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10話 SNEG

 本日も始まりました転生業務の時間です。

 今回の転生して頂く方は、北郷(ほんごう)大和(やまと)様でございます。


「本日は御出で頂き誠にありがとうございます。私は貴方たちで言う神という者です」


「え、ちょっと何? ハロワに来て住み込みの仕事があったから来てみたら、担当のオジサンが土下座し始めたんだけど、って言うか神様?」


「はい、私は異世界へ送る転生神をしております」


「うん、とりあえず椅子に座ってくださいよ。話は聞くからさ」


「ありがとうございます……!」


 さて、何故転生神である私がここまで彼に(へりくだ)るのかというと、それは彼の能力が必要な異世界があるからである。

 探し続けて早10年、これ以上過ぎたらその世界が崩壊仕掛かってしまうという瀬戸際で漸く彼を見つけたのだ。

 ここは何としてでも、彼に異世界へ行って貰わなければならない。


「ええっと、それでこの『剣と魔法のリアルな世界の製作現場助手を募集。長期間、住み込みのできる方、未経験者歓迎。月給30万+歩合』って本当ですか?」


「ええ、本当ですとも。やって頂けるんですか?」


「ええ、まあ……仕事にも困ってた訳ですし」


 本当に助かった。首に皮1枚繋がった。

 これであそこの世界神にせっつかれなくて済むぞ!


「それで……現場の助手って一体何すんですか? 一応、体力には自信はありますけど」


「ええ、それはこれから説明いたします。まずは場所を変えましょう」


 私はそう言って彼と椅子と机を白い部屋、通称神の間まで転送する。

 彼は突然の出来事に声も出ないようだ。


「え……え? どこ、ここ」


「ここは神の間、異世界へ転生する者を見送る場所です」


「異世界へ転生? というか、神様って本当だったのか」


「信じて頂けましたか? それでは次に貴方にやって頂きたい仕事とはズバリ、とある世界を救って頂きたいのです」


 その言葉でこの状況を理解したのか。

 彼の肩から力が抜けるのが見えた。


「あ~、良くあるファンタジーって奴? ネット小説とかで見るけどまさか現実に自分に降りかかるとは思わなかったなぁ。それって俺じゃないとダメなの?」


「はい、北郷様でなければこの世界の危機は救えません」


「なるほど……よし! 俺だってそういうのに憧れない訳じゃないし、やってやるぜ!」


「ありがとうございます!」


「それで? 俺は一体何をすればいいんだ? 魔王とか倒すの?」


「いえ、そうではありません」


 そう、この世界は確かに人口が減り続け、滅亡の危機に陥っているが、魔王が出たとかそういう単純な話ではなかった。


「貴方にやって頂きたい事、それは……」


「それは?」


「この世界で、ハーレムを作って頂きたいのです!」


「……うん、俺の耳がおかしくなったのかな? 良く聞こえなかった」


「ハーレムを作って頂きたいのです!」


「聞えなかったって言ってるだろ!?」


 そう、彼には異世界へ行って多くの女性を囲って貰い子供を作ってほしいのである。

 それは十数年前まで遡る。

 突如として、その世界のあらゆる人型種族で雄が生まれなくなったのである。

 その世界の神も最初はそのうち生まれるだろうと楽観視して、気にも留めていなかったのだが、その数年後、年頃の男性が次々と原因不明の病で死んでしまい、ベッドの上で発見されるようになる。

 何故そうなったのか、原因を調べても分からず、気が付けば男性が全人口の1/3まで減少していた。

 それに慌てた世界神は、苦肉の対応策として他種族と交わる素質のある男性を異世界から連れて来ることにしたのだ。


「そして、その素質を持つ者こそ貴方様なのです!」


「どこの成人向けゲームの設定だそれは! ご都合主義にもほどがある!」


「確かに! 平民ですら何故か、容姿が美しい女性ばかりという美少女ゲームのような状態ですが、しかし現実なのです! 我々も何故そんな事になったのか皆目見当もつかないんですよ!」


「だからって……ゲームならまだしも現実じゃ無理でしょ」


「そこはチート能力をふんだんにつけるので乗り越えてください」


「チート能力ありゃいいって話じゃないでしょ……というか、それなら俺じゃなくても」


「いいえ、これは能力というよりも素質、素養の問題なのでチート能力をいくら使っても他の人では意味がありません。それにこんな事、元の世界じゃまずありえませんよ? 世界の女性があなたが独占できる可能性がありますし。人族、獣人、亜人、妖精族、魔族などあらゆる種族もいますしね」


