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2話 デスマーチから転生

「自分の小説は絶対に面白いんだ」なんで自惚れはいけませんが、自分が書いた物なんだから、自分くらいはその小説を認めないといけないと思います……

何が言いたいかというと……今からでも引っ込めたい……

 一度でいいから見てみたい、勇者がアイテム隠すとこでお馴染みの転生神です。

 前回、同僚がくっ付いて行っちゃったらしいですね。

 ちなみに我々転生神は、中枢にメインの転生神がいて、その部下として私のように直接転生者に会う転生神(分体)がいるので、どんなに減っても次からボコジャカ作れるのでああいう事態でも問題なく対応できます。

 引っこ抜かれて、転生神に付いて行って、今日も書類を運んで、転生先の世界神との面談をして、転生者を送って……食べられはしませんけどね。


 さて、今日の転生者は……鈴木太郎氏、30歳です。

 死因は……あ~、職場で仮眠を取って、そのまま過労死ですか。

 こういう時は、本人起こさずに赤ん坊にでも転生させた方が色々と楽なんですよね。

 正直、このパターンで死んだ人との面談って暗いんであまり気が進まないんですけど……


「……あれ、ここは何所だ? ああ、まだ夢の中か。だったら早く目を覚まさないと、納期があと2時間しかないんだ……」


「残念……残念? うん、残念ですがこれは夢じゃありませんよ」


 寝直そうとする彼を起こして、いつもの様に説明に入ろうとして、思い留まりました。

 そもそも彼はこれが50時間ぶりの睡眠であり、恐らくちょっとやそっとじゃ起きないであろうことは明白。

 ならば無理に起こさずに、元冒険者の両親の子供にでも転生させた方が良い気がしてきた。 いや、良いのである。


 という訳で今の内に異世界転生マニュアルについてお話ししましょう。

 異世界転生マニュアルとはズバリ、転生対象者の死因に対応して発行される異世界転生の手引きですね。

 『その日に死ぬ運命じゃなかった主人公が、お詫びに異世界転生する』というのもその一つです。

 だって自殺した人間に「死んだのはこちらのミスで、君は今日死ぬはずじゃなかった」なんて言われたって、信じられないでしょう?


 さて、異世界へ転生するのには3通りの方法があります。

 1つ目は、そのまま転生するパターン。 これは肉体も記憶もそのまま送ればいいので、我々も割と楽に転生できます。

 2つ目は赤ん坊で転生させるパターンです。 この場合、妊婦の中にいる赤ん坊に魂を

移す為、担当する異世界神が物凄く面倒臭いんです。

 3つ目は異種族への転生。 獣人やエルフは勿論、モンスターへの転生なんかもここに入ります。 まあ、前の2つに比べたら滅多にやりませんよ。 どういう精神構造をすれば、人間がモンスターになって生活できるんでしょう。


 今回の方の場合は2つ目になります。

 大体の場合、両親は領主や元冒険者の場合が多いです。

 これは将来、冒険者などになる時に知識を得やすい環境に置く為の処置です。

 昔一度だけ農村の子供として転生させた事例がありましたが、村の代表までで満足されてしまい、その世界の魔王は急遽用意した別の方に退治して頂きました。

 今考えれば、朝から晩まで働き詰めの農民では、よっぽど勤勉な方じゃない限り知識を蓄える機会も、能力を鍛える時間もないですもんね。

 事実その方も、子供の頃から前世の記憶を使って村を豊かにしようとしていましたが、子供は大人の言う事を聞いて居れば良いと相手にもされず、成人するまで何もできなかったようですし。


「うう……んあ?」


 おや、そうこう言っている間に目を覚ましちゃったみたいですね。


「おはようございます。私は貴方たちで言う所の神です。貴方は度重なる疲労が重なり、睡眠に入ったと同時に心筋梗塞で死亡いたしました。貴方には2つの選択肢が……」


「まだ夢の中か……。まあ、過労死する夢なんてたまに見るし、女神が出てくる夢だってオタク趣味なら珍しくないだろ。早く起きなきゃ……」


 そう言ってまた寝直そうとするので、(らち)が明かないので叩き起こす事にします。

 ぶっちゃけ、1人で説明だけって見る方もだれますが、やってる方も辛いんですよ。


「残念ですが、これは夢でありません。起きてください……起きなさい……起きやがれくらぁ!」


「ぐふぉ!?」


 何故か彼は、くの字に体を丸めて咽ています。不思議ですねミステリー。

 漸く目も覚めたようなのでサクサク行きましょう。


「……そうか、俺死んじゃったのか。あ~、仕事の引継ぎは誰が……アイツはまだ来たばかりだし、あの人は他にも仕事を3つも抱えてるから……ダメだ、俺がいないと……」


「非常に残念ですけど、死んじゃった物は仕方ないんです。諦めてください」


「えーっと、じゃあ何で俺はここにいるんだ?」


「てすから、転生ですよ異世界転生。貴方も漫画やネット小説を見て知ってるでしょう?」


「ああ、もう何年も見る暇もなくって、部屋に積んでるけどな」


 彼の世界の労働基準ってどうなってるんでしょうね。

 まあ、この仕事も割とブラックですけどね。

 やってるのは実質転生神(メイン)一人ですし、寧ろ分体(アバター)を作って働いているので更に倍ですよ。


「細かい所は省略しますが、転生先の異世界は所謂中世のヨーロッパ辺りをイメージした良くある剣と魔法の世界です。そこへ貴方は前世の記憶を保持したまま、赤ん坊として新たな人生を歩む事が出来ます。但しここでのやり取りは色々な都合上、消去させて頂きますが。さて、どうなさいますか?」


