、ただそれで生き残れるかはわからんが。

 そんな事をボンヤリと考えていると、そのやり取りを目敏く見ておった本田武が騒ぎ出した。


「おいおいおい! ユニークスキルってのは選んでいいのかよ! じゃあ俺も選ぶぜ。俺はチマチマしたのは好きじゃねぇから、とりあえず最強にしろ」


「無理じゃ、彼の要望は容量が軽い内容だったので許可したんじゃよ。それにユニークスキルにそんな便利なもんなありゃせんよ」


「じゃあ、ソイツの浮いた分を俺に回して、スゲェの付けてくれよ」


 こやつは何を言っているのだろうか?

 それは既に作ってしまった器を大きい物に作り直せと言っているような物じゃぞ?

 粉々に砕こうが器を作り直せる訳があるまいし、そんな要求初めて聞いたぞい。


「そんな事は出来ん、個々のキャパシティは決まっておるから、足りないからと余所から持って来ることなんぞ出来んわ」


「ハァ!? ふざけんなよっ! 何でこんな根暗のは通って、俺のは無理なんだよ!」


「例えるなら、そやつは千円で六百円の物を買おうとしているだけじゃ。対しておぬしは千円で十万円の物を寄越せと言っているようなもんなんじゃよ」


「だったら、他の奴らからも奪えばいいだろ!?」


 コイツと会話をしていると頭が痛くなってくるのう……

 何故そういう発想になるんじゃ。


「そんな事は出来ん、これは個々の魂の問題じゃ。例えとして通貨を出したが、魂は通貨の様にやり取りは出来んのじゃよ」


「じゃあ、どうすれば俺は最強になるんだよ!」


 何故最強になる事が前提なのじゃろう。

 正直、そういうのを作ると世界のバランスが崩れるから、寧ろ討伐対象にしなければならないんじゃが。


「そもそもようぅ! お前が俺に世界を救ってくださいって頼んでんだろうがっ! だったら俺が気持ちよく救えるようにすんのがお前の仕事だろうがっ!」


「ちょっと、本田君。神様に向かってそれはあまりにも失礼だよ」


 秋津隼人が本田武を(いさ)めようとするが、その態度が気に入らないのか寧ろ火を注ぐ形となってしまう。


「うっせんだよ優等生ぶりやがって! 俺はテメェみたいなスカした野郎は気に入らないんだよ!」


 参ったのう……

 これ以上、4人の仲が悪くなると世界を救う所の騒ぎでは……そうじゃ!


「それではこうしよう、今からおぬしら4人を別々の場所へと送る。おぬしらはそこで地道に強くなるなり、一足飛びで最強を目指したり好きにするがよい。ただ一つ、魔王を倒してさえくれればな」


「ハッ、良いね。で? 魔王を倒したら特典とかあるの?」


「……魔王を倒せば文字通り英雄じゃ、そうなれば欲しい物なんぞ向こうからやって来るぞ?」


 ワシの言葉に気を良くしたのか、本田武はニヤリと笑い満足そうに頷く。


「乗った。コイツらといたら足を引っ張られそうだしな!」


「それでは行き先を武の国、魔導の国、技術の国、盗賊都市の4つの国から選ぶがよい」


「盗賊都市だ。俺はそこへ行く」


 本田武は真っ先に選び、魔法陣が展開され消える。

 残された3人は不安そうに顔を見合わせた。


「ぼ、僕はどうしよう……」


 騒いでいた本田武や秋津隼人とは違い、根倉遼と小鳥遊静葉は話の展開に付いて行けていないようじゃのう。

 お互い、現状を把握するので背一杯そうじゃ。


「ねぇ、2人さえ良ければ、僕たち3人は一緒の所へ行かないかい?」


 秋津隼人の提案に2人は驚いて思わず、彼の顔を見る。

 なるほど、そこに気が付いたか。


「構わないですよね? 4つの国にそれぞれいかなければならないという制限はないようですし」


「別に構わんよ。おぬしたちがそれで良いならな」


 2人は特に意見も無いらしく無言で頷き、ワシは魔法陣を展開した。

 しかし、まさか咄嗟にそこまで考えているとは思わないが、恐らく秋津隼人は何かあれば3人が一緒にいる事(・・・・・・)を利用するつもりじゃな。


 3人を見送りながら、秋津隼人の考えたシナリオが起らない事を願った。


最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。

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