番外2‐1 ああ、我が家の転生神様っ!風雲編 『茶谷透流の場合』
(´・ω・`)今日は子供の日です
鯉幟って、大きい真鯉がお父さんで小さい緋鯉が子供たちなので、父子家庭なんですよね
お母さんは空に昇らず、滝を登って竜になったんでしょうか……?
今回は第1話の転生後の話です
※ネタバレ:転生神はヒロインですがデレません
「冒険者め! よくも我が魔王城をこんな姿にしてくれたな!」
魔王城から現れた怒り心頭の魔王を前に、元転生神である私は頭を抱えていた。
それは彼是、半年ほど前まで遡る。
何でも1つ望む事が出来るという転生のオプションで、茶谷透流は何故か私を選んだ。
確かに美少女である私を選ぶのも仕方ないとは思う。
しかし、私は誘拐犯の変態男に簡単に好感度を上げるほど、チョロくなければヒロインのつもりもないです。
「はぁ、思春期真っ盛りの覚えたて猿のような男と一緒とは……身の危険度MAXです」
「ハッ、そんなセリフはもう少し胸を大きくしてから言うんだな! 俺はそんな絶壁に興味ないね!」
私の呟きに対して、茶谷透流が滅茶苦茶失礼な事を言ってきた。
現在、我々は冒険者の町と呼ばれている場所にいます。
ここは低レベルのモンスターの群生地が近く、低級の冒険者でもレベルを上げやすいのでそう呼ばれている。
この世界に転生される者は大体まずここに召喚されるのだ。
全くデリカシーの無い茶谷透流に、私は大きく溜息を吐いた。
「私のこれは無駄が無いスレンダーな体系です。あんな脂肪でしか価値が図れないとは、全くマタンキの小さい男ですね。恥ずかしがり屋で引き篭もっているんですか?」
「か、被ってねぇよ!」
下手に動揺するとは怪しいですね。
まぁ、そんな情報に一片の興味もないですけど。
しかしこれからどうしましょうか。
コレを奴隷商に売っても、頭の悪い変態もやし男なんて二束三文で買い叩かれるのがオチですし……
「なんかスゲェ酷い事を言われた気がするんだが……それより、突っ立ってないでさっさと行くぞ」
「行くってどこへですか? まさか、連れ込み宿へ引き込む気じゃあ……やめて。 酷き事するつもりなんでしょ。エロ同人みたいに」
「しねぇよ!? 無表情で変な事言ってんじゃねぇよ! こういう場合、まず冒険者ギルドに行って冒険者になって身分証を手に入れるのが先決だろうが! 今の俺たちは不法入国者同然なんだからな! ついでにそこへ行けば仕事だってあるだろうよ」
なるほど、頭が悪い癖に知恵は回るんですね。
どうせラノベとかから得た知識を披露されるとムカッとします。
「どうせラノベとかから得た知識を披露されるとムカッとします」
「煩いよ!? 間違ってないからいいじゃないか!」
煩いのでさっさと冒険者ギルドへ向かいましょう。
ギルドは町の中でも結構大きい建物で、すぐに見つかりました。
登録時に水晶のマジックアイテムでスタータスを確認するようで、表示されたステータスを見て騒がれましたよ……私が。
当たり前ですよね。
何せ私は元とはいえ転生神で神様な訳で、そこら辺のオタクとはレベルが違うんですよレベルが。
次に茶谷透流が登録した時は、現代社会に浸かり切った貧相なステータスに受付の女性も苦笑いしていました。
まあ、元神である私の後ではどんな人も霞んでしまうでしょうけどね。
「どうです? これが私の実力です。崇め奉りなさい」
「無表情なのにドヤ顔がウゼー」
失礼な、これは立派なキャラ付けです。
無口・無表情キャラって90年代アニメには必ず一人はいるほどの人気キャラだったんですよ。
全く、変態オタク男だけでは人気が取れないから、私が体を張って作品に花を添えようと努力しているのに、この男は何も考えてないんですね。
何で生きてるんでしょう?
