12話 転生せよ、黄金勇者!
(´・ω・`)人から注目されると、それだけ厄介事が多くなります
異世界転生で主人公たちが目立ちたがらないのも、余計なトラブルを引き込みたくないんでしょう
まあ、大概は常識外れな行動をとって結局目立ってますけどね
最初に奴を見た感想は『地味』だった。
長過ぎず短過ぎない髪型、整っているでも醜いでもない十人並みの顔立ち、中肉中背で背丈も170cm程度と平均的。
服装は大人しい目の冴えない感じの服装。
性格も自己主張が苦手で、状況に流されるタイプとハッキリ言って勇者とかをやるのは無理だと思ったのじゃ。
「適当に選んだとは言え……これはまた、凄いのが来たのう……」
彼の来歴を見る限り、どんな強力なチート能力を持たせても、隅っこの方で細々と冒険者をやって、静かに暮らすのが目に見えている。
一体どうした物やら……
「あ、あの……?」
「うむ、妾はお前たちで言う神なのじゃ。山田一郎、貴様は本日12時37分に死亡してしまったのじゃ」
「あ、はい。そうですね」
この状況で普通に受け答えしているのが凄いのか凄くないのか……判断に困るのう。
「普通であれば、このまま魂は浄化され赤子として新たな人生に転生する……筈だったんじゃが、お前には特別にもう一つの選択肢が用意されたのじゃ」
「せ、選択肢?」
「うむ、簡単に言ってしまえば、死亡した人数がお前で丁度キリ番になったんで、その特典として、今のお前がそのままに所謂ファンタジーな異世界へ転生できる選択肢ができたのじゃ」
「て、転生?」
奴がゲームや漫画などにハマっているのは調べがついているのじゃ。
しかし、奴は突然そんな事を言われて戸惑っているみたいじゃのう。
今までだと、この世代の人間にこれを告げると幼子の様にはしゃぐんじゃが。
「勿論、今のお前が異世界へ行っていきなりモンスターと戦ったりできるとは思っておらん。そこでお前に特別に向こうでもやっていけるように能力をくれてやろう」
ここで然も特別かのように言うのがポイントなのじゃ。
これによって特別扱い感が出て、転生者のやる気が大きく変わってくるのじゃ。
「えーっと、よくあるチートって奴ですか?」
「うむ、その認識で違いはない」
流石、そういう物を嗜んでいる輩は話が早いのじゃ。
前に全くそういう物を触れた事が無い者を相手にした事があるが、理解してもらうまでに随分時間が掛かったのじゃ。
「何か、転生するに当たって望む物はないのか? あまり強すぎる物はやれんが、ある程度は融通できるのじゃ」
「と、突然そんな事言われても……思いつきませんよ」
「何かないのか。英雄に成りたいとか、異性を侍らせたいとか、自分の国を作りたいとか!」
「いや……僕、目立つのとか嫌いだし……」
困ったのう……
今回の世界は、所謂ゲームをベースにした世界を創造したらしいのじゃ。
ゲームの様に冒険者などに、自分の作ったダンジョンや魔王を攻略して貰いたいというのが、今回の要望なんじゃよ。
その為にゲームを嗜んでいる若者を対象に選んだのじゃが……正直、失敗している気がしているのじゃ。
最近の若者は基本的に目立ちたくないらしく、異世界に送っても目立たないように行動する人が多いのじゃ。
まあ、行動自体が既に常識外れなので結局目を付けられる羽目になるんじゃがな。
世界神の要望もあるし、出来れば英雄的行動を取ってくれると嬉しいんじゃが……このままじゃ無理そうじゃのう……よし!
「ならばこうしよう。六面に能力を書いたダイスを振り、出た目の能力をお前に付加してやるのじゃ」
そう言って妾はダイスを奴に差し出した。
六面にはそれぞれ芸能神の加護、黄金王の加護、雷槌神の加護、太陽神の加護、大蛇神の加護、悪戯神の加護と書かれている。
ちなみにここに書かれている能力はチート能力とは全く関係なかったりする。
奴には既に異世界言語スキル、魔法・武術の才能のスキル、鑑定スキル、アイテムボックススキル、成長限界突破、スキル取得などの能力を別途で付けてあるのじゃ。
「……分かりました。じゃあ……」
奴がダイスを受け取り、放り投げた。
ダイスが地面を跳ね、カラカラと音をたてながら転がっていく。
やがて勢いが落ちて、一つの面が出た。
そこに書いてあった能力は……
「『黄金王の加護』じゃな。能力としては装備している道具の強化、あと金運も少し上がるのじゃ!」
「おお、それは嬉しいです。正直、お金を稼ぐとかやったことないですし……」
「基本はお前が知っているRPGと変わらんのじゃ。冒険者なら依頼を受けて熟し、商人なら商品を安く仕入れて高く売れる所へ持って行く。まあ、チート能力を持っているお前なら冒険者が一番やり易いと思うのじゃ。基本、来る者は拒まずで種類も豊富なのじゃ」
「は、はあ……」
今一乗り切らない返事をする。
まあ、奴の性格を考えれば仕方ない事が、もう少しリアクションが欲しいのじゃ。
「そ、そうだ。向こうのお金って貰えるんですか?」
「金? まあ、街に入る時などは税として納めなければならないから、少しは渡すがそれがどうしたのじゃ?」
「だったら向こうで遊んで暮らせるだけのお金をください。そうすれば、人と関わる事無く、余計なトラブルとか巻き込まれずに済みそう……!」
彼はどれだけ目立ちたくないんじゃろうか。
そういうのが流行ってるのか?
「残念ながらそれは出来んのじゃ。あくまでやるのはアイテムかスキルのみと決まっておるのじゃよ」
「そうですか……」
奴ががっかりした様子で項垂れる。
言われるまま渡していたら、恐らくどこかへ引き篭もって出ないつもりだったのじゃろう。
「安心するのじゃ。良識の範囲内の行動を取っていれば、そう目立つ事は起こらないのじゃ」
「そうですか……そうですよね。生前だって誰かに気にされた事ってなかったし」
こやつはサラリと重い事を言う。
「それでは転生の準備が整ったので、異世界へ送るのじゃ」
妾は魔法陣を奴の足もとに展開する。
奴が魔力の光に包まれる。
「それでは期待しているぞ? 勇者殿」
「アハハハ……ボチボチ頑張ります……」
力の無い笑みを浮かべながら奴は異世界へと旅立った。
そういえば何か忘れているような……?
[黄金王の加護]
・自分の装備している武具に『黄金に輝く~』を強制的に付加する。
・若干お金回りが良くなる。
・自分の噂が広まり易い。 また隠していてもどこからか漏れてしまう。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。