「じゃあ、前世の記憶を全部消去してから適当に転生させてください」


「なんで!?」


 事もあろうに今までの私の説明を全無視した返答が帰ってきましたよコンチクショウ。

 しかし女神の私は慌てません。

 こういう事も予想済です。対策済みです。ただ仕事が増えただけです……くすん。


「な、何故ですか? 前世の記憶を持ったままもう一度人生をやり直せるんですよ? チート能力も付いちゃうんですよ? 人生イージーモードなんですよ!?」


「だって、前世の仕事の事が気になって仕方ないし、正直今から赤ん坊をやり直すって正直シンドイ……」


 それはごもっともです。

 しかし、ここで退いては転生神の名が廃ります。

 何としてもこの方を転生させなければ業績が……いえ、物語が始まりません!


「でしたら、3歳くらいまで記憶を封印する事も可能ですよ? 離乳食が始まって、オムツが取れた頃に記憶を蘇らせればそういう思いはしませんよ?」


「いや、そもそもそういうのが面倒臭いから」


 おかしい……ここへ来る人は多かれ少なかれこういう事に前向きな人が送られてくる筈なんですけど、この方は何故ここまで拒むんでしょうか?


「でも、こういう事に憧れていなかったんですか? そういう望みがあったからこそ、貴方はここへ送られてきたんですけど」


「ないって言うと嘘になるけど……下手すりゃ精神的に両親が年下になる訳で、上手く行って幼馴染とかと付き合ったりしたら年齢が倍以上違うんだぞ? 俺はロリコンじゃないしなぁ」


「大丈夫ですよ。精神は肉体に引きずられますから、好みだったらちゃんと反応してくれますって」


「や、そういう話じゃないし、というか女神がそういう話していいのかよ」


 そんな80年代のアイドルじゃあるまいし、女神だってトイレに行きますし、鼻穿りながらビールカッ喰らって屁だってこきますよ。


「それに人生イージーモードですから、色々と好きな事できますよ? 冒険者になって色々な町を回ってもいいですし、学校に入って魔導を極めても構いません。貴族の仲間入りをして血にドロの争いを繰り広げてもいいですし、村を作ってもいいんですよ?」


「でも、俺運動とか苦手だし」


「大丈夫、その辺も転生特典で成長限界突破が付きますから、赤ん坊の時から魔法の練習をしても全く問題ない体になりますよ! 3歳からハードな修業を始めても壊れる事は全くありません!」


「そこまで言うなら……」


「やってくれますか!」


「止めようかな」


「Why!?」


 クソ! ここまで言ってもダメなのか!?

 ていうか今傾きかけたやん! やってみようかなって顔してたやん! 何が不満なんや!(憤怒)


「だってモンスターとかと戦うんだろ? 向こうで言えば生身でゾウとかと戦うのと一緒じゃないか。無理無理、怖い」


「魔法とかありますって! 離れて戦えば怖くないですよ!」


「それは向こうも同じな訳で……」


 ここで私は、なぜこの男が“異世界に行く気は満々なのにこんなにごねるのか”その意図に気が付いた。

 そもそも私は腐っても神である。

 ここに来た相手の経歴や趣味などのプロフィールは本人が覚えている以上に知っている。

 それは当然、“この人が異世界に行く気があるか?”という物も含まれる。

 そして、間違いなくこの男は異世界に行く気が『ある』のだ。

 この男は待っているのである。 私が更なるチートを与えようとしているのを。


「ど、どうしたんだ?」


 私が疑いの目を向けると、彼は明らかに動揺した。

 そしてその反応は、私の疑念を確信に変えたのだった。

 そうと分れば全力で行かせて貰おう。


「それではこうしましょう。前世の記憶は3歳から、両親は元高ランクの冒険者で、剣と魔法の天才で、可愛い幼馴染やメイドの子も周りに付けます。専用の伝説級武器も上げましょう!」


「そ、そこまで言うのなら、やってみようかな~」


 思い通りに要求が通り、笑いが抑えられないのか、そっぽを向きながら、本当は嫌だけど仕方なくやってやるという態度を崩さない。

 言っててなんですけど、男のツンデレって見苦しいにも程がありますよね。


「じゃあ、承認という事で構いませんね?」


「ああ、やってくれ!」


 私は色々なオプションを付けるよう操作して、最後に“設定リセット”を押して基本転生セットのみにしてから転生を開始させる。

 うわー、操作間違えたわー。悲しい事件ですね!

 ぜひ前世の記憶を保持したまま、年下の美人なお母さんにオムツとか取り換えられて、おっぱいを飲ませて貰ってくださいね!


「それでは良い異世界ライフを!」


 良い事をした後は気持ちがいいですね!


最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。

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