「クソッ! 心が揺れ始めている俺がいる……だが、こんな事できる訳が」


「それにご両親に大見得切っていましたよね? 無職のままで帰れるんですか?」


「……行かせて頂きますっ!」


 快諾して頂けてとても助かりました。

 早速、転生の準備に入りましょう。

 まずは肉体強化と魔力強化を行いましょう。 これは基本です。

 次に精力の強化、恐らく生成無限にでもしないとすぐ枯れ果てる恐れがあります。

 次に全種の魔法をスキルとして習得、これは移動時間の短縮や護身、他にも必要な事もあるでしょうから詰め込みます。

 異世界転生の基本能力も忘れずに付けましょう。

 こ、これだけやれば大丈夫でしょう。


「終わりました……これで貴方はほぼ全ての生物に負けないでしょう。不老も付けておきましたから80代ぐらいまでは20代の姿のままで居られますよ」


「おお、ありがとう! なんか悪いなぁ、そんな凄いチート能力なんか貰っちゃって」


「コレくらい大した事ありませんよ。(こっちも貴方に限界まで生きて貰う為に必死なので)」


「ん? なんか言ったか?」


「いえいえ、何でもありませんよ~。では、異世界へ送る準備をしますね~」


 転送の為の魔法陣を展開した所で、ある注意事項を思い出した。


「そうそう、草原にいるエルフを見かけたらすぐに逃げてくださいね」


「エルフ? エルフってあの耳の長い? アレって森にいるんじゃないのか?」


「ええ、所謂エルフは森に住んでいるんですが、その原種族と呼ばれる種族は草原の狩猟民族なのですよ。その特徴は女性しか生まれない事、故に彼女たちは草原を掛けながら異種族の雄から精を貰って子供を作ります」


「へぇ、あれ? でも、なんで逃げなくちゃいけないんだ? 見た目がオークみたいなのか?」


「いえいえ、皆美め麗しい美人ばかりですよ。ですが、人数が人数ですからね。薬学に長けた彼女たちは雄を見つけると薬を盛って、ほぼ枯れ果てるまで搾り取るんですよ。お陰で彼女たちが通った後には草の根一本残らないとまで比喩されます」


「……待ってくれ、エルフのイメージが音を立てて崩れそうなんだが」


「元々、森にいるエルフは彼女たちの先祖が森に入り、枝分かれしたと言われています。外敵の少ない森に入ったため、気性の荒さはなくなりましたが、森のエルフも結構大変ですよ? 寿命が長いので人口を調整する為に禁忌的な行為とされていますが、一度火を点けると大炎上しますよ」


「壊れた、今俺の中のエルフのイメージが完全に粉砕されたよ」


 そもそも、現在のエルフのイメージも割と近代になって生まれた物ですけどね。

 本によってはオラウータンのようなエルフもあったようですよ。


「ちなみに獣人も普段はそんなに心配はいりませんが、発情期になると男性の間では“大災害”なんて呼び方がされるほど、悲惨な事が起こるのでその時期は獣人の村に行くのは止めておいた方が良いですよ。具体的に言うと襲われます」


「何なんだよその世界!」


「凶悪なモンスターが人里の近くで生息しているような世界ですよ? そんな世界の住人が弱いわけないじゃないですか」


「正論だけど何かが間違っている!」


「あとドワーフも最近流行りの幼女タイプですが、絶対決闘には応じず、また相手の武器を奪う事や破壊するような事は絶対にしないでくださいね」


「一応、どうしてか聞いて置く」


「ドワーフ達はご存じのように職人気質で自分たちの作った物に誇りを持っています。特に自分専用の武器は命と同じぐらい大切にしています。それを奪われるという事は相手に自分の全てを捧げるという意味になるんです。ですので、決闘などで武器を破壊した場合、漏れなく幼女ドワーフが奴隷になります。但しそこに命令権も何もないですけどね」


「それじゃあ、ただの押し売りじゃないか……!」


 中には男性の数が減って居る所為で、気に入った相手を煽り、決闘に持ち込んで仕込みを入れた武器を(わざ)と破壊させて、押しかけるパターンも増えているようですね。


「他にも魅了系の魔法が得意な人魚族や幻惑系が得意な魔族、状態異常系が得意な妖精族にライフラインを握っている普人族にも気を付けてくださいね」


「それって全部が危険って事じゃないか!」


「あ、準備が完了したので転送しますね」


「待って! 不安な気持ちのまま俺を飛ばさないで!」


 彼の悲痛な叫びも虚しく、一度動き出した魔法は止まらず、彼を異世界へと転送したのだった。

最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。

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