「貴方、何で生きてるんですか?」
「突然なんだよ。急に哲学的な質問だな」
「いえ、貴方の様な変態男が良く恥ずかしくもなく、表で息を吸っていられるなぁと思いまして」
「思った以上に辛辣なお言葉!?」
「過剰なリアクションが鬱陶しいです。それより、これからどうするんですか? お金もないので宿だって泊まれませんよ?」
「任せとけ。こういう時は自分が持ってる物を売って金に変えりゃあ良いんだ」
ありきたりですね。もう一度言います。ありきたりですね。
まあ、綺麗な紙とかシャーペンとか売ろうと思えば売れますけど……
「貴方、コネとか無いのにどうやって売るつもりですか?」
「ふっ、まあ任せとけって!」
暫くして、私たちはこの地域の領主のお屋敷から出てきました。
彼の手には金貨が入った袋が握られています。
こちらを見るドヤ顔が気持ち悪いです。
「こっち見ないでください。ドヤ顔が気持ち悪いです。仲間だと思われたら恥ずかしいじゃないですか」
「酷ぇ!? でも、これで活動資金は手に入っただろ?」
全くこの人は詐欺師とかの才能があるんじゃないでしょうか。
冒険者に登録して、まず彼が向かったのは道具屋でした。
そこで彼は、何故か持っていたビー玉と引き換えに少々のお金を手に入れました。
さらにその店で珍品を買ってくれそうな好事家を紹介して貰い、貴族相手にボールペンや腕時計などを言葉巧みに売り付けました。
道すがら拾った石までおまけで売りつけた時は感心しました。
「よし、これで当面は宿に泊まれるが……問題はその先だ。ただの学生だった俺が冒険者として大成できるとは思えない。だから今はコツコツ資金を貯める!」
そう宣言して次の日に、1度は冒険者としての活動を体験しようという事で、着ていた学生服を売ってこの世界の服を買い、余ったお金で装備を整え、割と稼げるモンスター討伐依頼を受けて町の外へ出かけました。
そこで待ち受けていたのは……
「ウギャー! こっちくんな!」
「こっちに来ないでください! トレイン行為は犯罪ですよ!」
現在、私たちはいつか説明を省いた毛玉こと『ムクムク』の群れに追われています。
このムクムクというモンスターは、見た目は毛玉のように真ん丸で大変愛らしい容姿をしているんですが、その中身は殆どが分厚い皮膚と硬い筋肉で構成されていて、ぶっちゃけソフトボール並みに硬いんですよね。
その上、警戒心が強い癖に縄張り意識が物凄く強いので、自分より弱い敵には縄張りから出るまでガンガン体当たりをかましてくるんですよ。
相手の方が強い場合は巣に隠れて全く姿を現さないんですけどね!
「はぁ……はぁ……はぁ……俺、もう無理ウボォ!?」
「あー!? しっかりしてください! 貴方が倒れると被害がこっちに集中……ぐほっ!?」
ああ、乙女らしくない声を上げてしまいました……ついでに腹部を強打して乙女汁まで出ちゃいそうです。
その後、女の子でも涙が出ちゃう特訓ような状況が続きながらも、一日かけて5匹のムクムクを狩る事に成功した。
しかし、代償には似合わぬ成果だったので、報酬は安いが暫くは採取依頼を熟して行こうと決めたのでした。
そんな事を1月ほど繰り返している傍らで、茶谷透流は何やら道具屋に足繁く通っていました。
と言っても、大通りにある冒険者たちが利用する店ではなく、ちょっと離れた道具屋に物を下している鍛冶屋にですが。
毎回、道具屋の主人に色々話を聞いてはメモっていたのは知っていましたが、ここ最近は部屋の隅でコソコソ内職もしていたようですね。
何故そんな事を知っているかというと、宿では1人部屋を2つ借りるより、2人部屋を1つ借りた方が安く付いたからです。
まあ、お金を稼いだのは彼ですし、着替えの時にチラチラと覗く程度は許してあげましょう。
いつもの様に朝起きて準備をしていると、茶谷透流がニヤニヤと気持ち悪い笑顔を浮かべながらこちらを見ていた。
「なんですか? 気持ち悪い笑顔でこっちを見ないでください。気持ち悪いですね」
「気持ち悪いって2回も言った!? いあ、そんな事より荒稼ぎの第一弾が完成したんだよ!」
よっぽど自信があるのか、鼻息を荒くして興奮している彼が気持ち悪い。
「ああ、そうですか。それよりギルド行ってきますね。ソフィアとクリスも待っているでしょうから」
ソフィアとクリスとは、この一月で出来た私の仲間である。
ソフィアは珍しいエルフの冒険者である。
魔法が得意なエルフである彼女は、最上級職である高位魔術師として実に多彩な魔法を操る。
ただ、人との会話が極端に不自由な方なので、人形を挟まないと話せないのが難点ですね。
まあ、同僚にも似たようなのがいたので、困りはしてませんが。
クリスは銀狼系獣人のパワー型剣士です。
獣人は生れながらの戦士ですから、彼女もその例に漏れず、前衛として頼もしい限りです。
ただ……なんでしょう、言葉の端端に高貴さと言いますか、世間知らずな面がありますね。
……確か銀狼って獣人の中でも王族の家系だった気がするんですが、友達の好で気にしません。
そんな2人ですから、冒険者になった途端に騙されて借金を背負わされてしまいます。
あわや奴隷にされる間際になって、この変態男が借金を肩代わりしたんです。
2人ともこの変態男の毒牙に掛かり、ソフィアは一族のペンダントを、クリスは形見のナイフを借金の方として奪われ、無理矢理に仲間として活動させられています。
ただ時折、変態男を見る2人の視線がおかしいのは、私の目の錯覚ですよね絶対。
「まあ見てくれって! 金儲けの第一弾、魔導ライターだ!」
そう言って自信満々に取り出したのは、タバコの箱サイズのジッポだった。
見てくれオーラが鬱陶しいので仕方なく中を開けると、ジッポの様に火を点ける綿が入っていて、その脇には小さな魔石が付いていますね。
恐らく、握ると魔石で火を起こして綿に火を点ける仕掛けなのでしょうね。
「構造としてはとても簡単な物ですね。魔石も廃棄品の屑で出来ますし、発想としては悪くないんじゃないですか?」
「ふふん、そうだろう、そうだろう!」
「ですが、ここで残念なお知らせです。この手の魔道具は既に製品化されています」
「……え?」
当たり前じゃないですか。
だってあなた程度の頭でも思い付く事なんですよ?
しかも、この世界には時々異世界人も来ていますから、ちょっと手先が器用ならば同様の手口で儲けようとするに決まっているじゃないですか。
「確かに火はよく使うので家事でも重要ですから売れるでしょうね。逆に言えば似たような製品が考え出されるのも早いという事です」
「クソッ! 俺の発想をパクった奴がいたか……」
寧ろあなたがパクってるんですが……それは。
一旦は肩を落として落ち込んだように見えた彼が、ガバッと顔を上げてニヤリと笑う。
どうでもいいですが、その笑顔が気持ち悪いです。
「だが、これだけではない! ならば次段、鉛筆だ!」
「ああ、鉛筆ですか……しかしこれ、ちょっと心が太くいないですか?」
彼の作った鉛筆は我々が良く知る物よりも太く、大体2mmほどもあった。
まさか失敗作を出したわけじゃないでしょうが少々不格好ですね。
「それは仕方ない。何せこっちには綺麗な紙ってないから、木簡とかに書こうと思うと俺たち基準じゃ芯がバキバキ折れるんだ」
「なるほど……それにしても鉛筆の作り方なんて、良く知ってましたね」
「ポディマハッタヤさん、トニー=ゴンザレスさんはよく覚えてるからな!」
なんとまあ懐かしい名前が出てきましたね。
でもアレって、90年代の世代しか知らないんじゃなかったでしたっけ?
「でもこれ、木の板と黒鉛と粘土があれば簡単に作れちゃいますよね? すぐに真似されますよ」
「当たり前じゃないか。だから最初にドカンと売る! 特に未だに羽ペンとか使っている情報を書き残したりする冒険者なんかは重宝すると思うし、売り始めて価値に気付けば文字を扱う職業にバカ売れ間違いなしだ!」
自慢げな顔が鬱陶しいです。
しかしなるほど、これは商人たちも買うでしょうね。
ただ最初に全力疾走で後が続かないと思うんですけど。
「言いたい事は分かってる。そんな事をしても、後から真似する奴の方が資金も人もあるだろうから大量生産されるだろう……だから、第2弾第3弾も考えてある」
流石、セコイ金儲けには定評のある変態オタクですね。
たまに夜中にスライムゼリーを片手にこっそり抜け出して、手ぶらでスッキリした顔になって帰って来ている事を弄るのは止めて置いてあげましょう。
あ、でも右手で私に触らないでくださいね。穢れます。
後編に続きます
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございます